山吹ノ華
「り、凛......」
妙な緊張感の中、慣れない呼び方で彼の名を呼ぶ。
「聞こえねぇ、もう一回」
「凛...?」
「もう一回」
大きな声だけど、少し彼の声色が弱弱しくも感じられて心配になった。
「凛?どうしたの?大丈夫?」
「...なんでもねぇ。大丈夫だ。家まで送る」
「凛、どうしてタイムカプセル埋めてたところまで行ったの?私に何か話あるんじゃないの?」
「今度話す。あまり遅くなってもお前の親心配すんだろ?」
言われてケータイで時間を確認すると、22時37分と表示されていた。あれ、いつの間にかこんな時間になってたのか。
「凛はさー、凛はもう居なくなったりしないよね?」
「しねぇよ」
「私、凛居ないの寂しかったから...びっくりすることのが多かったし、ハルとのことも何か分からないけど、今日会えてすごく嬉しい」
「バーカ」
一言そう言うと、私の頭をワシャワシャと撫でた。
「もう着いたんだね、話してると早いなぁ」
「おばさんに挨拶したいから、中まで送る」
「ただいまー」
「おかえりなさい。真琴くんから話聞いてるからいいけど、あなた自分の家にくらい自分で連絡しなさいよね」
「ごめんなさーい」
「こんばんは。お久しぶりです」
「あら、凛くんよね?こっちに帰って着てたのね!また紀紗のことよろしくね。今日は紀紗を送ってくれてありがとう」
「こちらこそ、遅くまですみません。またよろしくお願いします。おやすみなさい」
「凛!家の前まで送る!」
名残惜しくて、気づけばそう口走っていた。
「凛、学校は?岩鳶じゃないんだよね?」
「ああ、違う」
「じゃあ、何処?」
「まだ言わねぇ」
「酷い...」
「そのうち、すぐ分かるだろうから我慢しろ。あと紀紗、お前今日からちゃんづけで呼んだらバツゲームな?」
「ふぇっ!?ば、ばつげーむ?何するの?」
「それはそん時のお楽しみな」
ニヤリと悪戯っ子みたいな顔で凛は言った。
「ばか。意地悪。おやすみ!気をつけて帰ってね」
「ああ、おやすみ」
今度は耳元で囁くみたいに言って、凛は私の家を後にした。
おやすみがこんなに嬉しくてくすぐったいとは...私の耳が可笑しくなったのかな。
「...お、お風呂入って寝なきゃ!」
誰が見てるわけでもないのに言い訳をしてから家に入った。
あー、もう夜なのに暑い...
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