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「今日も良い天気だな」



毎朝恒例の校庭掃除。
大分手慣れて来たもので、手際も随分と良くなった。
いつもと同じように掃除を進める。
唯一違うのは服装。
伊織さんに作って頂いた服を着て掃除を行っている。
気分はとてもノリノリだ。

部長会議の日でもあるためか、こんな早朝でも生徒がチラホラと登校しているのが見える。
全員が全員、極制服を着た生徒で、実力がある人達なんだなぁ、と他人事のようにそれを見つめる。

そんな事を考えながら掃除を続ければ、仲良く登校してきた男子生徒二人組の会話が聞こえてきた。



「なあ、喧嘩部の勢い凄くねえか?」

「ああ、もう何個の部がやられたか数え切れねえよ…」

「この調子で行くとアイツ等あっという間に二ツ星になるな」



そうか。

ふと手を止める。

このまま行くと、本当にマコちゃんや流子ちゃんに会う機会がどんどん減っていくんだ。
ただでさえ、そんなに会えない二人と最近やっと仲良くなってきて、その途端これだ。

何を言ってる。
喜ばしいことじゃないか。
マコちゃんと流子ちゃんがより良い生活を送れるようになるんだ。
二人もそれを望んでる。

口をキュッとしめて、ゴミ袋をまとめ焼却炉へと走った。


校庭掃除も終わって、今日やるべき仕事場へ向かっていたとき、何かとぶつかった。
ボーッとしていたのか、全然気付かず、慌てて意識を戻せばそこには先生がいた。
学校内でのダルダルモードだ。

慌てて離れ頭を下げて謝罪する。
先生は手を振りにへらと笑って許してくれた。

顔をあげて先生を見つめる。
その時思い浮かんだのは、全裸になったあの時の事。
羞恥で逃げ出したくなるが、そうじゃない。そこじゃない。
慌てて首を振って意識を変える。

もっと別の事があるだろう。



「先生、あの…」


「…ちょ〜ど良かった、ちょっとこっちの汚れが酷い所があってねぇ、掃除してくれると、有難いんだけどねぇ」


先生のサングラスの奥の瞳が少し右斜め上を向いた。
そちらにチラリと目だけをやれば、そこには監視カメラ。

状況を理解して先生についてく。
恐らく向かう場所はあの場所だろう。








19








「前髪、切ったんだね」


あの忌々しい思い出のソファに座って先生と向き合う。
目の前の窓枠に優雅にもたれ掛かる先生はいつの間にやらイケメンモードになっていて服がとても開放的になっている。
まだ上半身だけだから耐えられる。

前髪の指摘に「はあ」と答えるしかなくて、少しだけ前髪を触った。
前髪は切ったが後ろ髪は伸びっぱなしのゴワゴワだ。少し恥ずかしい。


「聞きたい事があるんだろう?」


モジモジしていた私を見兼ねたのか先生が助け舟を出す。
これを逃してはならないと思い、真っ直ぐに疑問をぶつけて見ることにした。



「先生は、その、私の力の事、知ってたんです、ね」



静寂が流れる。
真っ直ぐ過ぎただろうか。
もう少し遠回しに聞いていくべきだったか。
反応がない先生を見つめながらいろいろ考えだす。
ダメだ、お腹が痛くなってきた。

先生は暫くの静寂の後、ゆっくりと口を開いた。


「知っていた、というより…気付いた、という方が正しいかな」



やはり。
そうだった。
だからあの時制服を着せられたのか。

肩をすぼめて言う先生はそのかっこいい顔で私を真っ直ぐ見つめる。
あまりの格好良さに思わず目をそらしてしまった。
前からガタと音がして慌ててそちらを向けば目の前には先生。
あまりの近さに驚いて身体が固まる。
顔がとても近く、顔の両横に手をつかれて逃げ場がない。
壁ドンならぬソファドンだ。

体験したことないこの状況に私はただただ顔が赤くなるのみで変な汗が出てくる。
目の前の先生は不敵に笑って私を見つめる。


「なら、此方も単刀直入にいこうか」


そう言ってさらに顔を近付ける先生に思わず息が止まる。
顔が熱い。
心臓が煩くて死んでしまいそうだ。
冷や汗も止まらない。



「君のその力、僕達の…いや、全人類のために、使って欲しい」



意味がわからなかった。
顔が近い事なんてどっかに行ってしまい、「は?」と素で聞き返してしまった。

それを見て先生はフッと笑い離れる。そして再び窓枠に戻った。
私はただそれを見つめる。


「君は鬼龍院皐月が…彼女達が何をしようとしているか、知っているかい?」


そんなの、知るワケがない。
皐月様はただ普通に生徒会長としてこの学園の全てを仕切ってるだけではないのか。
首を横に振れば、先生は真顔になり私を見つめる。いつもにはないその雰囲気に思わず身体が震えた。


「全人類生命繊維化計画。つまり、生命繊維で人類を支配すること」


より意味がわからなかった。
生命繊維で支配?全人類を?
何を言っているんだ。
生命繊維は皆が着ているじゃないか。


「君のその力は、それを阻む大きな力になる。だから今すぐこの学園から…鬼龍院皐月の元から去るべきだ」


頭がパンクしそうだ。
先生は先程から何を言っているんだ。
皐月様が、あの皐月様がそんな事するわけないじゃないか。
だいたい生命繊維で支配ってどうやって?
皐月様は、私の正体を知っても、受け止めてくれた人なのに。
なんでそんな事を言うんだ。
冗談でも言って良いことと悪いことがある。

ソファから立ち上がる。
先生は私を見つめるが、それを睨み返す。
そして、ドアに向かって歩く。


「このままでは君の身が危ないと言っているんだ!」


先生が少し声を荒げた。
どうして私の身が危ないのだろう。
私は普通に皐月様にお仕事を頂いて働いているだけ。昨日だって普通に掃除をした。何が危ないというのだ。
こんなにも恵まれているというのに。

私は足を止めて先生に向き合う。
先生は眉間に皺を寄せて私を見つめていた。
その顔に私は目を伏せる。
そして前を向いた。




「…ごめんなさい、私には理解できません」




そう言って頭を深く下げてその場を後にした。
頭の中に変な引っかかりを残したまま、私は掃除場所へと戻った。





「…まだ早かったか」


頭を抱えて、一人溜息をつく男。美木杉愛九郎。
彼は大きく溜息をついてソファへと腰をかけた。

彼女が掃除役員として雇われたのを知った時は頭が真っ白になった。
紬の協力を経て、生徒会室の様子を遠くから見ていたが、あれは完璧に彼女の力が知られてしまったと見える。

昨日は難なく掃除を終わらせたようだが、これからどうなるか分からない。
もしかしたら今日にでも何かしら彼女に被害が及ぶかもしれない。

監禁、実験、上げればキリがない。

彼女に何かあってからでは遅いのだ。
彼女は大きな戦力。
この世界唯一にして対生命繊維の身体を持つ人間。
失うワケにはいかない。

なんとしてもヌーディスト・ビーチで彼女を保護せねば。

携帯を取りだす。

数少ない仲間、赤トサカの彼の番号にかける。
次なる手を打つために。





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