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Clap




金カム逆トリ長編
(2020.02.14現段階好感度反映)
一部キャラのみ。

IF番外編
「バレンタイン」




「バレンタインとはなんだ?」

「あっ」


テレビを観ていたアシリパちゃんが洗濯物を畳む私に近寄り聞いた。
それぞれがのんびりと過ごすリビングで可愛らしい声が響く。
私はそれにハッとする。
今日14日ではないか。
前々からチョコを作る材料は買っていたが、何故か頭からすっぽ抜けていた。
なんて情け無い。

同じく炬燵に入りテレビを観ていた杉元さん、白石さんが此方を向く。
ソファに座る土方さんとキロランケさんがのんびりと寛ぎながら目線だけを此方に向けた。
牛山さんは大家さんのところらしい。
物置き部屋は扉は少し開いていて、リビングの声は届いていそうだ。
そちらには鶴見さん、鯉登さん、月島さんがいらっしゃる。
尾形さんは勿論いつもの位置だ。

アシリパちゃんの説明になるべく分かりやすく答えようと頭の中を整理する。


「一言で言うなら、大好きな人にチョコレートを渡す日だよ」


そう言えばガタンと炬燵が動き、物置き部屋の扉が勢いよく開いた。
白石さんが杉元さんに「いきなり動くな」と注意を受ける。
物置き部屋の扉を思い切り開けた鯉登さんが顔を真っ赤にして此方を見ている。


「とりあえずチョコ作ります!」


洗濯物を畳み終え、腕まくりをすればアシリパちゃんも真似して腕まくりをした。









杉元とバレンタイン

「そ、そんなに使うのぉ?」

「はい!」

私が台所でチョコを刻んでいれば杉元さんが口を覆いながらそれを見る。
そう言えばチョコは高級品だった。
杉元さんが驚愕の目を向けるのも無理はない。

普通のチョコを買おうとも思ったが、せっかくだから心を込めて作ったものを皆さんにあげたい。
まあ、一人一人にチョコレートを買うとちょっとお財布的に厳しいというのもあるのだが。
最近はキットが割安で売られているし、私でも作れそうなお菓子があるのでとても有り難い。

アシリパちゃんが隣でチョコを湯煎してくれている。
私はその間にほかの準備を進める。


「ほんと、何でも作れるんだねぇ」

「そんな事ないですよ、お菓子ばかりはちょっと手順を見ないと何も分からないです」


杉元さんの褒め言葉に苦笑すれば、彼は優しそうな笑顔を浮かべて此方を見つめる。
それにどうかしたのかと聞けば、杉元さんは「何でもない」と首を横に振る。
チョコが良い具合に溶け、甘い香りが漂う。
アシリパちゃんが「うぐ!良いにおいすぎる!」と顔を皺くちゃにする。
杉元さんも「高級な香り…!」と顔を皺くちゃにした。それが面白くて少し笑う。
せっかくだからとスプーンを取り出し、溶けたチョコをひとすくいしてアシリパちゃんに差し出す。
アシリパちゃんは目をキラキラさせ、それを可愛いお口に含む。
途端に「オソマ…おいしい」と恍惚の表情を浮かべた。

「アシリパさん!これ高級品だから!」

杉元さんのツッコミにも笑いながら、また新しいスプーンを取り出し、溶けたチョコをひとすくいして今度は杉元さんに差し出した。
彼はキョトンとした顔をし、スプーンと私とを交互に見た後、顔を赤くする。
そして帽子のつばを持ち少し深く被った。

「え、えーと、これは?」

「?チョコです」

「い、いや、それはわかってるんだけど」

顔を赤くした杉元さんが少ししどろもどろになりながら決心したように目をギュッと瞑り、私が差し出したチョコをパクリと口に入れた。
暫く俯いたかと思うとゆっくりと顔をあげる。
その顔はまだ赤いままだった。

