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私は今、縛られています。
縛った犯人は蟇郡さん。突起のついた鞭で逃げれないように縛られソファに座らされてる状態。

皐月様に刀を突きつけられた私は、恐怖で何も言えず泣き出してしまった。
あまりにも泣きじゃくる私に皐月様は刀を納め自分の席へと座り、私を見つめる。


「どうやら、貴様にも何が起こったか分かっていないようだな」


顔色を帰変える事なく呟く皐月様をぐしゃぐしゃの顔で見つめれば、皐月様は優雅に紅茶を飲んでいらっしゃった。

皐月様の仰る通りで、私は自分が何をしたのか全く理解していない。
何が起こったのかさっぱり分からないのだ。

俯けば、パソコンのキーを弾く音が聞こえた。
ひたすらにカタカタと音が鳴りやまない。
すると、肩あたりの服をぐいっと引っ張られる。其方を慌てて向けば目の前に犬牟田さんの顔。
余りの近さに変な声が出てしまった。


「ふむ、極制服がバラバラになるにも関わらず、君の着るその汚い服は何ともない。実に不思議な現象だ」


人差し指と親指で私の服の素材を確かめるように擦りあげる。
それに便乗して伊織さんも私の背中あたりの服を同じように摘み確かめ始めた。
そして数秒確かめた後、手を離し口を開く。


「犬牟田、この服の素材はただの合成繊維だ。何の変哲もない、ただの服のようだ。生命繊維も含まれていない」

「そうか…、つまり、生命繊維の含まれた服のみがバラバラになったと…」



二人の会話にひたすら耳を傾ける。
そんな、変な現象が何で私に起きるんだ。
意味が分からなくてまた俯く。

何故こんな事になったのか、一生懸命思いあたる事を考えるが思いあたる節が全くない。
普通にご飯食べて生活してきたのだ。

二人の会話を聞いてか猿投山さんも便乗して私の背中当たりの服を摘み確かめている。小さく「ポリエステルが多いな」と呟いたのが聞こえた。
何で分かるんだ。








16









「彼女の極制服は彼女が着たらバラバラになり、更には蟇郡の着ていた服も彼女に着せた後にバラバラになった。
しかし、彼女のただの服は、なんともない」


そう言って犬牟田さんは、パソコンを打ち込みだした。
それを聞いた伊織さんが一切れの布を持って来る。
その布を犬牟田さんが預かり、私の肩の服の上に布を置き暫く見守る。
そして、ある程度見たかと思えば、次は私の手に布を握らせた。
瞬間、今までの服と同じようにバラバラになる布。
思わず目を見開いた。
犬牟田さんはそれを見て満足そうに頷き、再びパソコンに向かう。


「思った通りだ。
皐月様、軽くではありますが、彼女についてデータをまとめました」

「話せ」


皐月様がそう仰ると前の大きな画面に、
犬牟田さんが作ったデータが映し出される。
画面には服と人のピクトグラム。
人には私の写真が付いていた。


「結論から言うと、彼女、苗字名前は、どうやら生命繊維の活動を停止させる力を持っているようです」


淡々と説明する犬牟田さんに全員が耳を傾ける。
私も自分に何が起こっているのか理解するため、前を向いて犬牟田さんの言葉を待つ。


「その発動条件は彼女の肌に直接生命繊維を触れさせる事。原理は不明ですが、彼女に触れた途端、生命繊維が綻び崩れていく」


説明に合わせて画面が動く。
私に触れた服がバラバラバラになり、生命繊維を表したであろう線がボロボロと崩れていく。


「そして、それには時間が生じるようです。二ツ星極制服と三ツ星極制服、この二つを比べてバラバラになる時間が異なるのが監視カメラの映像を見て分かりました。恐らく生命繊維の量に合わせて時間ぎ変わるものだと思われます。
その異なる時間についてはまた後日ご報告させて頂きます」


「ああ、ご苦労」



皐月様はそう仰り、立ち上がる。
そして私に近寄り改めて私を見降ろした。
迫力がありすぎて、逆に視線を反らせない。

無意識に震える身体に気付いてしまい、
少しでも強くあろうと口をキュッと結ぶ。それでも涙が出てしまった。


「問題は、貴様がその力をどうやって手に入れたかだ」


私を見ながら皐月様が呟く。

凛々しいお顔が私を睨む。
正に蛇に睨まれたカエル状態。

一生懸命思いあたる節を探すが、やはり見つからない。
今までと変わった事と言えば下着くらいだ。
一瞬この下着のせいか、と考えたが違う。
先生と紬さんの時はこの下着を持っていなかった。

