ただ、"好き"なだけ
侘助純愛ノーマルED捏造
まるでそれは死刑宣告でも受けたかのような衝撃だった。想像しなかった訳じゃない。けれど俺は、やっぱり心の何処かで期待をしていて、そして、それが現実として叶うものなのだと信じていたんだろう。じゃなきゃ、こんな衝撃を受けるわけないし、何よりこんな絶望を感じるわけもない。ハッキリと一点の曇りもなく俺の気持ちを受け入れられないと告げたなずなは、それはもう清廉で…こんなときでさえ綺麗だと感じて、それ以上に好きだと改めて認識してしまった。 けれど、普通の兄妹になんて今更、戻れるんだろうか。
「…お兄ちゃんのことは好き。でも、…この気持ちは"恋"じゃない…」
「そ、…か…」
「……ごめんなさい」
「お前が謝ることじゃないよ。……やっぱ俺は、お前のお兄ちゃんでしかなれないのは哀しいし辛いけどさ…」
「お兄ちゃん…」
「…俺はね、なずながキラキラした表情で俺に微笑みかけてくれるのが一番好きだったんだ。だからさ、…兄妹でもいいから…またその笑顔見せて」
泣きたいのは俺なのに。 俺なんかよりずっとずっと傷ついて今にも泣き出しそうに表情を曇らせて見つめてくる瞳に出来るだけ笑って、くしゃくしゃと髪を撫でた。 ふわふわで柔らかい髪質がよく手に馴染む。こうして触れるのが恋人としてではなく兄としてだということだけが更に絶望が大きく心に突き刺さる。ずっとずっと苦しかった。なずなを妹としてじゃなく女として意識したあのときから、今もずっと苦しい。 この苦しみは、きっとどんな名医だって治せない。 なずなだけが、俺を喜ばせてくれるし反対に傷つけもする。俺にとって、なずな以外の存在はどうだって良かったし、すべてがモノクロだ。
ずっと触れていたい。 この手を離したくなんかないけど、俺はお前のお兄ちゃんにしかなれないから。 少し震えてしまった指先に気づかれたりしないよう隠すために更に強く髪を撫でた。
「くすぐったいよ…お兄ちゃん…!」
「仕方ないだろ、お前の髪、撫でるの好きなんだから」
「もう…これでも髪セットするの大変なんだよ?」
「悪い悪い。 …けど、お前はいつだって可愛いんだから大丈夫だよ」
「なにそれ、そんなので騙されないよ!?」
「あはは」
仲のいい兄妹。 お前は俺を兄としてしか好きになってくれない。 それはもう死ぬまで、変わりはしないのだろう。 他の誰を犠牲にしたってどうでも良かった。 お前に近づくすべてを傷つけて、排除して、…この手をドロドロに汚しても構わないと思うくらい好きで、いまも好きで。狂っていると思われようとどうでもいい。それほどまでにお前に恋い焦がれている俺は。 ―――この気持ちを忘れることなんて、出来るんだろうか。
ぎこちなく。 けど俺のために微笑んでくれたなずなが心底愛しい。 好きだよ、愛してるとまた、伝えてしまいたくなるのをグッと押し留める。 いつか、…俺のこの気持ちが風化される日はくるのだろうか。兄として、お前がいつの日か俺じゃない誰かと結婚とかしてしまっても祝福してやれるのだろうか。 そのときまた、ドロドロとした汚い感情が溢れはしないだろうか。 ただ一心に、なずなの幸せを願える日がくるのだろうか。 たくさんのことを頭に過らせて強く強く強く心に語りかけた。
(なずなが兄としての俺を求めるなら)
(俺は、死ぬ最期の日まで…お前のお兄ちゃんでいよう)
(心が闇に支配されても、狂いそうになってしまっても)
(―――…お前のその微笑みが曇ることのないように…俺は)
俺は、お前の味方でいよう。お前の自慢のお兄ちゃんであり続けよう。 きっとそれが、…俺にできる唯一だろうから。
「…なずな」
「…なに、お兄ちゃん」
「……最後にもう一度だけ、言わせて」
「………うん」
「俺は、…なずなが好き"だった"よ」
忘れることなどできるわけがないよ。いまもこんなに好きで愛してて。 でも、お兄ちゃんとしてお前を見守ると決めたから。 "好きだった"と想いを過去にしたことで少しでもお前が囚われずに済むのなら。 俺は、少しくらい傷ついたって構わない。 ありがとう、そう言って俺の一番好きな微笑みをくれたお前に俺も微笑みを返した。
望みようのない未来 (最初から、望むべきじゃなかったのに)
Thanks...コランダム
>>>あとがき
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