プロローグ〜思い出の欠片〜
松岡くんお父さんの話、ハルちゃんの不調もあったりしたけれど、皆で過ごす時間はとても充実していた。楽しい時間は早く過ぎ、あっというまに大会の日は訪れた。
私のエントリー種目はフリーの100だけで、割と早く出番は終わった。
結果は3番着。タイムでいえば中の上くらいだろう。でも自己タイムとしては新記録、今までで一番速かったのだ。
「まこちゃーん、ハルちゃーん!自己タイム更新したよー!」
嬉しくでブンブンと手を振りながら2人に話しかける。
「ほんとに!?おめでとう、紀紗ちゃん」
いつものようにまこちゃんは笑顔で言ってくれた。
「...おめでとう」
ハルちゃんもそっけなくだけど言ってくれた。
「おい!なんで真琴とハルだけに言うんだよ!俺たちだって応援してたんだぞ!」
「うん!僕も紀紗ちゃんのこと応援してたよ!おめでとう!紀紗ちゃん」
ちょっとふくれっ面の松岡くんと、笑顔の渚くん。
「えへへ、つい癖で。ちゃんと聞こえてたよ、ありがとう!みんなの応援で私...頑張れたんだと思う。だから、メド継、精一杯応援するね!」
そう言うと4人は笑顔で頷いてくれた。
『Take your marks!』
静寂、そして短いブザー音、リレーが始まったことを知らせる水の音。
ついに始まった。消して長くはない期間だけど、みんな頑張って練習してきたんだ、大丈夫なはず。大丈夫...私が一番見てきたんだ、信じよう...!
「まこちゃーん!!がんばれぇーーーーっ!!」
「渚くんふぁいとーーーっ!!!」
「松岡くん!!...り、凛ちゃん!がんばれーっ!」
「ハルちゃん!ハルちゃんハルちゃんいっけーーーーっ!!」
お腹に息をためて、喉が痛くなるくらい大きな声を出して私はリレー中みんなを応援し続けた。
頑張れ...!
ハルちゃんがゴールする。結果は優勝。
私は急いでみんなのところに向かった。
「みんなぁ!本当に本当に優勝するなんて...すごい...!やっぱりみんな凄いよ!おめでとう...!」
「何言ってるんだよ!お前の応援のおかげでもあるんだからな!」
「そうだよ、紀紗ちゃん。紀紗ちゃんの応援で力発揮できたんだよ。ありがとう」
「うん!紀紗ちゃんの声届いたよっ!すっごくね、力でたよ!」
松岡くん、まこちゃん、渚くん...
「ありがとな...」
ポンッとハルちゃんは私の頭に手を置いてそう言った。
「えへっ...私もみんなのチームなんだよね、嬉しい...みんな本当に優勝おめでとう」
嬉しくてか、感動してか、はたまた安心してなのか、涙が溢れてきた。
「紀紗ちゃんは泣き虫だなぁ」
まこちゃんによしよしと撫でられた。
「真琴!表彰だってさ!いくぞ!紀紗も写真撮影のときは一緒に写ろうぜ」
「ねぇ、本当にいいのかな?」
「いいに決まってるだろ!何回言えばわかるんだよ、俺たちは5人でチームなんだからな」
松岡くんはそう言うけれど、なんとなく後ろめたさを感じる。
不安げな顔をしていたのか大丈夫だよって渚くんに心配されてしまった。
「はーい、撮りますよー」
係員さんがそう言うと、シャッターは切られた。
パシャッ
松岡くんの希望で写真とトロフィーはタイムカプセルにして埋めることになった。
大会が終わってからすぐに作業をし、片付けも終わり帰ろうとした時だった。
「ハルちゃん、まこちゃん、一緒にかえろう!」
2人に駆け寄ろうとした手をつかまれた。
「待って!」
「松岡くん?」
「少し...話がしたいんだ...今いいか?」
まもなくして...松岡くんはオーストラリアへ留学した。
まだ少し肌寒く、でも確かに春は近づいてきている。
そしてまた季節は巡る。
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