はなうらない


スキ、キライ、スキ、キライ、スキ、キライ...

また嫌い、か...。
じゃあ、今度はキライから始めてみればいいじゃないか。心の中で一人呟きながら、花びらを散らしていく。この作業を、私は何度繰り返すのだろう。


「何してるの?」
「あ、橘くん。何って、見たまんま、花びらを散らしてるのよ?」
「散らしてるって、その意図を聞いてたんだけどな」

そう言って橘くんはにこりと微笑んだ。

「意図って言われてもなぁ、ただ花占いをしていただけなの。特に意味がある訳じゃないの」

片想いの相手にどう思われているかを一輪の花に託して占っているなんてことを正直に言えるはずないでしょう?
今時の中学生っぽくないし、きっと私の柄じゃない。

「本当に?...何か、隠してるでしょ?」

橘くんは時々やけに鋭いときがある。
小学生の時からの付き合いだけれど、今までにも何度か隠し事を見抜かれてしまったこともあり、こういうときの橘くんはなんだかコワイと思ってしまう。

「隠し事なんてしていないわ。本当だから、ね?もうすぐお昼休み終わっちゃうし教室に戻りましょう?」

そう言って立ち上がり、橘くんの背中を押して教室へと促した。橘くんは納得がいかないといったような表情をして振り返ってきたけれど、私は気づかないふりをして視線をそらした。




橘くんは恐らく知っている。私の好きな人のこと、今は此処には居ない彼のことを。そして、その彼に私が恋心を抱いていたことさえ、勘の良い橘くんは気づいているに違いない。


「俺、留学するんだ。だから中学はこっちのに行かない、言うの遅くなってごめんな」
「そ、そうなんですか...凛くん水泳すごいですもんね。本当にオリンピックの選手になっちゃいそう!私、応援してます...!」
「サンキュ...!詩乃...元気でな!長期の休みにはこっち帰ってくる予定だし、そしたら連絡するから」
「...はいっ!待ってます!」


それから季節は巡りまた春がやってきたけれど、一年間彼から連絡が来ることはなかった。
もう私のことなんて忘れてしまったのかもしれない。もしも、告白をしていれば何か変わっていたのだろうか。周りの皆は男の子と付き合いたいだとか言っていたけれど、付き合うってことに何の意味を持つのか私はよく分からなかったものだから、好きを伝えることはしなかった。今のままで良いと、友達でいられればそれで良いと自分に嘘をついて気持ちを隠していたのだ。生温い関係性が心地良くて、気持ちを伝えることで変わるのが恐かったから。



スキ、キライ、スキ、キライ...

今日も懲りずに中庭で花占い。自分でもよく飽きずに続けているなと思う。いくら雑草とはいえ、花たちに申し訳ないけれど、今の私の精神を保つには必要不可欠の作業でもあるから仕方ない。

「今日もここに居た。...詩乃ちゃん、凛のこと本当に好きなんだね。あの頃から変わらず凛のこと」
「...橘くんは不思議な人ですね、どうして分かっちゃうんですか...?昨日だって何でもないって言ったのに...」
「どうしてって言われてもなぁ...」

少し考える様な素振りをして、再び私に視線を合わせた。

「...ずっと見てたから、かな」
「え...?」
「知ってる?詩乃ちゃんって隠し事下手なんだよ?隠し通せてるつもりだったんだろうけど、分かりやすいんだ。ずっと見ていれば、少なくとも僕には分かる」

真剣な顔。何となくだけれど、彼は私に好意を抱いてくれていたのだろう。私もそこまで鈍感な訳ではないから、分かる。

「そう、だったんですね...私ったら、ダメですね」
「ダメじゃないよ、詩乃ちゃんはダメじゃない。でも、一人で悩まないでよ。僕じゃ頼りないかもしれないけど、辛かったら僕に話して。話を聞くくらい、支えることくらいさせて」

苦笑い。そんな感じの表情。
私にはもったいない人なのに、真剣な気持ちは伝わるから断ることもできない。私はズルイ人だ。


「......ありがとう」

ごめんなさい...。

「うん、僕がそうしたいから言ったんだよ。気に病むことなんてないからね。むしろ、好きな子の支えになれて嬉しいよ」

そう言って笑う橘くんは優しい顔をしていた。


拒絶を出来ない私はズルイ。それでも尚、片想いをやめないのだから本当にズルイ。




スキ、キライ、スキ、キライ、スキ、キライ...

終わりの見えない花占い。
幸か不幸か、好きか嫌いか、自分の中に秘められた答えを花に託して花びらを散らす。


近くにある幸せに気づかないまま、恋に恋して縛られる。






END














prev | next

 

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -