※「黄昏の護衛さん」前提です
珍しくトワが落ち込んでいる。
宿に帰ってくるなり何度も何度も溜め息をついてぼーっと窓の外を眺め感傷に浸っているような顔をして。その理由に何となく察しは付くけれど、僕から口を出すのも何だし触れないでおいてあげようと思っていたらトワの方から話を持ち掛けられた。
「……先代はナズナさんに会えなくて寂しくないんですか」
いつものトワからは想像もつかない何とも弱々しい声が聞こえてきたものだから驚いて振り向くと、机に突っ伏すトワが目に入った。泣いては……いないけど今にも泣き出しそうなくらい情けない顔をしている。
毎日のように城下町に通っていたのだからそろそろナズナちゃんに会いたくなるのも無理はない。それでも息吹達の前ではそんな態度を微塵も見せないのは護衛を任されている責任感からなのだろうか。うん、やっぱりトワは真面目で良い子だ。
「そりゃあ寂しいよ。でも今回は仕事だから真面目にやらないとナズナに怒られちゃうし」
「……そう、ですよね」
トワはゆっくり身体を起こしふらふらと立ち上がると、今度はベッドにぼふっと横たわった。枕を抱えて何やら唸ってる様子を見ると、そろそろ限界が近いのかもしれない。
「一回戻ったら? ナズナは僕が見てるから」
「いえ、引き受けたからには俺が最後までやります。それにこれは愛の試練でもあるので」
「は?」
……愛の試練? 一体何を言い出すんだとトワを白けた目で見るけど、歯を食いしばり苦悩の表情をしているトワは決してふざけているようには見えない。
「えっと、どの辺が試練?」
「敢えて会わないのが試練らしいです。絶対上手くいくってイリアが言ってて」
「ああそう……」
押して駄目なら引いてみろ、ってことか。確かにナズナちゃんには効果ありそうだけど……ずっと平行線の二人だからイリアちゃんも痺れを切らしたのかな。
「まあ、無理しない程度に頑張ってね」
「……頑張ります」
僕からしたらトワみたいな真面目で良い子他にいないと思うんだけど、って思うのは流石に親バカか。でもそれはきっとナズナちゃんも分かってるだろうし、二人がくっつくのも時間の問題……だといいな。
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