ただ、"好き"なだけ
風花記序盤、ゆきの独白的なもの
―――わたしは、なんて無力な存在なんだろう。 儚く散りゆく命を、何度この手から零してきただろう。 そのたびにわたしはただ、無力に嘆くだけだった。 皆から守られて、崇められて、神子という役目を全うしてきたつもりだったけれど実際は救えはしなかった幾つもの命があったのに。 そして零れるばかりの命を前にわたしは嘆き哀しみただ後悔だけを繰り返すだけだった。その度に思った。
―――なんて無力な神子なんだろう…と。 いくつ怨霊を浄化したとしても救えた命を救えない役に立たない神子なんて、わたしなんて、意味はない。 わたしを信じて共に戦ってくれていた八葉。 …大切な仲間たちや、そして希望をわたしに託してくれている人々のために…わたしは、今度こそ守りたい。 なにひとつ零れないように、この手で守り抜きたい。 無力でなにも持たないわたしだけれど、この願いだけは捨てられないの。
―――この命が白龍の力を使う代償となるのだとしても。
たとえこの願いが、ただの偽善であるのだとしても。 わたしにだって譲れぬものがあるのだから。
「今度こそ、守り抜こう。 …大切なものをぜんぶ、この手に掴もう。 ―――それが、わたしの願い。神子としてのわたしの、役目だから」
きっとまた嘆き哀しむこともあるかもしれない。 命の灯火が刻一刻と消えていく現実に恐怖するかもしれない。けれどわたしは立ち止まるわけにはいかないの。 この手にすべてを掴むまでは、ぜったいに。 大切な人たちのことを脳裏に描いて、ぎゅうっと自分の手を握る。
「…守るから、今度こそちゃんと守り抜いてみせるから。瞬兄も、そして…崇くんも皆、必ず…」
心にそう誓いわたしはまだ見えぬ未来に向かって歩き出す。この手に希望を掴むために。
そして少女は立ち上がる (強くなりたい、何事にも打ち勝つ心を手に入れたいの)
Thanks:アルストロメリア
>>>あとがき
|
|