※時夢主目線



 今日もリンクがリンクくんを特訓している。剣同士がぶつかる鋭い音を聞きながら、余裕の表情を見せるリンクと汗だくになりながら何とか一撃当てようとするリンクくんに交互に目をやった。

 ハイラルが敵の手に落ちたことで私達がリンクくんに触れられるようになったのは皮肉にも思うけれど、折角得た機会なのだから存分に利用させてもらうことにしている。今のリンクくんにはハイラルの未来が掛かっているのだから。


「まだ甘いな。リンク、もっと本気でかかってきなよ」

 地面に大の字で倒れ込み息を切らすリンクくんにそう言い放つリンクを眺めながら、場にそぐわないとは思いつつも緩む頬を抑えることができなかった。
 だって、特訓時のリンクは厳しいけどどこか嬉しそうだから。リンクが生涯を掛けて磨き上げた剣技を次世代の勇者にようやく継承することが出来る。しかもそれが自分の子孫ということも相まって、嬉しさも一際なのだと思う。その気持ちは私だって同じだ。

「くっ……先代、もう一回お願いします」

 身体を起こしながらそう言うリンクくんの鋭い瞳からは気迫が感じられて、いつもの優しい顔からは想像もできない表情をしている。これまでの戦いを経て、彼も勇者に相応しい精神に成長しつつあるのだろう。
――でも。

「リンクくん、一旦休憩です。時間になりましたよ」

 その心意気は素晴らしいけれど、がむしゃらにやれば良いという訳ではない。初めの頃二人だけにしていたらご飯も食べずにずっと特訓していたことがあったから、無茶しないよう私も側で見守ることにしている。私達はともかくリンクくんは成長期の生身の身体だ。これからハイラルを救うというのに身体を壊したら元も子もない。

「ナズナさん、俺まだやれます」

 とは言いながらも息を切らしたまま私に訴えかけてくるリンクくんの頭をリンクがぽんぽんと撫でた。

「休むときは休むってナズナとの約束でしょ。ほら、マスターソード仕舞って」
「……分かりました」
「リンクはちゃんと強くなってるよ。その時が来たら最終奥義も教えるから今は焦らないの」

 少し不満気だったリンクくんだけど、最終奥義という言葉に目を輝かせこくりと頷いた。



「休憩か……あ、そうだ」

 リンクくんは何かを思い出したのか、いそいそと荷物を漁り始める。取り出したものは可愛い猫ちゃん柄のお弁当箱。それを何とも嬉しそうな顔で見つめている。

「それ、ナズナちゃんから?」
「はい。勇者なんだからしっかり食え、って作ってくれて……うお、肉がぎっしり」

 気になって私もお弁当を覗き込んだら、薄切りされたお肉がご飯の上に敷き詰められているのが見えた。続いて取り出したのは具だくさんのスープが入ったビン。これも作ってもらったのかな? 何でも空きビンに詰めたがるところもリンクにそっくりだと笑みが溢れる。

「俺が肉買う余裕無いから入れてくれたのかな……やっぱ優しいなナズナは」

 リンクくんは手を合わせていただきます、と有難そうにお弁当を食べ始める。途中ミドナさんに「食べるか?」と聞いていたけれど、彼女は「オマエが貰った弁当だろ」と姿も見せず突っぱねていた。リンクくんには心を開いてくれたようだけど、まだ私達の前に姿を現すのは抵抗があるみたい。

「そういやテルマさんが好きなお酒サービスするって言ってたんで、後で先代とナズナさんにもお供えしておきますね」
「ふふっ、ありがとう」


 厳しい旅の途中だけど、リンクくんの味方になってくれる人は沢山居る。きっと彼なら平和なハイラルを取り戻してくれるだろう。

 そんなことを思いながら、幸せそうにお肉を口に運ぶリンクくんの姿を眺めた。

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