「……お姉ちゃん達、だれ?」
ここはリンクくんの家の目の前。冷や汗を流す私達をしっかりとその青い瞳に映すリンクくん。まさか見つかるとは思っていなかった私とリンクは身体を硬直させた。
何で私達の姿が見えているのだろう。普通の人には見えないはずなのに。次期勇者だから? それとも私達の子孫だから?
――いや、今はそれよりもリンクくんに私達のことをどう説明するか考えないと。いずれ会う予定ではあったけれど、それが今になるとは思ってもいなかったから。
「あっ! ねえ、二人とも耳が尖ってるんだね! 俺とおそろい!」
色んな言い訳を頭の中で巡らせる私を余所に、リンクくんは「見て見て!」と嬉しそうにこちらに駆け寄って自分の耳を私達に見せる。キラキラした無邪気な笑顔が凄く可愛い。こう近くで見ると、本当に子供の頃のリンクに似ているなあ。
はしゃいで興奮しているリンクくんは、まだまだ話すことを止めない。
「城下町のほうから来たの? モイさんが言ってたんだ、そっちに住んでる人は俺みたいに耳が尖ってるんだって!」
「えーっと、その……」
間違ってはいないけれど……私達の正体を言っていいのだろうか。横目でちらりとリンクを見ると目が合った。リンクは「僕に言わせて」とでも言いたそうに私に目で訴えかけてくる。リンクなら変なことは言わないと思うし……申し訳無いけどここはお願いしよう。私はこくりと頷いた。
「僕達は君のご先祖様だよ。ほら、身体が透けてるでしょ?」
そう言いながら手のひらをリンクくんの目の前にかざす。彼は「ほんとだ……」とリンクに触れようとするが、その手は空を切った。
「さわれない……ご先祖様って、お兄ちゃんオバケなの?」
「まあそんな感じかな。でも、君を護る良いオバケだよ。ただ君以外の人には見えないし、話すとびっくりさせちゃうから村の皆には内緒にしてくれると嬉しいな」
それを聞いたリンクくんは眼をキラキラ輝かせて「うんっ!」と元気な声で返事をした。
「かっこいい! 俺にしか見えないご先祖様かあ……ねえ、二人ともまた会いに来てくれる?」
その可愛いおねだりに胸を撃ち抜かれた。そんな期待を込めた目で見られたら断れないじゃない……!
「はい、勿論です! 出来るだけ会えるよう頑張りますから!」
「本当!? 約束だよ!」
そう言ってリンクくんは指切りをしようと小指を差し出す。でもその指に触れることは出来ないので、私は形だけの指切りをした。
本当はちゃんと触れてあげたかったけれど、こればかりは仕方がない。心が少しちくりと痛んだ。
次に会う約束をしたので、今日はとりあえずさようならだ。
「ばいばーい!」と元気に手を振るリンクくんの姿にほっこりする。暫く子供と接する機会なんて無かったからなあ。短い時間だったけど、凄く元気を貰えた。
「リンク、説明ありがとうございました」
「あの子が素直で助かった……勇者とかトライフォースとか、そういう話は混乱するだろうから暫く言わないでおいたほうがいいよね」
「そうですね。まずはリンクくんと信頼関係を築いてからのほうが良いと思います」
なんて事務的に言うけれど、リンクくんとは打算的な関係じゃなくて普通に仲良くなっていきたいと思う。
会って分かったけど……血の繋がった子孫ということもあるのだろうか、庇護欲が湧いて凄く可愛い。初めは肩入れしちゃいけないと思っていたのに、そんな気持ちは何処かに行ってしまった。
「でも……ナズナは大丈夫? 結構力使っちゃったでしょ。次は一週間後って言ったけど無理してない?」
リンクは心配そうに私を覗き込む。確かにかなり力を使ったけれど、この位ならリンクの側にいれば一週間後には元通りに回復すると思う。
「大丈夫ですよ。私も早くリンクくんに会いたいので頑張ります!」
「ありがとう。……ナズナにばかり大変な思いさせてごめんね。僕に出来ることがあれば何でも言って」
ぎゅうっとリンクに抱き締められる。何百年も一緒に居るのに、昔から変わらずずっと優しくしてくれるリンク。やっぱり大好きだなあ、と頬が緩んだ。
「ありがとうございます。でも、リンクだってリンクくんに奥義を教えてあげるのでしょう? その為なら幾らでもお手伝いしますよ。やっとリンクの夢が叶うのですから」
それは私の夢でもある。リンクの魂を受け継いだあの子ならきっとやり遂げてくれるはず。そしてこれから起こる戦いの助けになってあの子を護れるならば……こんなに嬉しいことはない。
「……やっぱり僕もナズナと同じ道を選んで良かった」
「私もですよ。付いてきてくれてありがとうございました」
まずは一週間後。これから始まる新しい生活に期待を膨らませた。
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