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「極制服。仕上がったようだよ」

「え、早」


拭き掃除をしていれば、目の前にスラリとした足が立ちはだかる。
見上げればそれは犬牟田さんで、眼鏡をクイッと上げながら私を見下ろしていた。
そして、彼の口から出た言葉に、思わず素で反応を返してしまった。
慌てて口を閉じ、土下座をして謝る。

その姿に犬牟田さんは溜息をついて、立ち上がるように促してくれた。

ゆっくりと立ち上がれば部屋の奥の方には伊織さん。
その手には包装されたとても綺麗な制服。
私のための服なのだと考えると顔が綻んだ。

瞬間、生徒会室のドアが開く。
慌てて振り向けばそこには猿投山さんと蟇郡さん。


「お、出来たようだな」

「フム、流石だ。仕事が早いな」


お仕事にでも行かれていたのだろうか、お二人は生徒会室に入り、自分の位置へと戻る。
何故、このタイミングで戻られたのか。

伊織さんが私に制服を渡してくれる。
慌てて手を拭き、それをゆっくりと受け取った。


「二ツ星極制服。今日から貴様のものだ」


生徒会室に響く声。
声のした方を向けば、後光がさしてとても神々しい皐月様のお姿がそこにはあった。
皐月様まで何故戻って来られたのか。

恐れ多くなって、土下座をすれば皐月様は優雅に席に座られた。
そして私に凛とした声を向ける。


「苗字。それを着ろ。着て初めて貴様は正式に本能字学園と契約を交わす事になる」


正式な契約。
それで、皐月様はここへ戻って来られたのか。契約には私と雇う側の代表が必要だ。
四天王の方達はその見届け人というワケか。


皐月様からそう言われ、断るという選択肢はなく、伊織さんに案内されるがままにその場に設けられた簡易的な更衣室へ入る。
皐月様や四天王の方をお待たせするワケにもいかず、慌てて汚い服を脱ぎ、綺麗な制服を見る。
ワンピースタイプのもので、モチーフはメイドさんなのだろうか?黒を基調とした制服だ。丸襟で、スカートは足首まで長い。掃除で汚れても良いようにかシックなエプロンが付けられている。
これが、私のための服…。
嬉しくなって、袖を通す。

通した瞬間、駆け巡る電流。
ドクンドクンと身体が脈打ち、熱をもつ。身体の疲労が消えていく。
身体中にパワーが漲るのが分かる。

これが、極制服。

その凄さに一瞬感動した後、待たせているのを思い出し、慌てて皆さんが待つ生徒会室へ姿を現す。

四天王の皆様は此方を見やり皐月様の前まで行くよう促す。
慌てて皐月様の前まで行き、姿勢を正した。
皐月様は私を見やり、携えていた刀をドンッと構えた。
なんという迫力。これが未成年の女の子が出せるものなのか。


「これで貴様を正式に本能字学園専門清掃員として働く事を認めよう。
それを着て仕事に励め」


皐月様が、そう言葉を発し、立ち上がる。そして立ち去っていかれる。
これで、一安心だ。
暫く食べていける。良かった。
思わず胸を撫で下ろした。

その瞬間だった。



「な!!?」


伊織さんの声が響いた。
何かあったのかと、そちらを向けば伊織さんは驚愕した様子で私を見つめる。

何故私を見る?
もしかして、そんなに似合っていなかったのだろうか。

四天王の方も恐る恐る見れば、全員が全員驚愕の顔。
一体なんだと言うのだ。
立ち去ったであろう皐月様の方を見れば、皐月様まで歩まれていたハズの足を止めて私を見つめて目を見開いていた。

皐月様まで一体どうしたというのか。

そんなに似合っていないのだろうか。
確かに私みたいな髪はボサボサ、格好もスタイルも良くない人間が着ても似合うハズはないとは思っていたけれど。
そんな驚かれるとは思わなかった。

溜息をつき、うつむけば、そこは肌色。

先程確かに着たハズの服がそこにはなかった。

思考が停止した。



「伊織!これはどういう事だ!?」

「っ、犬牟田から貰ったデータが間違っているとは思えない、それに、僕の作った極制服が、あんな、前触れもなくバラバラになるハズが…!」


犬牟田さんと伊織さんの声に停止した思考が戻った。
顔に一気に熱が集まり、目に涙が滲んだ。
そして、叫んだ。


「うわぁぁあああ!!?」


慌ててしゃがめば、身体を何かが包んだ。
かけた相手を見ればそれは蟇郡さんで、「着ていろ」と声をかけてくださり、自分の服をかけてくれたようだ。

その優しさに恥ずかしさも合間って一気に顔が熱くなる。
小さくお礼を述べれば蟇郡さんは軽く頷き立ち上がる。

猿投山さんと蛇崩さんはどういうことだとでも言わんばかりに犬牟田さんと伊織さんの方を見ていた。
その二人の視線の先の二人は、私の服が消えた理由について論議している。

これと似たような事が以前もあった。

確か先生と紬さんに制服を着せられた時だ。
あの時は、てっきり服に仕掛けがあって、そのせいで私は裸になってしまったのだとばかり思っていた。
でも、今回のこれはどういうことだろう。
伊織さんが皐月様から降された命令で不完全な物を作るワケなんてない。
ましてや犬牟田さんも、それに協力したのだから嘘のデータを教えるなんてするわけない。
実際、あの制服はピッタリだった。


「狼狽えるな!!!」


皐月様から怒号。
その瞬間室内は静寂に包まれる。
その迫力にビリビリと肌が震えるのが分かった。

皐月様は再び椅子に戻り、私を見やる。

どうしよう。せっかく頂けた服を、ダメにしてしまった。


「…何をした」


皐月様が私にそう尋ねるが、自分でもこれについてはさっぱりで思わず俯く。
何故、極制服が破れたのか。
私にはさっぱりわからなかった。

首を横に振ったが皐月様は何も仰らなかった。
とりあえず何か言わねばと思い、顔を上げれば、皐月様の目が再び見開かれていた。

もしやと思い、自分の身体を見れば、蟇郡さんからお借りしたハズの制服がそこには無く、自分の下着姿がそこにはあった。

再び顔に集まる熱を感じ、今度は叫ぶ事なく身体を隠す。

一体、何故、どうして。
着ていたハズの服が、バラバラになるだなんて。

自分の肌をなるべく見せないように縮こまる。
羞恥で死んでしまいそうだ。


皐月様は私のその姿を見て一言「揃」と声をかけると、執事のお方が、テーブルクロスを広げ私を隠す。
そして簡易更衣室へ入るように促してくれた。

慌てて中で着替え外に出る。

周りを見渡せば、全員神妙な顔。
その空気は、まるで敵でも見るかのような冷たいものだった。
思わず後ずさってしまう。


「…これは一体、どういうことかな」


第一声は犬牟田さん。
メガネをカチャリと上げて私を見下す。
とても怖かった。

聞かれた所で分かるハズもなく首を横に振るとソファに座るように促された。
オドオドしながらもソファに座れば、周りを四天王に囲まれる。
まるで逃がさないとでも言うように逃げ道がない。
皐月様が私の向かいに立ち、構え、睨む。
そして、ゆっくりと口を開き部屋に声が響く。


「何をした」


わからない。
本当にわからないんです。

俯き、言葉を探そうとすれば、瞬間私の首元に刀が突きつけられた。
思わず「ひっ」と上ずった声が漏れる。

ああ、四面楚歌。
逃げ道なんてない。

皐月様の瞳は私を捉えて逃がさない。
逃げられない。

心臓の音が大きく響くのを感じた。




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