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「ふふ、新しい服」


帰り道。
伊織さんが作ってくださった服が入った鞄を抱きしめて道を歩く。

明日からこれを着れると思うと心が踊る。
メイドのようでとても恥ずかしいけれど、新しい服っていう喜びと、何よりわざわざ私なんかのために作り直してくれたことがとても幸せで仕方がない。

本当にお礼を言っても言い尽くせないくらいだ。

しかし、今日は本当に醜態を晒してしまった。
でも、それを晒したのと引き換えに得たものはとても大きい。
皐月様にはとても失礼な事をしてしまった。
だから謝らねば。
勿論、四天王の方達にもだ。
会えたら謝罪しよう。

そう心に決めて歩いていれば、前方から少年。彼は下を向いて歩いているようで此方の存在に気付いていないのか私に向かってくる。
当たらないようにそれを避ければ、少年はいきなり私の方へ脚を縺れさせ転んで来た。
とっさにそれも避ければ少年はバッと顔を上げて素早く立ち上がり此方を指差した。


「っ、そこは普通受け止めるモンだろうがべらぼうめ!」


鼻を打ったのか、鼻血が出ている。
見た目は小学生だろうか。おでこにサングラス、破れた服に少し痛んだ状態で伸びた黄土色の髪。

この子、見た事ある。
確か、一話で流子ちゃんにスリ行為をした…。

出来の悪い頭で一生懸命思い出していれば、後ろからブオッと何か大きな物が飛んできた。
いや物ではない。者だ。


「くぉら!又郎!!またそんな事して!小学校はどうしたのよ!!」

「いでででで!!姉ちゃん!いてぇ!!」


マコちゃんだった。

ああ、思い出した。
確か弟の又郎君だ。

誰かを思い出してスッキリし、暫く続く二人のプロレスをとりあえず見守る。
マコちゃんプロレス技沢山知ってるみたいだ。

そろそろ止めなければと思った時、後ろから声が聞こえた。


「マコ、名前が困ってるだろ?」


苦笑しながら私の隣に立った人、流子ちゃんは、プロレスを続ける二人にそう告げる。
以前見た時より、元気そうで安心した。でもまた怪我をしている。

マコちゃんは流子ちゃんの制止を聞いてかプロレスをピタッとやめて又郎君の目の前で仁王立ちをする。
普段の行動から、こんなお姉ちゃんの姿もあるだなんて誰が思うだろう。
良いお姉ちゃんだなぁ。

そんなマコちゃんは此方を向きにぱっと笑顔になる。
その笑顔は即座に驚きの表情に変わり私の顔を両手で鷲掴んできた。
頬のお肉が寄って口がムニュッとなる。


「名前ちゃん髪切った!?うんうん!そっちの方が断然良いよー!あの髪とても長かったもんね!」


マコちゃんの言葉に流子ちゃんが私の顔を覗く。
彼女はニッと笑って「うん!そっちの方が良いな!」と言ってくれた。
可愛いしかっこいい。流子ちゃん反則だ。

「そうだ!名前ちゃん!ウチで晩御飯食べて行こう!!又郎が迷惑かけちゃったみたいだし、何より失恋の痛みを解消させるは髪を切る事だけじゃないんだよ!」


いつの間にやら、私の断髪の原因はマコちゃんの中で失恋のせいと決めつけられたようだ。
マコちゃんの勢いに否定も出来ず、助けを求めるように流子ちゃんを見れば「あきらめろ」とでも言うように静かに首を横に振った。

マコちゃんに手を引っ張られ半ば駆け足で、私は初めてマコちゃんのお家にお邪魔する事になった。







18







「そうか、失恋か!そいつぁ残念だったな!食え食え!食ってクソして寝て忘れちまえ!」

「ごめんねぇ、こんな物しかないけれど沢山食べてね」

「なんだよ、姉ちゃんと流子のアネキの友達だったのかよ!早く言えよな!」

「あれ?どうしたの?名前ちゃん!なくなっちゃうよ?」


アニメでわかってはいたのだが、正に食卓は戦場だった。
大量のタワーのように重なっていたコロッケは次々と掃除機のように吸われて消えていく。
流子ちゃんを見れば、流子ちゃんも掃除機とまではいかないがモグモグとご飯を食べている。

しかし、これが何だがよく分からない物を刻んで揚げたコロッケ。
要所要所から何か飛び出している。
これはミミズでは?

