▼ 甘い声への嫉妬〜reiji side〜
ランランが仕事に向かった後、彼女がどんな表情をしてたかなんて容易に想像がつく。きっと、顔を紅く染めて今にも泣きそうなくらいに眼に涙を溜めて我慢しているような、辛そうな顔をしているのだろう。今見えているのが後姿でもね、分かってしまうのだからしょうがない。それに、彼女は感情に素直な分、隠し事が凄く下手だ。そこがまた可愛いところでもあるんだけどね!
フゥッと息を吐いてから彼女に近づいて声をかける。
「彼方ちゃん、おはよー!」
「…れいじ先輩、おはようございます」
一瞬ビクリと肩を揺らしてから、彼女は振り返って挨拶をしてくれた。ほら、やっぱり眼が少し赤くなってる。
「…泣いてたの?」
「泣いてなんてないです!」
「でもさ眼、赤いよ?」
ハッとした後、言い訳を考える子供のように目を泳がせた。
「コレは、アレですよ!ゴミが入って!あと私アリェルギーなので…!」
ゴミ、ね。こんなバレバレな嘘をつく彼女が愛おしくて堪らない。
「アリェルギーて何かなぁ〜?聞いたことないなぁ〜」
なんて、からかい半分で言ってやれば、彼女の顔はみるみるうちに真っ赤に染まった。
「い、言い間違えただけです!れいじ先輩は意地が悪いですね、藍先輩に言いつけますよ?」
「アイアイに言うのぉ!?」
「当然です。カミュ先輩と、ら…蘭丸先輩にも言いつけますからね!」
「困ったなぁ〜、彼方ちゃんヒドイよ〜」
戯けて叫ぶ。こうすれば彼女が少しだけ頬を緩めてくれるのを知っていたから。
「仕方ないから、今回だけは許してあげます。れいじ先輩もそろそろ現場に行く時間でしょう?」
「あ、もうそんな時間かぁ!」
「私もお仕事なのでそろそろ失礼します。れいじ先輩も頑張ってくださいね!」
彼女はふわりと微笑むと軽く会釈をして僕に背を向けて歩き出した。
彼女の幸せを願いたい。でも、ランランの名前を言う時の甘い声色に嫉妬してしまう僕がいるのも確かだ。
れいじ先輩、と甘い声で僕の名前だけを紡いでくれれば良いのに…
どうしたら、今も尚ランランしか見ていない彼女の心の隙間に入っていけるだろうか。
君が好きだよ、
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