足りない頭をフル回転させて考える。
分からない。分からない。

知恵熱でも出てしまいそうで、頭がクラクラしてきた。
それを見た犬牟田さんが一つ溜息をつき、パソコンを打つ手を止めて此方を見やる。



「どんなあり得ない事、訳が分からない事、悲科学的な事でもなんでも良い。自分の身に起こった事を話してくれ」





頭のフラつきが、一気に弾けて飛んだ。

瞬間、私に起こった「訳が分からない事」が頭の中を占めた。


私はこのアニメの世界にトリップしてきた、と言う事。



私は、ここの世界の人間じゃない。
トリップしてきた人間だ。

この世界で唯一存在する生命繊維という存在。
この世界の人間だからこそ着こなせる存在。

私は着こなせない。
何故なら、この世界の人間ではないからだ。

これしかない。
私が生命繊維を壊せる理由は、これしかない。

しかし、なんと説明したら良い?
いきなり「私はこの世界の人間じゃない」と伝えたところで「ふざけるな」「頭がおかしい」と頭を殴られるのがオチ。
私だってそんなこと言われたらそうする。
だから今まで誰にも言えず、一人この世界を生き抜いてきたのだ。

訳が分からない事どころではない、とんでもなく訳が分からない事なのだ。

言ったところで、理解してもらえるわけがない。誰も理解してくれる訳がない。
改めて、自分の置かれているトリップという状況を叩きつけられ、酷く胸が締め付けられる。
私は、頭を下げて静かに泣くしかなかった。





「言え」




皐月様が言った。
思わずぐちゃぐちゃな顔をあげて皐月様を見つめる。
先程とは変わらぬ凛々しいお顔で私をずっと見つめてくださっていた。



「吐き出せ」



凛々しいお顔がほんの一瞬だけ緩んだように見えた。
瞬間、胸の締め付けは緩み、その中にあったいろいろな感情がブワッと身体中に駆け巡った。


「うぁああん…!」


出ていた涙が、更に量を増し、滝のように流れ出す。
泣き過ぎて声もまともに発せず、嗚咽がのみが出る。

喋らなければ。

嗚咽混じりの汚い声を絞り出す。
皐月様はそれを顔色一つ変えず見つめてくる。



「わだし、っ、ごの、世界、のっ、人間じゃっ、ないん、でず…!」


皐月様は喋らない。
ただただ、黙って、私の出す聞き取れるか聞き取れないかの言葉を待つ。
四天王の方達も同様で顔色を変えず私の言葉を待ってくれている。



「家でっ、アニメ見てだら、っ、寝ぢゃって、気づいだら、こごに、いてっ、それがら、がんばっで、生きてぎだっ…!」



情けない。
いい大人が、未成年の女の子を目の前にして大泣きだ。
なんて情けない。

でも

聞いて欲しい。
ただただ、聞いて欲しい。


「わだしはっ、この世界の人間じゃ、ないがらっ、だがらっ…生命繊維がっ、服がっ、着れない…!」


全て言ってしまった。
とんでもなく訳の分からない事を、汚い声で言ってしまった。



「ふざけるな」



凛とした声が響いた。
汚い顔で皐月様を見れば、皐月様は後ろを向きカツカツと歩き始めた。
そして自分の席へと再び戻る。

ああ、やはり、信じて貰えなかった。

辛くなって、涙が溢れる。
俯いた瞬間、皐月様の声が再び響いた。



「この鬼龍院皐月、その程度の事を許容出来ない小さき器だと思ったか!!」




言葉の意味が理解出来なかった。
思わず目を見開き顔を上げ、そして涙が止まった。

信じて、もらえた?
こんな話を?

皐月様は刀を前に構え仁王立ちで堂々と構える。それと同時に皐月様から後光が差し周りが明かりに包まれた。
眩しくて見れない。



「貴様の頭の中にはこうあったのだろう。「どうせ信じては貰えない」。くだらん先入観に囚われ、その先の答えを見ようともしない臆病者め!」


刀でドンッと力強く地面を突き、私を睨む。その目はとても怖かった。


「信じて欲しいのならば喋れ!強くありたいならば前を見ろ!!」



ビリビリと肌を刺すその怒号。
ズンズンと入り込むその言葉。

ひたすらに皐月様を見つめた。
皐月様はひたすらに私を睨みつける。

ああ、なんて強い人なんだろう。
そして、私は、何時になったら強くなれるのだろう。
いろんな人からこうやって言葉を頂いてるのに。同じような事を繰り返して。

本当に情けない。



「本日より其奴の力を最高機密とする!!何を置いてもその力、外に漏らすな!!」

「はっ!」



皐月様はそう言い残し、姿を消した。
その瞬間、私に巻かれていた鞭は解け、身体が自由になる。
瞬間、蟇郡さんの声が頭上から聞こえる。



「立てるか」

「っ、あんな話、信じたん、ですか?」



そう呟けば、蟇郡さんは「それがどうかしたのか」と言った。
恐る恐る、他の方達も見ればケロリとした顔で此方を見つめる。


信じて貰えた。

身体が震えた。
信じられなかった。思ってもみなかったのだ。
それと同時に、罪悪感が私を支配する。

私は、なんて、失礼な事をしたんだ。

この人達を勝手に決めつけた。
こんなに大きい人達なのに。

何が、強くなりたいだ。
笑わせるな。
全然、前を見れてないじゃないか。
また、逃げてたじゃないか。

私はフラフラと立ち上がり、掃除道具へと向かう。
他の方はそれを止めない。

道具を漁り、ハサミを取り出す。

そして、何も見えなかった前髪を鷲掴んで、切った。


もう迷わなくて良いように。







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