※「黄昏の護衛さん」でトワリンがシーカーストーンで召喚されてる時のお話。




 いつも優しい笑顔を見せてくれる。一緒に歩けば私の歩調に合わせてくれる。「可愛い」なんて私に似合わない言葉を沢山言ってくれる。
 なのに私は素直になれなくていつも意地を張って困らせてばっかりで。



「……今日も居ないのかな」

 城下町をうろつきながら探すのは見慣れたあの緑衣。目立つ格好だからいつもなら直ぐ見つかるのに。思わず口をついて出た言葉は誰の耳に入ることもなく雑踏の中に消えた。


 リンクを城下町で見かけなくなって数日経つ。それまでは毎日のように来ていたのにぱたりと姿を消したものだから、日に日に不安が募っていった。

 別に私達は恋人同士とかそういうのじゃない。一緒にいるのが当たり前みたくなっているけれど、ふらっと出掛けた先で偶然会ってお喋りしてるだけ。会う約束だってしてないから会えない日が続いても何らおかしいことはないはずなのに。
 それでもリンクなら、会えない理由があるなら私には伝えてくれると思ってた。……ただの自惚れだったみたいだけど。自意識過剰な自分が恥ずかしくなる。

 私がいつもツンケンしてるからいい加減愛想つかしたのかな。この前バカって言っちゃったからかな。素直になれなかった自分を思い出してもやもやが止まらない。
 ううん、それよりもまた危ないことに首を突っ込んでたらどうしよう。酷い怪我をしていたらどうしよう……今になって後悔するなら初めからもっと素直になれば良かったのに。

 はあ、と深い溜め息をつき陰鬱な顔をしながら再び行き交う人々に目を向けると、ふと見覚えのある後ろ姿が視界に入った。あれは――

「イリア!」
 
 パン屋の通りで誰かを探すように周囲を見渡しているのはリンクの幼馴染のイリアだった。イリアは私の声に反応してきょろきょろと辺りを見回した後、こちらに気付いて大きく手を振る。私も手を振り返し彼女の元に駆け寄った。

「ナズナ! 会えて良かった。探してたの」
「そうなの? ごめんね、手間かけさせちゃって」
「ううん、わたしが連絡入れなかったから。ナズナに急ぎで伝えることがあるからモイさんに付いてきたのよ」
 
 急ぎの用? 手紙じゃなく直接伝えに来るくらいだから重要なことなのかな。でも最近はそれらしい事件も何も起こってないし――と、姿を現さないリンクのことが頭を過ぎった。もしかしてリンクに何かあったのかと嫌な予感がして、イリアに話の続きを促す。

「イリア、その伝えることって?」

 そんな緊張した面持ちの私とは対象的に、イリアはふんわりと笑って答えた。

「リンクからの伝言。暫く会えないけど危険なことはしてないから心配しないで待ってて、だって」
「へ……」

 笑顔で告げられたその言葉に呆気にとられてしまった。でも、それと同時にさっきまであった心の中のもやもやが吹き飛んでほっと胸を撫で下ろす。

「なんだ……良かった、無事なんだね。もうずっと心配し……」

 安心からか、取り繕う間もなくつい本音がぽろっと漏れてしまった。慌てて口をつぐむけどイリアは変わらずずっとにこにこしたまま。けど、その笑顔がどこか含みのあるものに変わったのを私は見逃さなかった。

「な……何」
「リンクもナズナを一人にさせるの凄く心配してたのよ? だからわたしが来たの」

 輝くイリアの目の奥に企みがちらっと覗き見えるのは絶対に気のせいじゃない。逃げようにも既に手をがっちりと握られているのでそれは叶わなくて、焦る私を余所にイリアは私の手を引き歩き出す。

「二人見てると焦れったくて。聞きたいことも言いたいこともいっぱいあるから覚悟してよね。丁度リンクも居ないことだし」
「いや、何回も言うけど私はそんなんじゃ……!」
「嘘ばっかり。さっきの顔見たら分かるわよ」
「わ、分かるって何が!」
「さあ? 何でしょう」

 せめて口だけでも抵抗してみるけどそれも虚しく、いつにもなくやる気満々のイリアの足は止まらない。向かう先は……多分、いつものカフェだと思う。
 今の私にはお洒落なカフェさえも尋問室にしか見えなくて、ただ顔を青くさせるしかなかった。

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