どうしたのかと聞けば杉元さんは「ちょっと火の近くにいたから」と咳払いをする。

体調が悪くないのなら良いと思い、チョコはどうだったか、と聞いてみる。

杉元さんは私が持っているスプーンを少しチラ見してから私を見つめ、また一つ咳払いをした。



「……すごく、甘い」



ビターを選んだ筈なのだが、間違えて買ってしまったのだろうか。
チョコの包装を見ていれば、杉元さんはまた気まずそうに帽子を深く被った。






白石とバレンタイン

「俺にも一口一口ぃ」

杉元さんとのやり取りを見ていたのだろう。
白石さんがひょっこりと現れた。
それに先程と同じようにスプーンでひとすくいして白石さんに差し出せば、嬉しそうにそれを口に入れる。
幸せそうに破顔している白石さんを見て思わず此方の顔も緩む。

「あれだよねぇ、食べさせてもらう事によって一段と甘く感じ…いだっ!」

「黙ってろ!!」

白石さんの言葉を頭を殴る事によって制した杉元さんが顔を真っ赤にしてテレビの方へ戻って行った。
白石さんが若干口を尖らせながら頭を撫でる。
それに大丈夫かと聞けば彼は頷いた。
杉元さんと白石さん仲が良いんだなあ、と改めて思う。
作業の手を進めいれば白石さんが頬杖ついてじっと此方を見つめてくる。
それに首を傾げれば白石さんは何も言わずニヘラと笑うだけ。
珍しい料理だから楽しいのだろうか。

「それ、なんていう菓子?」

「チョコレートブラウニーです、片手間で食べやすいし、手も汚れにくいと思って」

「流石〜気が利いてるぜ、ほんと」

型に生地を流し込んでオーブンに入れる。
後は出来上がるのを待つだけだ。
手伝ってくれたアシリパちゃんにお礼を言えば、アシリパちゃんは余ったチョコを見つめている。
欲しいならあげるよ?といえば彼女は嬉しそうに頷いて余ったチョコを手に取った。
白石さんが羨ましそうに声をあげればアシリパちゃんが面倒そうな顔で白石を見つめた。

「出来上がったら白石さんに一番最初に差し上げますね」

「!?ひゃっほう!!」

白石さんが嬉しそうに手を掲げる。
アシリパちゃんがそれを見て溜息をつき、余ったチョコを見つめなにかを考えはじめた。
それに首を傾げ見つめていれば、白石さんがツンツンと私の肩をつついてくる。
そちらに顔を向ければ白石さんはからかうような笑顔で此方を見つめていた。


「俺のこと好きって事で良いんだよね?」


突然の言葉にキョトンとなる。
白石さんは変わらず先程の笑顔のままで、私は質問に対する答えを素直に言う。


「もちろん、大好きです」


にこやかに答えた内容に、白石さんは少しだけ目を丸くした後、先程の笑顔とは違うものを浮かべる。
かなわないなあとでも言いそうな、くしゃっとした笑顔が私に向けられる。
その次に、白石さんは私のおでこに人差し指を当てぐりぐり押し付ける。
その指を離せばいつものような気の抜けた笑顔に戻っていた。


「ずっとそのままでいて欲しいぜ」


白石さんのひとり言に私はひたすら首を傾げるしかなかった。





鯉登とバレンタイン

出来上がったブラウニーを一番最初に白石さんにあげれば、彼は部屋にいる全員に自慢をしはじめた。
その声を聞いて、部屋から鯉登さんが飛び出してくる。
あまりの勢いに私はびくりと体を跳ねさせた。
切り分けていたブラウニーと私を鯉登さんが交互に見つめてくる。
少し顔を赤くして咳払いをしている。
欲しいのだな、と悟り、切り分けたブラウニーをお皿に乗せて鯉登さんに差し出した。

「ハッピーバレンタインです」

「!!!!」

パァアッと鯉登さんの顔が一気に明るく綻んでいく。
ブラウニーを嬉しそうに見つめ、私を見つめる。
出来立てだから美味しいですよ、と伝えてみれば鯉登さんはハッとしてフォークを手に取り、ブラウニーを小さく切り分け、ゆっくりと口に入れた。
目を瞑り噛みしめるようにブラウニーを食べている。
そんな風に食べてくれるとは思っていなかったので味はおかしくないか心配になってきた。
レシピ通りに作ったから大丈夫だとは思うのだが。

