かいようせいぶつとわたし | ナノ


プロローグ〜思い出の欠片〜

年が替わったすぐの頃、その時は訪れた。

「松岡凛といいます。佐野小学校から来ました。女の子みたいな名前ですがちゃんとした男です。よろしくお願いします」

6年生の1月、季節はずれの転校生として赤い髪の男の子は私たちの前に現れたのだ。

「あ!」

思わず声がでた。

「君は、あの時の...」

目が合うのと同時くらいに声をかけられた。でもあんまり覚えてないみたいで、言葉に詰まっているようだった。

「松岡くん」
「橘...くん。同じクラスだったのか」
「うん。ハルも一緒だよ」
「七瀬...くん、もいたのか」
「まこちゃん...」

なんだか私だけ違う世界に取り残されたみたいで寂しくて、すがるようにまこちゃんの服の裾を引っ張った。

「紀紗ちゃん?あ、松岡くん、この前は話さなかったでしょ?この子は佐伯紀紗。僕とハルの幼馴染」
「あぁ!どうりで見覚えあったと思った!さっきも言ったけど、俺は松岡凛。改めてよろしくな、佐伯さん」
「紀紗でいいよ。あんまり苗字で呼ばれるの慣れてないから」
「わかった!これからは紀紗って呼ぶよ」

ニカッと松岡くんが笑う。

「松岡くんの笑った顔ってかわいいね」
「な!?何言ってんだよ!男にかわいいとか言うなよな」
「松岡くん照れてるの?」

まこちゃんがそう言うと、本当に照れたのかほんのり顔が紅くなっているような気がした。
ハルちゃんは無表情だったけれど、なんだか少しあきれているみたいだった。



それから、私たちの幼馴染の世界には松岡くんも加わった。
続いて、葉月渚くんも加わって3人だった世界は気づけば5人になっていた。
私を除いた4人は松岡くんの希望でメド継にでることになったようで、ハルちゃんは、俺はFreeしか泳がない、って嫌がってたみたいだけど、みんなの推しに負けたようだった。

何だかんだハルちゃんも松岡くんと一緒には練習しなくても頑張っているのがわかった。まこちゃんも渚くんも松岡くんもみんなメド継ために頑張って練習をしていた。

私だけ取り残されたみたいだなと考え込んでいたら、頭に誰かの手が置かれたのがわかった。

「紀紗、もちろん紀紗も俺たちのチームメイトだからな。勝手に仲間はずれとか思うなよ!俺たちは5人でチームだ!」
「え...?でも、私は泳がないよ?」
「そんなの関係ないよ!紀紗は俺たちのこと応援しないのか?」
「するよ、する!誰よりもみんなのこと応援する...!」
「だろ?紀紗の応援で俺たちも頑張れる!それに紀紗がフリー泳いでる時は俺たちが応援する」

自信にあふれた松岡くんの声と笑顔で目の前が明るくなった気がした。

「ありがとう...!松岡くんのおかげで元気でたかも!私もフリーの練習頑張るね!」


「凛ちゃんが紀紗ちゃんのことくどいてるー!」
「渚、うるさい!」
「凛はロマンチストだよね」
「真琴っ!」
「ロマンチスト...」
「ハル!くっそう...お前らー!!」

言い合う彼らの姿を見れるのもあと少し。寂しい気持ちを隠しながら私は思い出していた。リレーを泳ぐことに真剣になる本当のきっかけとなった言葉を...


『見たことのない景色、見せてやるよ』


リレーを泳ぐことを渋るハルちゃんに向けた言葉だったけれど、まこちゃんにとっても渚くんにとっても、メド継を泳ぐ原動力になった言葉だと少なくとも私は思った。


そして、その言葉を聞いた日は松岡くんの留学の話を聞かされた日でもあったのだ。










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