流子ちゃんがドン引きした顔をしたのもわかる。

しかし、せっかくご馳走になっているのだ。
有難く頂こう。

一つ手に取って口に入れる。


「っ、美味しい…!」

「でしょ!?ウチの母ちゃんのコロッケは宇宙一なんだからー!」


マコちゃんの言葉にウンウンと浸すら頷く。
実際にとても美味しい。

何より、とても温かい。
温かいご飯に、家族と食べる食事。
久々だった。
家族を思い出した。

思わず涙ぐむが、それを何とか抑えて食事を続ける。
本当に美味しい。
夢中でご飯を食べた。


「ごちそうさまでした!」


全員の食事が終わり、好代さんの食器洗いを手伝い、私は家に帰る事にした。
本当は「泊まっていけ」と言われたのだが、このままここにいると本当に泣き出してしまいそうなので丁重にお断りさせて頂いた。
しかし、夜道は危険だということで流子ちゃんとマコちゃんが家まで送ってくれることになった。
本当に二人は優しい。

夜道を三人で歩く。
特に会話はないが、マコちゃんが先陣切って前の方で良く分からない歌を歌いながら歩いているのが聞こえた。
その直ぐ後ろで流子ちゃんと並列して歩く。


「で、実際の所、いきなり何で前髪切ったんだ?」


いきなり尋ねられた。
突然の質問に戸惑い、口を濁す。
四天王との関わりがあると知ったら流子ちゃんはどう思うだろう。

私の顔を見た流子ちゃんは爽やかに笑って、それ以上追求はして来なかった。

やっぱり、この子はとても優しい。

でも、その優しさに甘えてはダメなんだ。


「…あの、今日、私、皐月様に、掃除役員として採用されたんです」


そう言うと流子ちゃんは一瞬ピクリと動いたが「そうか!おめでとう!」と笑顔で祝ってくれた。


「…そこで、いろいろ、怒られまして、その、えと、自分を、変えたくて、前髪を切ったんです、そしたら、四天王の方が、整えて、くれて」


そう言って、恐る恐る流子ちゃんを見れば、彼女は優しい顔で此方を見てくれていた。

皐月様の言う通りだ、喋ってみなければ分からない。
こうして、流子ちゃんは優しい顔で私を見つめてくれている。


「なんだ、四天王の奴等もたまには良い仕事すんじゃねぇか。
名前の今の髪、すげぇ似合ってるしな」


そう言って無邪気な笑顔になる彼女のなんと愛おしい事。
流子ちゃんの大きさに胸が締め付けられる。
このまま、自分がトリップした人間でこの力の事を言ってしまいたい。
きっと彼女はそれも受け止めてくれる。
けれど、今日皐月様にこの事は口外することを禁止された。

だから、言うワケにはいかない。

ふと、以前、怪我した流子ちゃんと出会った時の事を思い出した。
あの時、私は弱くて、流子ちゃんに気を使わせてしまった。震える私に「関わるな」と優しい言葉をくれた。
あの時の自分の情けなさは、良く覚えてる。



「…あの、流子さん」

「ん?」



無邪気な笑顔を止めて、私の呼びかけに優しく答えてくれる流子ちゃん。
ちゃんと顔を此方に向けて、次に出る私の言葉を待っている。

私も流子ちゃんの顔見て、向き合った。

強くなるんだ。



「…私っ、もう、震えないからっ…!」



そう言えば、彼女は足を止めて私を見つめた。
止まった彼女を見て、私も合わせる。
流子ちゃんは少しだけ目を見開いて此方を見つめていた。
思わず、彼女の手をギュッと握る。

