「い、いぎゃぁああ!!離して!離してくださいぃい!!」 「大人しくするんだ!皐月様からの命令だぞ!犬牟田!手伝ってくれ!」 「伊織、ここは麻酔でも打ってみたらどうだろうか?」 黙っててください!!! 思わず叫びそうになったが、最後の理性を総動員してその言葉を奥に押し込む。 私は今、裁縫部の伊織さんという方に裸にひん剥かれそうになっています。 助けてください。 ![]() ![]() ![]() ![]() 皐月様から契約のお話をいただいた直後。 私は、感謝の気持ちが溢れてしまい顔を上げて大声で何回もお礼を言った。 その私の汚い姿を見た皐月様が、裁縫部の伊織さんを呼び、「極制服を作ってやれ」と命令を降したらしい。 皐月様に同情かけられるって私どれだけ汚いんだ。 私には勿体無さすぎる話なので丁重にお断りしたのだが「一人でこの学園全てを掃除するには極制服の力が必要だと思うよ」と犬牟田さんからのお言葉。 確かに。あの制服は身体が元気になるんだよね。と思い、有難くも極制服を作って頂く事になったワケだが。 オーダーメイドだ。 スリーサイズ測るよね。 それで私は今下着姿にさせられそうになっているワケです。 犬牟田さんがいる理由は知りません。 帰ってほしい。 「じ、女性の方とか、いらっしゃられないんですかぁあ!」 「残念ながら、今日はもう僕以外裁縫部はいないんだ…!」 「なら、明日以降で!!」 「皐月様は今直ぐにと、仰った…!!だから今測るんだ…!諦めたらどうだ…!!」 いやだ!! 引っ張られる服を一生懸命抑えて脱がされるのを耐える。 今の私を支えているのは下着姿になるという羞恥心のみ。 ほんと、ほんとにやだ!! 私と伊織さんの攻防戦を傍観している犬牟田さんは、溜息をついてパソコンを開いた。 そして、口を開く。 「仕方が無い。伊織。俺のデータを使ってくれないか。目測だが、一応スリーサイズを打ち込んである」 はい? 犬牟田さんの言葉に伊織さんはパッと手を離し、私はその反動で転けてしまった。 や、転けた事はどうでもいい。 何故あの人は私のスリーサイズ知ってるんだ。 血走った目で見つめていると犬牟田さんは「言ったろう。データを集めてると」とけろっとした顔で言ってきた。 私に!人権は!ないのか! 「すまない、犬牟田」 「いや、構わない。よろしく頼むよ。伊織」 やだ、もうこの人達。 私でさえ知らないスリーサイズのやり取りしてる。 人権なんてないよ。 なんとか下着姿になるのは避けられたが、何か大事なものをなくした気がする。 複雑な心境になりながら私はフラフラと裁縫部を出て、掃除の途中だった生徒会室へ戻る。 そこには、蛇姫様だけしかいなかった。 え、蟇郡さんは!雄っぱいは!? 蛇姫様は私を見るな否や食べていた棒付きの飴を出し、それで私を指す。 「あら、終わったのかしら?」 「は、はいっ」 「あんたみたいなバイトが皐月様に認めて頂けたなんて奇跡よね、身を粉にして働きなさい」 勿論そのつもりです。 路頭に迷いそうになった私を救ってくださった皐月様は言わば命の恩人。 皐月様のためにお仕事頑張りますとも。 蛇姫様に深く頭を下げて私はハタキを握った。 とりあえずはここの掃除だ。 隅から隅まで完璧にこなさなくては。 腕まくりをして、再び掃除に取り掛かれば蛇姫様はソファで寛いで飴を食べていらっしゃる。 気怠げなお姿もまた可愛らしい。 なるべく音をたてないように掃除をしよう。 壁をハタキで叩き積もった埃を床に落とす。 その埃を箒でひたすらかき集める。 「うわ、なによそれ、汚いわね」 「そ、そうですね…」 ソファの肘掛に腕を置いて覗き込んで来られる。 汚いものを吸っちゃうのでなるべく近づかないで頂きたいのだが、蛇姫様は掃除に興味津々だ。 お嬢様っぽいし、もしかしたら掃除なんかしたことないのかもしれない。 なんて羨ましい。 ソファの上にあるクッションやぬいぐるみも高そうな物ばかりだ。 …あれ? 「…あ、あの、その、今敷いていらっしゃるクッション…」 「なによ、なんか文句?」 「あ、いえ、なんか、シミが…」 クッションにパチンコ玉くらいのシミが出来ている。 ここからじゃ良く見えないが紅茶かコーヒーか何かだろうか? なんにせよ可愛らしいピンク地にあの汚れは目立つ。 私が汚れを指摘すれば、蛇姫様は慌ててクッションを抱き上げ、驚愕の顔。 「!?ちょ、ちょっと、やだ!なにこれ!?いつの間に!