プロローグ〜思い出の欠片〜
『Take your marks!』
静寂、そして短いブザー音がスタートの合図。
あの日、小学6年生の大会で彼らはメド継に出場していた。
勿論私も大会自体にはエントリーしていたけれど、私は特別タイムが良いわけでも、フォームが優れているわけでもない。
それでも、泳ぐことは好き。それだけ、ただそれだけなのだ。
初めは、幼馴染のまこちゃんがハルちゃんに言い出したのがきっかけでそれに便乗するように私も通い始めた。
2人は才能があるようでタイムを上げて、沢山賞をもらったりしてた。
それを羨ましく思いながらも、幼馴染が活躍してることが素直に嬉しかった。
泳ぐことが好き、2人を近くで応援したい、私も一緒に泳ぎたい...!
幼い私には賞なんて取れなくてもそれだけでスイミングクラブに通い続けるには十分な理由だった。
「まこちゃん!ハルちゃん!タイム少しだけ速くなったよー!」
「よかったね、紀紗ちゃん!おめでとう!」
「まこちゃんありがとう!」
「...よかったな」
「ハルちゃんもありがと!」
2人に褒められるのは凄く嬉しい。
ぽかぽかと心があったまる感じがするから。
ある日のこと。
プールにいるハルちゃんに手を伸ばしている時だった。
「速いな。ほんとに小学生?」
そう赤い髪の男の子がハルちゃんとまこちゃんに話しかけてきた。
彼の名前は、松岡凛くん。
見たことはあっても、私は知らないに等しかった。でも、どうやらまこちゃんは彼のことを知っていたらしい。恐らくはハルちゃんも。
少し話をしてから、松岡くんと別れた。
それから、思いも寄らないところで私たちは彼と再会することになる。
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