ただ、"好き"なだけ



僕はいつだってそうだった。大切にしたいと思うものほど執着して壊れてしまうその瞬間までボロボロにして。あとは適当に捨て去るだけだ。
執着するだけして壊れたら未練もなく捨てれるだなんて、存外僕は最低な人間だ、なんて自分を卑下してみるけれどそれが自分であることは事実で。
それもすべて定められた変えようがない運命のひとつなのだと勝手にこじつけて今まで生きてきた。
こんな僕が誰かを大切にするなんて出来やしない。
だから大切な"誰か"を作ることが怖かったのに。


ああどうして、よりによって彼女に落ちてしまったんだろう。そう問うたところで答えなどひとつに決まっているのだけど。











「あの、リンドウさん…そろそろ離してはもらえませんか?」

「嫌だね、そんなお願いは聞けないよ」

「……まだ、怒ってるんですか?」

「当たり前でしょ、僕言わなかった?…嫉妬深いんだよ。君が考えるより、ずっとね」

「…リンドウさん…」



困ったように僕の表情を見つめてくる彼女に僕は、にっこりと笑って見せた。
自分の膝の上に強制的に座らせて背後から逃げられないよう閉じ込めるように抱き締める。どうしたらいいか解らないといった困惑な表情が、何もかもを映してしまいそうな瞳がただ一心に僕だけを映して捉える。
そう、それでいいんだよ。
君は僕だけをその瞳に映せばいい。そして僕だけをそれこそ最期まで想い続けて。我ながら一回り以上歳の離れた彼女にここまで夢中になるだなんて、ほんとうに自分自身呆れもするのだけど。


(仕方ないじゃないか)

(彼女を、本気で好きになってしまったのだから)



心の中でそう呟き、なんとか身動きを取ろうと小さく暴れる華奢な身体を再度力を入れて抱き締める。
彼女から薫る匂いは不思議と僕の心を解して、安心させる。それは彼女がかつて龍神の神子だったからなのか…それは解らないけれど叶うことなら、ずっとこのまま…朝から晩までこの匂いに包まれていたいとすら思う。
愚かにも、それほどにまで彼女を、―――ゆきを、恋慕い愛してしまっている。



「…ゆき」

「なんですか、…リンドウさん」

「…こんな嫉妬深い僕は、嫌?嫌いに、なる?」

「…嫌いになんてなりません。だってリンドウさんが嫉妬深いこともちゃんとわたしは知ってますから」

「ボロボロに壊されてしまうかもしれないのに?」

「それも前に言いました。
わたしは壊れたりなんかしません、それに…リンドウさんはいつもわたしを大切にしてくれてるから」

「…………………」



この歳になるまで、本気で誰かを好きになったことがなかった。否、怖かった。
大切にしたいものほど執着してボロボロになるまで壊してしまう。そんな自分が重いことは知っていたし、だからこそ大切な"誰か"なんて欲しくなかったのに。
僕は、欲してしまった。
君が、欲しいと。
龍神の神子ではない、蓮水ゆきという一人の女性である君が、どうしょうもなく欲しいのだと。
強く、強く願ってしまった。そしてそんな僕を受け入れてくれた。それだけで、嬉しいのに。


(君は、ほんとうに…)

(何処までも強く、気高いんだね)



「…それに」

「それに、…何かな?」

「…リンドウさんになら…きっとわたしは、壊されてボロボロにされてしまっても…幸せだと思うんです。
だってそれも、あなたに愛されているという証拠、だと思うから」

「っ、…君ねえ…」



破壊力満点の可愛らしい笑みを浮かべてそんなことを恥ずかし気もなく言ってくる彼女に、僕は思わず言葉も失い、頬に熱が集中していくのが解った。
ああ、彼女には敵わないな。
そんなことを思いながら、少しだけ力を込めて更に抱き締めれば、今度は抵抗なく身を委ねてくれた。



「リンドウさん、…好きです」

「っ、僕も…君が好きだよ、大切すぎて…怖いくらいにね」



何度目になるか解らない。
まるで愛を語り合うみたいに重ねた唇。互いの熱を感じながら今はただ触れていたい。そして柄にもなく僕は祈る。



君のそのくちびるは。
僕だけに愛を囁き、そしていつまでも僕だけを求めてくれるようにと。





(そして僕のくちびるも君だけのために)



Thanks:hmr




>>>あとがき







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