お気に入りなのにぃ!」 クッションのシミを見つめ顔面蒼白。 どうやらとてもお気に入りだったようで、いつも勝気な可愛らしいお顔に悲しみの色が浮かんでいる。 慌ててクッションの汚れを拭き取ろうとするが、既に渇いてしまっているらしく落ちない。 更に蛇姫様のお顔が曇る。 可愛らしいお顔が…!悲しみに! なんとかせねば。 私の最大限の勇気を振り絞って、落ち込んでいらっしゃる蛇姫様に声をかける。 「あ、あの、よろしければ、そちらを、お貸しいただけますか?」 「…なによ、なんでバイトなんかに渡さなきゃいけないわけ?あんたに渡したりなんかしたら、余計に汚れるじゃない」 蛇姫様は話しかけた瞬間、怒りとショックが入り混じったお顔で此方を睨まれた。 中々辛辣な事を言われるが何てことはない。 その通りだと思うからだ。 私みたいな汚い人間が、蛇姫様の私物に触れるなんてとても恐れ多い。 しかし、蛇姫様の悲しみの顔は見たくないのでここは引き下がるわけにはいかない。何よりも私は掃除役員として雇われた身。 今この生徒会室を掃除している限り、蛇姫様がお持ちのそのクッションも私にとっては掃除の対象。 意識を強く持つんだ私。 シッシッと犬を扱うように手を払われる。扱いが完璧に家畜だ。酷い。 や、可愛い子にこんな扱いされて寧ろご褒美かもしれない。 変態ではないと、言い切りたい。 「あの、その、出来るかどうかわかりませんが、シミ、取れるかも、しれないです…」 私が頭を下げながらそう言うと、蛇姫様は一瞬目を見開く。 そして渋々私に「のかなかったら承知しないわよ!」と言いながらクッションを投げつけてきた。 それを顔面でキャッチして、お預かりしたクッションを大事に抱える。 一応清掃業社で働いてきたのだ。 そこで身についた知識を総動員させよう。 新聞紙を引いて、お預かりしたクッションのカバーを取り、それを新聞紙の上に一旦置く。 掃除道具から白いタオルと洗浄液を取り出して、タオルに少し洗浄液をつけ、クッションの目立たない場所を少しトントンと叩く。 どうやら、色落ちはしない生地のようだ。 色落ちしないことに一安心して、作業を続ける。 蛇姫様は心配そうにクッションから立ち上がり、私が作業する側へ来られ、しゃがむ。 パンツ見えないかハラハラする。 「…早くしなさいよ」 私にブスッとした顔を向けられるが、それでさえも可愛らしいので私にはご褒美です。頑張ります。 いざ作業再開。 高級そうな生地なので、丁寧に染み抜きをするに越したことはない。 台所用洗浄剤を少し水で薄めて、そこをガーゼと割り箸で作った簡易染み抜き棒でひたすらトントン。 蛇姫様はその間ひたすら作業を見つめていた。 勿論、そこに会話はない。 トントンと浸すら続けた後は流水にさらさないといけない。 蛇口は、どこにあるんだ? 「あ、あの」 「なによ」 「じ、蛇口は、ございますか?」 「…こっちよ」 蛇姫様は立ち上がり、自らご案内してくださる。 私はトントンを続けながらそれについて行く。蛇姫様が通してくださった場所は、どうやら皐月様の執事の方が紅茶を淹れるためだけに設けられたやたら綺麗な給湯室。 なにこれ、眩しい。 大変申し訳ないが、ここで少し洗浄液を流させて頂こう。 水道の蛇口をひねり、勢い良く出る流水に染み抜きの部分をさらし、洗浄液を流す。 「…よし、できた」 流水にさらした生地を出して見れば、茶色いシミは綺麗に消えていた。 よかった、成功した。 蛇姫様にクッションをお見せして、これで大丈夫かお伺いすれば、蛇姫様は頬を染め嬉しそうに顔を綻ばせる。 うっわ!!可愛い!!! 私の興奮を察知されたのか、途端にいつもの顔に戻りフンと顔を逸らされた。 「地味で時間かかり過ぎだけど、まあ褒めてあげるわ」 ツンデレですか。 なにこれ超可愛い。 抱き締めたい衝動に駆られるが、私みたいな汚い人間が蛇姫様みたいな綺麗な子を抱き締めるなんて、そんな恐れ多い。 しかし、どうやら満足してくださってるみたいで本当に良かった。 私のだらけきった顔が不満なのか蛇姫様は私を指揮棒で殴りソファへ戻られた。 痛い。でもご褒美です。 違う、私は変態じゃない。 「バイト!さっさと掃除終わらせなさいよ!!」 「は、はいい!」 蛇姫様からのお叱りもご褒美に思える私は、ノリノリの状態で掃除を再開した。 雄っぱいも好きですが、可愛い女の子も大好きです。 お仕事頑張ろう。 Top |