となりの渚くん
となりのお家の渚くん。
ひとつ年上で天真爛漫な男の子。
もう高校生になる彼だけど、
声変わりしたのかどうかも怪しいくらいの高めの声に、女の私よりもずっと可愛らしい容姿をしている。
「詩乃ちゃーん!!おっはよーっ♪」
「おはよう、渚くん。今日から高校生なんだね!」
「そうなんだよねー♪僕も晴れて高校1年生っ!どう?制服似合ってるかな?」
くるりと回ってみせれば、ね?どう?どう??って何度も聞いてくる。
「うん、よく似合ってる!かっこいいよ」
「ありがとっ!んじゃ、途中まで一緒にいこっか!」
いつものように2人並んで歩くけれど、向かう場所はいつもと違う。
どうして私は1年遅く生まれちゃったんだろう...
なんだか、憂鬱だ。
「詩乃ちゃーん?ね、聞いてる?」
「え!?あ、何?」
いけない、ぼーっとしてた...
「んもーっ!ちゃんと聞いてよね!だからさ、岩鳶高校だからもしかしたらハルちゃんとまこちゃんもいるかもしれないよねって話っ!」
いわとび...ハルちゃん、まこちゃん...?
「あっ!スイミングクラブの時の?」
「そうそう!会えたらいいなぁ♪」
「そうだね、私も久々に2人と会いたいかも」
「んじゃあ、またみんなで集まってプールとか行こっか!楽しみだなー♪」
ルンルンと笑顔で話す渚くん。本当に嬉しいんだなぁ、みんなのこと大好きだったもんね。特にハルくんには懐いてたかもしれない。
そんなこんな考えてるうちに、分かれ道まで来てしまった。
「んじゃあ、また放課後にね。渚くんも今日は早いんだよね?」
「うん!今日は入学式と始業式とHRだけだよー」
「終わる頃に連絡するね」
「りょーかい!じゃあ、お互い行ってらっしゃいだね!」
「うん、行ってらっしゃい!」
ふふっと少し可笑しくなって笑いながらお互いに手を振って別れた。
あーあーあー...渚くんに会いたい。
早く放課後になんないかなぁ...こんなんで1年過ごせるのかな。
私は、渚くんの事が好き、でも気持ちはまだ伝えない。
いや、伝えられないの方が正しいかもしれない。
正直、今の状態でも十分幸せな訳で...それに、彼は私のこときっと妹だとかにしか見てない気がする。焦って玉砕するのなんて御免だ。
それでも、会えないだけあって頭の中は渚くんで一杯で、早く会いたい!それに尽きる。
キーンコーンカーンコーン...
放課後のチャイムがなり、携帯を確認すると
『分かれ道のとこでまってるねー(*゚ω゚*)』
と書かれたメールが来ていた。
読み終えた瞬間に鞄を持ち、待ち合わせの場所へ走った。
「んなっな、渚くーんっ!おっお待たせっ、しましたっ!はぁっはぁ...」
息をするのがやっとの状態で声を出したからカミカミだ...
恥ずかしい...焦りすぎだ、私のバカっ!
「!?詩乃ちゃん大丈夫!?そんなに急がなくたって大丈夫なのにー!」
「うん、だいじょーぶ。早く会いたかったから、つい」
えへへと笑ってみせると、もう、しょうがないんだからって私の頭をくしゃっと撫でた。
「そういえばね、名前あったんだ!ハルちゃんとまこちゃんの名前!廊下に貼ってあった2年生のクラス分けの紙にね!」
「本当っ!?よかったねー♪またみんなで集まれるね」
「うん!遊ぶ時は詩乃ちゃんも強制参加だからねっ!」
「なにそれっ!変なのー!まぁ、付き合いますけどね」
「え、だってさぁ!僕のとなりには詩乃ちゃんがいないとでしょ?」
え...?ん??
「んだからさぁ!詩乃ちゃんと僕はいっつもとなり同士じゃなきゃねってこと!」
「な、渚くん、そんな恥ずかしい台詞サラッと真顔でいわないでよ!」
顔がほてるのが自分でも分かった。
えー?だってさぁーなんて言ってるからそんなに深い意味は無いのかもしれない。
それでも嬉しい...凄く嬉しい...
「あ!そうそう!詩乃ちゃんが来年受験するのは岩鳶高校だけだからね!」
「!?」
「けっていじこーだからっ♪そしたらまた一緒に学校まで登校できるでしょ♪」
指をピンと立てて、ね?って後押ししてくる。
「...う、うん。わかった」
ちょっと強引でマイペースな男の子。
幼馴染で、いつだってとなりにいるのが当たり前だった。
活発な彼だから、いつか置いていかれてしまいそうで不安になる時もあるけれど、それでも私は追いかける。
彼が私がとなりにいることを望んでいてくれるなら尚更ね?
渚くん渚くん、となりの渚くん、
これからもずっと大好きだよ。
「んじゃあ、詩乃ちゃんが合格出来るように、今日から僕が勉強みてあげるね!」
「え!?今日からなの?」
「そうだよー!念には念を!善は急げ!って言うでしょ?」
「そうかもしれないけど...」
「文句言わないの!さ!早く帰ろう♪」
「もう!待ってってばぁー!!」
END。
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