彼女の手は、とても温かい。前と変わらない。


「私っ、流子さんみたいに、強くないし、マコさんみたい、に、真っ直ぐじゃない…!
でも、次は、ちゃんと、この手を握り返すから…!」



流子ちゃんは、私の言葉を黙って聞いてくれている。
言葉足らずな私をずっと見つめてくれている。

握る力がより強くなる。



「だからっ、関わらせてっ…くださいっ…!」



なんと勝手で自己満足な言葉だろう。
私の独りよがりと言っても過言ではないこの言葉。
それでも流子ちゃんは一瞬目を見開いた後、口を緩ませて、思い切り最高の笑顔を向けてくれた。
言葉こそなかったが、それは私にとって最高の返事だと、そう思った。

暫く二人で手を握り合って笑い合っていると、流子ちゃんの膝がガクリと折れた。
いきなりの事にビックリして、慌てて手を離し流子ちゃんの様子を伺う。


「悪ぃ、な、なんかいきなり足に力が入らなくなってよ…」


貧血か何かだろうか。
1分程座っていたが流子ちゃんは再び元気よく立ち上がる。
心配で暫く座っておくように促すが、流子ちゃんは「大丈夫大丈夫」と笑って再び元気よくマコちゃんの後を追いかけた。
本当に大丈夫だろうか。



「名前ちゃーん!早くー!」

「名前いねぇと家わかんねぇだろー!」



二人の呼ぶ声に思わず顔が綻び、先程の心配など何処かへ行って慌てて二人を追いかける。

いつかこの力の事やトリップの事を伝えれたら、と思いながら二人に合流した。

すると、マコちゃんが途端に口を開く。


「あ!そうだ!!
聞いて聞いて!名前ちゃん!!私達!今度一ツ星に昇格したのー!」


突然の朗報に思わず目を見開いた。
慌てて何度もおめでとうを告げればマコちゃんは照れ臭そうに頭をかく。
本当に良かった。
マコちゃんの生活もこれで少しは楽になるんだ。
流子ちゃんも嬉しそうにマコちゃんを見つめている。


「それもこれも全部流子ちゃんのおかげだよー!!」

「何言ってんだ。マコが部長として頑張ったからだろ?」

「ぶ、部長…?」


意味が分からなくて首を傾げれば、流子ちゃんは「ああ、悪い」と言って本能字学園の部活制度を説明してくれる。

本当に実力者社会の学園なのだと改めて認識した。

そんな私があの皐月様に働く許可を得れただなんて本当に奇跡に近い。
しかし、あれだけの部活がある学園で、どんな部活を立ち上げたと言うのだろう。部活もいうからにはそれなりの功績を上げねばならない。
運動部だったら全国大会優勝、文化部だったらコンクールに入賞、とか。
どれもこれも人数がいてこそ成り立つ物が圧倒的に多い。

しかし、聞いた所部員は二人。



「その、部活って…」

「ああ!喧嘩部ってんだ!片っ端から他の部活の奴等に喧嘩売ってそれを私がぶっ倒す!これが部活内容だな!」



なんて乱暴な。
しかしそれでいてとても分かりやすい。
それで流子ちゃん少し怪我をしていたのか。
膝に残っている擦り傷を見て少し心配になった。

一ツ星。
つまりはその生徒専用のマンションに引越すということ。
つまりマコちゃんと流子ちゃんはここから去るのだ。

それを考えると少し物悲しい気持ちになったが、二人のこの嬉しそうな顔を見たらそんな気持ちは何処かにいってしまった。
二人が幸せならそれで良いじゃないか。


無事、家に到着する。
私の家の様子を見た流子ちゃんは黙って何も言わずあまりのオンボロさを見つめていた。
マコちゃんは「ウチと一緒だね!」と言って笑いかけてくれる。
本当にこの二人は優しい。

夜も深いということで、二人を招きたかったのだが、明日に備えて二人は家に帰って行った。
帰る時に「次は家に泊まってねー!」とマコちゃんが元気よく手を振ってくれる。
それに嬉しくなりながら見えなくなるまで見送って、私はおとなしく家へと入った。







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