いまだけは
今、目の前にいる男。
彼は私の兄である。
だがしかし、それは最近お母さんが再婚してからの話で、ついこの間までは私の片想いの相手だった訳で、実に微妙な心境なのだ。
「た、高尾先輩はよいのですか?お父さんの再婚で突然見ず知らずの人と住むことになるのは嫌ではないんですか?」
「ん、どったの?急にさ。昨日は何も言ってなかったのに〜俺は別に嫌じゃないぜ!こ〜んな可愛い妹も出来た訳だしねっ」
嫌だ、もう、何でこんな簡単にこういうこと言えちゃうんだろう。くっそう、イライラしてるのにちょっとときめいちゃう自分が恨めしい。
「た、高尾先輩はっ、ば、ばかなんですねっ!!」
完全にどもった...。
「てかさぁ、俺たちこうなる前から知り合いじゃん?結構仲良かったし!そんな俺たちが兄妹になるとかさ、真ちゃん風に言えば、運命なのだよっ」
スルー...流石、高尾先輩はハイスペックである。真ちゃん?あ、緑間先輩のことかな?真ちゃんて呼んでた気がする。
運命、ね、確かに私と高尾先輩はお母さんとお父さんが再婚することになる前から知り合いだった。というよりも、高尾先輩に一目ぼれした私が男バスのマネージャーをしてる友達に頼んで紹介していただいただけなのだけど。でも紹介してもらってから話したりしてるうちに先輩のことホントに好きになってもっと知りたくて、これから沢山頑張ろうって思ってたのに、まさか義兄妹になるなんて...。
嬉しいけど、嬉しくない。
「運命とか、よくそんなこと言えますね!高尾先輩h「ねぇ、その高尾先輩ってやめない?」
「へ?」
「だーかーらー!高尾先輩ってさ、もう家族なんだしさ、てかもう美祢ちゃんも高尾だし。お兄ちゃんって呼んでみてよ」
「な、何言ってるんですか!?確かに苗字変わっちゃうけど、そんな呼べませんよ。ずっと高尾先輩って呼んでたのに...。」
お兄ちゃん。それを言った瞬間私の片想いは終わってしまう気がしてなんか嫌だ。呼びたくない。嫌だ。いろいろ考えてるうちに無意識に顔が俯いていたことに気づく。
ああ、どうしよう、困らせただろうか?
高尾先輩の大きな手が私の頭を撫でてくれている。うう、やっぱり無理だよ。私はどうしたってこの人が好きだ。
「ま、無理にとは言わねーけど!でもまぁ、せめて名前で呼んでくれたほうが俺は嬉しいかな、美祢ちゃん」
「な、名前...?」
「そ!かずなり、和成って呼んでよ!俺も優芽ちゃんのこと名前で呼んでるんだし?」
「え、ホントに呼ぶの?はーどるが高、いです...よ...」
「美祢ちゃーん?お兄ちゃん命令です!何なら先輩命令でもいいけど?」
「うう...か、か、か、ず、かず、」
なんかなんかすっごい恥ずかしい。どことなく高尾先輩ニヤニヤしなが私のことみてる気がするし...でも命令とか逆らいたくないし、嫌われたくないもん。
「かず、かずな、かずなりせんぱいっ!」
先輩の顔見れない。一瞬だけ見たけどね。
「やっば!やっばいっしょっ!!美祢ちゃんかわいすぎ!!」
先輩が近づいてくる、え、え、わわわ、、、ギュッって先輩に抱きしめられてしまった。
ドクドクドクドク...心拍数上昇中。
目の前には先輩の胸板な訳で、息も少し苦しい訳で、私はどうしたらいいか分からず、とりあえず行き場のない手を先輩の背中に回してみた。
我ながらちょっと大胆なことをしたような気がする。恥ずかしい。
「美祢ちゃん、ホントやばい!可愛すぎ!変なやつに捕まらないかお兄ちゃんは心配です。いや、マジで!」
「か、かずなり先輩、耳元で話さないでください!くすぐったいので!あと、ちょっと苦しいです。」
嘘です。本当は凄く嬉しいです。くすぐったいのは本当だけど、出来ればまだこのままでいたい。でも、そしたら辛くなるから、諦めきれなくなるから、もう手遅れだけどそれでも今の状態は心臓によろしくない。
私の言葉は届かなかったのか先輩はまだ離してはくれない。
「かずなり先輩?あの、どうかしました?」
「んー?なんでもない!てか優芽ちゃんに彼氏出来るとか考えたくねーわ!どうするよ?堪えらんねーわな!」
「私、彼氏とか作る予定ないですよ。それよか、私もかずなり先輩に彼女できるとかあんまし考えたくないです...。」
......沈黙。
この沈黙でお互い何か察していたのは言うまでもない。
もしかして、両想い。もしかしなくても、両想い。
でも、けして実ることはなくて他人に知られることは許されない。
「ふふっ、私たちなんで義兄妹になっちゃったんでしょうね?」
嬉しくて、切ない。
「でもまぁ、当分は誰の所にもやるつもりはないけどな!しばらくはお兄ちゃんだけの優芽ちゃんだから!」
ニカッと笑う和成くんの顔が好き。
「和成く、んもだから!ね?」
いつかは、きっとお互い恋人が出来るでしょう。
でも、それまでは、せめて今だけは......
大好きな人と恋する時間を。
この人を兄として愛せる日がくることを願って。
END
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