05

 ナズナがこれ以上私の為に犠牲になることがないよう、この関係を変えたい。

 あの夢の中の私は契約を破棄することに拘っていたけれど、神との契約の破棄なんて相当の対価が必要になるだろう。それに、そんなことをしたら過去のナズナの決意を蔑ろにすることになる。
 この執着心は私とナズナ自身の問題だ。繰り返される輪廻の中で複雑に絡み合った、呪縛にも似たこの思いを解かなければきっと別の世界でもナズナは幸せになれない。その為には――

「ナズナ、今度一緒に城下町に行ってみますか?」
「っ! 城下町……!」
「ええ。ナズナにあげた本は全部読み尽くしてしまったでしょう? 好きな本を買っていいですよ」
「本当ですか!? ありがとうございますゼルダ様!」

 目を輝かせて花を咲かせたような笑顔を見せるナズナ。自分から言い出しはしなかったけれど、やはり外に出たいと思っていたようだ。……酷いことをしてしまった。罪悪感で胸が痛んだ。

 ナズナには普通の女の子として生きてほしい。使命に囚われず、自分が幸せだと思う道を選んでほしい。私だけに執着しないよう、広い世界を知ってほしい。
 今までしてあげられなかったことを沢山してあげよう。これから少しずつ。そして、もし"私"のことを主ではなく友人として見てくれる日が来たら……そこまで願うのは贅沢だと思うけれど。


***


 ナズナの手を引きながら城内の隠し通路を必死に走る。

――何が起きているの? 突然お父様がナズナを捕らえろ、という命令を下すなんて。私が何を言っても聞かなかった。ナズナの力は長いこと暴走していない。国を脅かすような思想を持っている訳でもない。突然降って湧いた話からあっという間にこんなことになってしまった。恐らく何者かがナズナを狙っている。命なのか力なのかは分からないけれど。

「ナズナ、まずコキリの森へ向かいなさい。森の中なら普通の人は追って来れません。そして時の勇者に会うのです」

 城の外へ繋がる抜け道の前でナズナに説明する。彼のいる詳しい場所は……ナズナになら分かるだろう。二人は引かれ合う運命なのだから。泣きそうな顔のナズナ。頭を力なく横に振り、私に縋りつく。

「嫌です……ゼルダ様、また会えますよね?」
「っ……」

 断言できない。私の力だけでこの状況が収まるのかどうか。安心させてあげたいけれど、無責任なことは言えない。

「ナズナ、これを」

 時の勇者に宛てた手紙をナズナに手渡す。

「時の勇者に渡せば分かってくれるはずです。これからは彼と一緒に暮らしなさい」
「そんな……私、ゼルダ様のお側を離れたくありません」

 そんなの私だって。でも仕方がない。ここに居たらナズナは殺されてしまうのだから。
 まともに外の世界を見たことのないナズナを勇者のもとまで一人で向かわせるのは危険だけれど、もうこれしか道はない。

「ナズナ……ごめんなさい。護ってあげられなくて。でも私はずっと……ナズナのことを想っています」

 堪えきれずに眼から涙が溢れ出す。
 嫌だ、止まって。ナズナがよく見えないから。これが最後かもしれないのに。
 泣きじゃくるナズナを抱き締める。この世界でなら幸せにしてあげられると思っていたのに。結局こうなってしまった。やっぱり彼がいないと――

「……ナズナ、行って」
「っ、ですが」
「行きなさい!」

 ナズナは口元を手で押さえながら、弾かれたように走り出す。その後ろ姿が闇に溶けていくのを見て、私はその場に崩れるように座り込んだ。

 幸せにしてあげられなくてごめんなさい。
 一緒にいてあげられなくてごめんなさい。
 でも、きっと彼なら貴女を幸せにしてくれるから。
 だからどうか、私のことを忘れないで。

back

×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -