02
ナズナが酷い怪我をした。ガノンドロフの策略で。
彼は城内で謀反を企てた兵士を己の身を挺して捕らえた。でも、その兵士はガノンドロフの手の者。きっとお父さまの信頼を得るための策略に違いない。そんな下らないことに巻き込まれたわたしを庇ってナズナが刺された。
許さない、絶対に。血塗れのナズナを見て不敵な笑みを浮かべた彼奴の顔――確信した。あのお告げは本物だと。
「ナズナ……申し訳ありません。わたしを庇ったせいで……」
「いいえ、ゼルダ様がご無事で良かったです。私の使命はゼルダ様をお護りすることですから」
「っ……」
ナズナはネールの愛を自分ではなくわたしに使った。何の躊躇もなく。今だってまだ傷が痛むだろうに、ずっと笑顔を見せている。わたしを不安にさせない為に。
不甲斐ない自分に、無性に腹が立った。
***
あの一件から、緑衣を纏った少年の夢を見るようになった。恐らく、彼がお告げの暗示――森からの使者なのだろう。ただ、わたしにとってその夢は悪夢以外の何物でもなかった。
ナズナがわたしを庇って命を落とす夢だったから。
夢の中のわたしは発狂して取り乱し、お告げの彼も戦意を喪失して――そこから先は語りたくもない。
夢を見る度、恐怖に襲われた。自分のせいでナズナを失う恐怖……想像しただけで耐え難いものだった。もし夢と同じ状況になったら、きっとナズナはまた何のためらいもなくわたしを庇うだろう。先日の事件で嫌というほど思い知らされた。ナズナの絶対的な主従意識を。
「ゼルダ様、最近またあの人の夢を見るのです……」
そしていつの間にか、ナズナも彼の夢を見るようになった。彼がガノンドロフからハイラルを救う為に旅をする夢を。その夢を語るナズナの瞳はどこか嬉しそうで。初めて見るナズナのその表情に、どうしようもなく黒い感情が生まれるのを感じた。
「ナズナ、大丈夫ですよ。きっと彼がハイラルを救いに現れてくれます。ですからその時が来るまで、一緒に待ちましょう」
「……はい」
ナズナを安心させるため嘘をついた。
わたしは一緒に待つ気はない。ガノンドロフにも、お告げの彼にもナズナを渡さない。
絶対にナズナをこの戦いに巻き込ませるものか。
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