05


 眠るにも目が冴えてしまったので、彼と少し話をすることにした。彼はダークリンクと呼ばれているということだったので、私もそう呼ばせてもらうことにする。
 先程までの緊張感のある空気とは打って変わって、ダークリンクさんは何事も無かったかのように話をしてくれた。少し怖いけど、意外と話しやすい人かもしれない。

「場合によってはお前を監禁してでもコイツから離さないつもりだったからな。良かったじゃねえか」

 にやりと笑いながら恐ろしいことを言われる。冗談なのか本気なのか分からないので、苦笑いしつつ話を逸らした。

「ダークリンクさんは水の神殿でリンクと戦ってましたよね。今は喧嘩しないのですか?」
「喧嘩って……まあ、初めはコイツの身体を奪ってやろうとは思ってたな。でも自我が強くてなかなかそんな隙も見せねえんだよ」

 でもそうだとしたら、なんで今日ダークリンクさんが出てこれたのだろう? リンクの心が大きく揺らぐ何かがあったのだろうか。
 彼は話を続ける。

「そのくせ放っておくと自分からどんどん傷付きに行くんだぜ? 馬鹿だろ。だから俺が深層心理で誘導してた。コイツは気付いてなかっただろうけどな」

 小馬鹿にするような口調で愚痴っているけれど、先程の話だとダークリンクさんはリンクの為に色々手を回したと言っていた。きっと彼なりにできる範囲でリンクを傷つけるものから護ろうとしていたんだと思う。
 自分が死なない為とは言うものの、彼の言葉や態度を思い返せばリンクのことを心配しているのが伝わってくる。口調も態度も少し悪いけど、リンクの心から生まれたならリンクみたいに根は優しい人なのかもしれない。安心したら頬が緩んだ。

「リンクのこと、護ってくれてたんですね。ありがとうございます」
「何でそうなる……俺の為だって言っただろうが」
「だって、実際今までリンクの心は壊れなかったじゃないですか。やり方はどうであれ」

 そう。理由はどうであれ、ダークリンクさんは彼なりにリンクの心を平穏に保っていた。そのやり方が正しい形だったのかは、私には分からないけれど。

「……チッ」

 舌打ちしつつ横目で睨まれたけど、もう初めの時の威圧感は感じられなかった。


 確かにひとりでいれば、少なくとも誰かのせいで傷付くことはないかもしれない。でもリンクはそれを今でも心から望んでいるのだろうか。
 夢で見たリンクの笑顔を思い出す。沢山の人に囲まれて、楽しそうに笑っていて。今のこの状態は傷付く事こそ無いけれど、あり得るかもしれない未来の可能性も奪っている。今まで一緒に居て、私にはリンクはまだそんな未来を諦めていないように見えた。リンクが傷付くのは嫌だけど、私はこれが最善だとは思いたくない。
 それに、気になることがある。ここまでのダークリンクさんの話を聞いていると、彼は歩み寄る気がありそうなのにリンクはそれを知らないか……若しくは拒否しているような雰囲気を感じ取れた。

「リンクは……貴方の事をどこまで知っているのですか? 貴方が死んでしまう事とか……」
「俺のことは敵としか思ってない。それ以上は何も知らないと思う」
「リンクときちんと話し合ったほうが良いんじゃ……貴方に敵意は無いのですから」
「何度もしようとした。でもコイツが拒否するんだ。仕方ねえよ、元々敵だったし自分の心の悪い部分なんて見たい奴いないだろ」
「……っ、」

 それ以上は何も言えなかった。そう言うダークリンクさんの眼が酷く悲しそうに見えたから。ここから先は二人の問題だ。きっと私が簡単に触れていいことじゃない。

 少しの間、沈黙が流れる。
 ふと、思い出したようにダークリンクさんが話し出した。

「ああ、そうだ。お前の魔力……人間のものじゃねえよな」

 どきり、と心臓が跳ねる。

「別世界の俺達のことを知ってるって、どう考えても人間の力の範疇を超えてるだろ。……お前一体何者なんだ?」

「っ、……私は……」

 手をぎゅっと握り俯く。
 リンクにお世話になっている以上、いつかは話したほうがいいとは思っている。でも、なかなか話せずにいた。巻き込んでしまうのが怖いから――
 と、そこまで考えてふとあることに気が付いた。私はダークリンクさんに会ってから、リンクの旅した世界を知っているなんて一度も話していない。

 思い返すと大切なことを見落としていたことに気付く。そもそも最初から「俺のこと"も"知ってんのか」と言っていたじゃないか。私がリンクにしか話していないはずの事も知っていたし。
 もしかして、人格交代していてもその時の記憶はあるのではないだろうか。そうだとしたら、この一連の会話もリンクは聞いているはず。

「ダークリンクさん、もしかしてリンクに話を聞かせる為に……」

 私の言葉に彼はにやりと口角を上げる。その顔が全てを物語っていた。

「折角お膳立てしてやったんだ、上手くやれよ」

 そう言ってダークリンクさんの髪色が徐々に銀色から見慣れた金色へ変化していく。そして完全に元の金色に戻った彼と眼が合った。赤ではない、青い瞳……間違いない、リンクだ。

 リンクは私から目を逸らし俯く。私も言葉を発せず、気まずい空気が流れていたがややあってリンクがその沈黙を破った。

「ごめんね、黙ってて」
「……ダークリンクさんのこと、ですか?」
「うん。急に驚いたよね……暫く出てこなかったから、抑えられてると思ってたんだ。変なこと聞いてごめん。話したくないことは話さなくていいし、さっきのことも忘れていいから」
「……っ、」

 こんな時にまでリンクは私の心配を先にしてくれている。自分のことでいっぱいになっていてもおかしくない状況なのに。今はリンクの優しさが痛々しく思えた。

 今までリンクを人に関わらせないようにしていたダークリンクさんが私に話を持ちかけてきた理由。きっと彼は、私がリンクの支えになり得ると信じてくれている。それを裏切ってはいけない。何より、私自身がリンクを支えたい。そう心に誓ったのだから。

「リンク、お話したいことがあります」

 私の気持ち全部、伝えてみよう。それが少しでもリンクの支えになるのなら。



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