山吹ノ華
「そーいや、お前ら、これ見つけに来たんだろ?」
凛ちゃんの声?良かった...まだ居た...間に合った......
「あ、トロフィー」
「俺はもういらねーから!...こんなもん」
こんなもん...一瞬思考が停止しそうになったものの、カシャン...と落ちたトロフィーの音で我にに返る。恐らく凛ちゃんのであろう足音と、こちらに向かってくる影が見えた。
「凛ちゃん...!」
駆け出しでつまづき、半ば抱きつく形で凛ちゃんへダイブしてしまった。
「おわっ...!」
顔を上げると、目を見開き本気で驚いている凛ちゃんの顔が目の前に...
「り、凛ちゃん...!凛ちゃん、凛ちゃん!」
「お前、紀紗...なのか...?紀紗だよな?」
ぎゅっと抱きつきながら、何度も繰り返し名前を呼ぶ私に凛ちゃんは、そう確かめるように聞いてきた。
「う、ん。紀紗だよ...凛ちゃん」
感極まって溢れ出る涙。ああ、こんなにも会えたことが嬉しいなんて...
「久しぶりだな、紀紗。元気だったか...?」
私の眼から零れた涙をぬぐいながら彼は言う。なんだか久しぶりで、ぎこちなくて、でもそんな感覚も心地よくて、とても不思議な感じだ。
「うん、元気。凛ちゃんは?私...私、ずっと待ってたんだよ?いつ会えるのかなって、話したくて...なんだか、少し雰囲気変わっててびっくりしちゃった...」
「そんなこと、ねぇよ。なぁ、紀紗......これからちょっと時間もらえるか?」
「時間...?多分、大丈夫だと思う。プールの所にまだハルと真琴と渚くんいるかなぁ?ちょっと聞いてくるね」
プールのところに向かう為に抱きしめていた手を離し、凛ちゃんから体を離す。
「じゃあ、行ってくる」
ガシッ
駆け出そうとした瞬間、手首をつかまれた。
「凛ちゃん?」
「行くなっ...!」
「え?」
「えっと、別に直接言わなくてもよくねぇか?お前ケータイ持ってんだろ?電話で言えばいいじゃねぇか」
そんなことを言いながら、凛ちゃんは私の手首をつかんだまま足を進めた。
たどり着いた先は、タイムカプセルを埋めた所。
あの時の場所だ。
「あ、凛ちゃん。ハル達に連絡してもいいかな?」
「...あ、ああ」
凛ちゃんの表情が一瞬曇った気がしたけれど、連絡はしなくちゃいけない。きっとみんな心配してるだろうから。
「もしもし?真琴?私...紀紗だけど、ちょっと凛ちゃんとお話してから帰るね。え?大丈夫だよ、凛ちゃんもいるし!うん、また明日ね。おやすみ」
真琴との電話が終わり、凛ちゃんを見上げる。どうしてか眉間にしわが寄っていて、私が見ていることにも気がついていないようだ。
「凛ちゃん!電話、終わったよ?」
「お、おう」
「どうかした?」
「...別に...あ、いや...ああクソッ!...お前...紀紗は真琴と付き合ってるのか...?」
...は?
「え...?付き合ってないよ?」
「じゃあ、ハルと付き合ってるのか?」
...え?
「付き合ってないよ?どうして、そう付き合ってることになってるの?」
「いや、別に、なら良いんだ」
「良くないよ!自己完結しないでよ、凛ちゃん」
沈黙。
「チッ...お前、呼び方変わってただろ?」
「呼び方?」
「ああ、呼び捨てしてただろ?真琴のこと」
「あ、うん。そうだね、確かに呼び捨てするようになったかも!でも、特に意味はないよ?そんなに気にすることでもないと思うけどなぁ」
再び、沈黙。
「じゃあ、俺のことも呼び捨てで呼べ」
「呼び捨てって凛ちゃんのことを?」
「俺のことって言ってんだから当たり前だろ...!」
「そうだよね、あはは...」
「んで、俺の名前は呼べねぇのかよ」
ムスッとふて腐れたような、いじけているようなそんな顔をしていた。
「違うよっ!なんか突然だと緊張するっていうか...」
突然の申し出に戸惑ってしまう。なんとなく呼ばない訳にはいかない状況になってる気がする。
prev / next