「…うまい…!」

「!、よ、よかった」

鯉登さんから出た言葉にホッと一安心すれば、鯉登さんは此方をジッと見つめてくる。
少しずつ赤くなっていく顔を見つめる。
ああ、そうだ、鯉登さんは私に恋をしていると、そう言ってくださった。
こんな私を好きになってくれているのに、私はそれにちゃんと向き合えていない。
申し訳なくなって少し下を向けば、鯉登さんが慌てたように「う、美味いぞ!?」と声を出した。
違う。
勘違いをさせてしまった。
鯉登さんは慌て、心配そうな顔を此方に向ける。
それに慌てて大丈夫だと告げれば、ホッと安心したように顔が緩んだ。

「…その、バレンタインは、好いた奴にチョコレイトをあげる、と言っていたが」

「あ、それは、その」

その先の言葉が少し不安で身構える。
好意を抱かれている。
どうやって答えれば良いのか。
内容次第では鯉登さんを傷付けるやもしれない。
それが怖くて再び俯く。


「わ、私はお前に嫌われてはいないのだな!?」


鯉登さんから出た言葉に思わず顔をあげる。
目の前の鯉登さんは嬉しそうに顔を綻ばせていて、私はそれにただただ驚くばかりだ。
私が否定しないのを見て鯉登さんは更に顔を綻ばせる。
そしてブラウニーのお皿を置いて、私の両肩をガッシリと掴んだ。
頬は少し赤らんでいて、男らしく端正な顔立ちが私の目の前にある。


「好いちょっど」


突然の告白に目を見開く。
鯉登さんは少し恥ずかしそうに口をモゴモゴさせた後、再び真剣な顔に戻り、私を見つめる。


「わいがおいに惚れるっまで、おいは好いちょっち言い続けるっでな」


早口の方言。
いつものように早口すぎて聞き取れなかったが、内容は何となく理解出来る。
本当、どうしてここまで真っ直ぐなのか。
少し恥ずかしくなって目線をそらす。
鯉登さんは私のその様子を見て「むっぜ…」と自分の顔を抑えた。

やっぱり何を言ってるか分からないが、何故か何処と無く恥ずかしい。





月島とバレンタイン

「月島ァ!お前にもくれるそうだぞ!」

鯉登さんが満足そうにブラウニーを片手に持って月島さんを呼んだ。
月島さんはのそりと部屋から出てきて鯉登さんと入れ違いで台所までやってくる。
月島さんの分もお皿に乗せて差し出せば、彼は一言謝罪をいれてそれを受け取った。


「無理して寄越す必要はないんだが」

「私があげたいと思ったので」


月島さんの言葉にそう言えば彼は一言「そうか、悪いな」と呟いた。
ブラウニーをまじまじと見つめる月島さんにブラウニーの説明をすれば、彼は「高そうだな」と一言。
鯉登さんとは違い、フォークを使わず、手でブラウニーを鷲掴みガブリと齧り付く。
もぐもぐと咀嚼する月島さんを見る。
少し頬を膨らませていて、リスみたいで可愛いなと思いながら見つめていれば彼はゴクリと飲み込んだ。

「美味いなこれ」

「良かった」

少し眉間の皺が緩んだ月島さんにホッとする。
月島さんはそのまま残ったブラウニーの大きな口で食べ進める。
あっという間にブラウニーは無くなった。
手についたカケラをぺろりと舐めている月島さんに思わず「もう一ついりますか?」と聞いてみる。
すると此方に顔を向け、無言のまま何も喋らない。
喋らないというよりどうしようか悩んでる感じだ。
月島さんがこういう反応をするのは珍しいなと思い、すかさず「実は少し多めに作ってあるんです」とフォローをいれた。

「…いいのか」

月島さんの言葉を聞いて私は頷き、ブラウニーを切って再びお皿に乗せた。
せっかくだからと思い、渋いお茶を淹れて差し出せば、月島さんが一言また謝罪をして、キッチンに持ってきて放置していた椅子に座り込む。
そして今度はゆっくりと食べはじめた。

月島さんが食べる横で全員分のブラウニーを切り分けていく。
アシリパちゃんが横で余ったチョコを割り始めた。
パキパキと音が鳴り、トントンと包丁も鳴る。
月島さんはその音を聞きながらゆっくりとブラウニーを口に運ぶ。

