「あははははは!」 笑われています。 蛇姫様に。 それはもう彼此5分は。 人間、その場のノリで髪の毛を切ってはいけない。 私の前髪は今見事なまでにパッツンになっています 「あんた、前髪、似合わなっぶはっ」 なんて酷い。 ここまで笑われるとは思ってもみなかった。 蛇姫様は私が勢いのままに切った前髪を見てひたすら指をさして笑う。 猿投山さんと伊織さんは真顔で見つめ、犬牟田さんはスマホで私を撮り、蟇郡さんは腕を組んで見守る。 蛇姫様だけに私の姿がツボに入ってしまったようで、ずっと笑われているのだ。 私の覚悟が早くも崩れそう。 蟇郡さんが、ある程度見守った後私に近寄る。 私が蟇郡さんの極制服をバラバラにしてしまったせいか、彼は今上半身裸で、私の最大級の癒しとも言えるその豊満な雄っぱいを曝け出しているのだ。 近づいてくる蟇郡さんの雄っぱいに私の目線は釘付けになる。 「ハサミを貸せ」 蟇郡さんはそう言うと私からハサミを預かり私に座るように促した。 おとなしく地面に正座する。 それを満足そうに見た蟇郡さんは私の向かい側に座り、私の前髪を触った。 予想以上に優しい手つきに思わずドキッとしてしまう。 「大人しくしていろ」 蟇郡さんは私の前髪を整えてくれるようで、見た目とはギャップのあるその器用さに思わず胸がときめいた。 何より、雄っぱいが近くにある。ヤバイ。 ジョキ、ジョキ、とハサミが髪を切る音が聞こえる。 目を閉じてそれを耳にする。 蟇郡さんにこうして髪を切って頂けてるだなんて夢のようで、無駄に胸がドキドキして煩い。 「ふむ、こんなものか」 「あら、蟇君器用じゃなぁい」 「へえ、本当だ。 というか、君の目を初めて見たよ」 「やはり、前髪は邪魔だったな」 蟇郡さんが切ってくださり、四天王の方達が私の顔を見ようと集まる。 こう、美人とイケメンに囲まれると、恥ずかしくなってしまう。 鏡がないため今自分がどうなっているかは分からないが、蛇姫様の笑いが止まっているということは、全然おかしくないのだろう。 流石は蟇郡さんだ。 「ありがとうございます」と蟇郡さんに向かって言えば「ウム」と頷いてくださった。 とても照れる。 「さて、僕は裁縫部へ戻るとするよ。蟇郡の制服を作り直さないといけないからね」 伊織さんが、溜息をつきながら服を翻し 立ち去られる。 仕事を増やしてしまって大変申し訳ないことをしてしまった。 立ち去られる伊織さんに頭を下げてせめてもの謝罪を向ける。 四天王の方達にも頭を下げて、掃除を再開しようと箒を手に取る。 今日までには生徒会室をピカピカにせねば。 すると、ガシッと犬牟田さんに首元の服を引っ張られる。 思わず変な声が出てしまった。 「おっと、君にはまだ実験が残っているよ」 眼鏡が変に反射して彼の目が見えない。 実験とはなんだ。 言葉の意味合い的に全然いいものではなさそうな気配がするのだが、今の私には逃げ道はないと見える。 ![]() ![]() ![]() ![]() 「なるほど、これで生命繊維のバラバラになる時間が分かったよ」 「はあ…」 何回も生命繊維入りの布を握ったり被らされたり、いろいろ実験された。 なかなかの疲労感に思わず溜息をついてしまう。 すると、犬牟田さんはしゃがみ込み、私と目線を合わせた。 「それにしても、別世界の人間か。汚さ以外を比べたら大して僕達と差はないようだね」 汚くてすみません…。 恥ずかしくなってしまって思わず顔を反らす。 やはり私は汚いのか。 箒を握り締め溜息をつく。 実験も終わったようなので掃除をしなくてはいけない。 犬牟田さんに軽くお辞儀をして、掃除を再開する。 バタバタしてしまったから床を履き直しだ。 ザッザッと箒で床を履く。 「蟇郡。極制服の修理が完了した」 「む、伊織、すまんな」 声が響く。 声の主は伊織さんで早くも極制服の修理を終えたようだ。 なんて仕事が早い。 伊織さんから預かった極制服を着る蟇郡さんを見て、雄っぱいが封印されてしまった、と思ったのは秘密だ。 伊織さんに、恐る恐る近寄る。 謝罪をせねばと、そう思ったからだ。 「あの、お仕事を増やしてしまって、すみませんでした」 身体を直角に曲げて精一杯の謝罪。 相手からは一つ溜息が漏れ、私に顔を上げるように促してきた。 ゆっくり顔を上げれば目の前には綺麗に包装された私の極制服。 思わず固まった。 「あ、あの、私、極制服は、着れなくて」 そう言えば、伊織さんはまた一つ溜息。 だって、これは極制服だ。 私が着たらまたバラバラになってしまう。折角の綺麗で可愛い服がバラバラになってしまうのはあまり見たくない。 「そんな事は分かっている。 この服は生命繊維が一切含まれていない服だ。君にも着れるだろう」 伊織さんによって包装が破られる。 そして私の右手を掴み、そのまま服に触れさせた。 暫く様子を見たが服はバラバラにならず、綺麗なままそこにある。 嬉しくて涙が出そうになった。 「何かあれば言うといい。服関係の事なら力になろう」 伊織さんはそう言い残して立ち去られる。 その後ろ姿にまた私は深く頭を下げた。 新しい服。 嬉しくてたまらなくてギュッと服を抱き締める。 本当に感謝してもし尽くせない。 暫くそのままでいると、後ろから声。 この声は蛇姫様だ。 「ちょっと、さっさと掃除しなさいよ。バイトらしく給料分の働きを見せなさぁい」 蛇姫様のそのお言葉に確かにその通りだと思い、慌てて箒を握り直した。 頂いた服を自分の鞄に丁寧に詰めて、掃除を仕切り直す。 視界がクリアだ。 世界が違う。 物理的にも精神的にも良く見えるこの世界を生きていく。 今度こそ、本当に、私は強くなる。 「ああ、そうだ、一つ、君に言っておく必要があったよ」 犬牟田さんがふとパソコンに向かいあっていた顔を上げて、私を見つめる。 改まって言うものだから一体なんなのだろうかと思い犬牟田さんに向き合う。 ポーカーフェイスな彼は表情だけでは何を考えているか読み取れないのがとても厄介だ。 もしかしたら、先程の実験で何か別に分かった事があるのかもしれない。 そう思って思わず背筋が伸びる。 ドキドキしながら犬牟田さんの言葉を待った。 「君、下着はちゃんとサイズの合ったものを着て貰わないと困るな。僕のデータに間違いが合っては困るんだ。僕が見た時よりも2cmほどサイズが上がっ「うわぁああああ!!!!」 思わず箒を相手に向かって投げた。 相手はそれをなんなく避けて「パソコンに当たったらどうする」とケロリとした顔で告げた。 なんだこのデジャヴ感。 近くで猿投山さんがクシャミするのが聞こえた。 Top |