マリーゴールドイノセンス | ナノ


▼ 忘れる方法


昨日、翔くんに話を聞いてもらったから今日もちょっと前向き。これからのことをちゃんと考えるって思ってみたは良いものの、そう簡単に自分の中で答えが出てくる訳もなくて、中々難しい。

「んー…好きを忘れる方法かぁ…」

事務所内のソファにポスッと倒れ唸っていると、ソファが軽く沈んだ気がした。

「忘れる方法とは何の事ですか?」
「と、トキヤ先輩!?どうかしたんですか?」
「彼方、私から先に質問したのですから、先に答えてください」

そう言い、トキヤ先輩は距離を縮めてきた。

「忘れる方法は、忘れる方法…ですよ。トキヤ先輩も気づいているんでしょう?私が、蘭丸先輩のことが好きだってこと…」
「ええ、気づいていましたよ」

即答されてしまった。でも、そうね。私は分かりやす過ぎるって翔くんにも言われたから、きっとそうなんだと思った。

「やっぱり、私って分かりやすいんですかね…?」
「そうですね。分かり易いタイプだと思いますよ。それに、ずっと見ていましたから、誰を好きかって事くらい分かります」
「え…?」

突然のカミングアウト。私は何でか分からないけれど、とりあえずトキヤ先輩との距離を広げなくちゃと反射的に思った。そんな考えを読んだのか、トキヤ先輩は起き上がってソファから立ち上がろうとする私の肩を掴んでくる。

「逃げないで下さい。私は、君が好きです…」

耳元に顔を寄せて、そう囁いてくる。吐息混じりの声が耳にくすぐったくて、思わず肩を揺らした。好きだと言われるのは嬉しいのに、気持ちに応えられない罪悪感で胸がズキリと痛む。

「トキヤ先輩…ごめんなさい、あの、私…」
「トキヤ」

私の続きの言葉を遮るように放った声の主は藍くんだった。

「…美風さん?」
「藍くん、いつの間に…」
「事務所での用事を済ませた帰りに近くを通ったら、カナタの声が聞こえたからね。ちょっと来てみたんだ」

そう言いながら、藍くんはトキヤ先輩から私を引き剥がした。

「トキヤ、悪いんだけどカナタは僕のだから。もう、手は出さないでよね」
「どういうことですか?」
「昨日からね、付き合ってるんだ」
「ですが彼女は、黒崎さんのことをまだ好きだと言っていましたよ」
「今はまだ、それでも良いって僕が言ったんだ。ランマルを好きなままで良いって…言ったんだ」

藍くんが言い切る。トキヤ先輩は、分かりました、と一言だけ言って部屋を出て行った。なんだか、申し訳ないことになってしまった気がする。好きって言ってくれたのに、ありがとうございますって、嬉しかったって伝えてない…私、ズルい人だ…

「……カナタ、聞こえてる?」
「あっ!ごめんなさい、ちょっとした自己嫌悪してました…じゃなくて、いや、じゃなくてじゃないんだけど…あ、あれ…?」

自分でも何が言いたいのかわからない。

「別にどっちでも良いんだけどさ、この後ちょっと話せる?」

目を合わせるように少しだけかがんで聞いてくる。

「はい!大丈夫です…」

私の返事に満足そうに頬笑み、じゃあ行こうか、と私の手首を掴んで歩きだす。


お話、私も藍くんに話さなきゃいけないことがある。ちゃんと話さなきゃ、前に進む為に。





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