「…美味い」

そして再び口にした。
それが嬉しくて御礼を言えば、彼は目線だけを此方に寄越した後、ゆっくりとお茶に手をつけた。




尾形とバレンタイン

「できた」

ふう、と月島さんがブラウニーを食べる横で完成した梱包。
ブラウニーを袋に入れてリボンで結んだ簡単なもの。
これを二つ作った。
そのうちの一つをいつもの場所に座る尾形さんに近づいて目線を合わせるように膝をつく。
尾形さんはこちらを向いて私の顔をジッと見つめた。
それに笑って梱包したブラウニーを差し出す。
中々受け取ってくれない尾形さん。
片膝を立てて座っているので、その膝の上にチョコンと置いた。
尾形さんは「やめろ」と言ってブラウニーを手に取った。

「あの、その、友チョコというやつです」

「は?」

私の言葉に尾形さんが理解出来ないような声をだす。
友達などこれまでの人生で出来たことがなかった。しかし今こうやってアシリパちゃんと尾形さんとお友達という事で仲良くしてもらっている。
バレンタインには友達にチョコを贈っても良いと聞いた。
だからこうして感謝の気持ちとして尾形さんに差し上げているのだが。
尾形さんは少し不機嫌そうな顔で此方を見つめる。
何か気に触る事をしたのだろうか。
やはり膝に置いたのが駄目だったのか。
謝ろうか悩んでいれば、尾形さんが溜息をついていつものように髪をかきあげる。
そして、自分の隣の空間を指差した。
隣に座れということだと理解し、隣に座る。
尾形さんはそれを見てゆっくりと梱包を開けてブラウニーを取り出した。
月島さんと同じようにブラウニーを鷲掴み齧り付く。
尾形さんは何も言わず、そのままブラウニーを食べ続けた。
全部食べ終わり、尾形さんに美味しかったかと聞いてみる。
彼は此方に若干顔を向けた。

「見たら分かるだろ」

その答えに思わず笑う。
尾形さんは私をジッと見つめる。
そしてブラウニーを包んでいた丸めた梱包を私に投げた。
それが顔に当たる。
笑った顔は真顔になり転がった梱包をジッと見つめる。
「ははぁ」と尾形さんから声が聞こえた。

「アホ面だな」

愉快そうに口の端をあげて尾形さんが此方を見つめる。
そんなおかしい顔をしていたのだろうかと顔を抑えれば尾形さんな口の端をあげたまま此方を見つめるばかり。
どうやらご機嫌になったようだ。

尾形さんはやっぱり良く分からない。





アシリパとバレンタイン

「できた!」

尾形さんと話していればキッチンからアシリパちゃんの声が聞こえた。
そしてアシリパちゃんが嬉しそうになにかを持って此方に駆け寄ってくる。
マグカップを私に差し出し、それを受け取り中を見た。

「!ホットチョコレート…!」

まさかの中身に驚きが隠せない。
アシリパちゃんを見つめれば可愛い彼女は腕を組んでドヤ顔をしている。
それがとても可愛くて、愛しくて思わずアシリパちゃんに抱きついた。
アシリパちゃんもぎゅっと抱きしめ返してくれる。

「こんな、作り方、どこで」

「テレビだ!ここ最近そういうものの作り方とか沢山観せてくれたぞ」

それをわざわざ、このバレンタインの日に。
嬉しくて仕方なくてまた抱きしめた。
アシリパちゃんは落ち着けと言わんばかりに私の背中をポンポン撫でる。
私もアシリパちゃん用に包んだブラウニーを差し出せば彼女はそれを嬉しそうに受け取った。

まさかバレンタインのチョコ交換ができる日がくるなんて。
嬉しくて嬉しくてマグカップをジッと見つめる。
冷める前に飲んでくれと言われ、名残惜しいが私はそれをゆっくり口に含む。

あたたかい。
沢山の意味で、とても。

思わず破顔して「美味しい」と言えば、アシリパちゃんが目の前で嬉しそうに笑う。

本当に私は、幸せ者だ。