01

「初めまして。わたしはゼルダと申します。貴女のお名前は?」

 声を掛けられたことに驚いたのか、彼女はびくりと肩を震わせ慌ててわたしから距離をとった。わたしが一歩近寄ると彼女は一歩後退りする。それを何度か繰り返した後、観念したのか彼女は下を向きながら口を開いた。

「……ナズナ、です……」

 ぽつりと呟かれたか細い声。彼女を怖がらせないよう、優しく語りかける。

「ナズナ、貴女はどうして逃げているのですか?」
「……怪我、させちゃうので」

 わたしは俯いているナズナに駆け寄り、ふわっと優しく抱き締める。突然のことにナズナは身体を強張らせた。

「っ!? 駄目です! 魔力が……っ、あれ?」

 わたしから離れようと抵抗するが、何も起こっていないことに困惑するナズナ。当たり前だ。だってわたしとナズナは――

「やっと見つけました。ここにいたのですね……ナズナ」
「……ゼルダ、さま?」

 ナズナがわたしの名を呼んだ瞬間、胸がぎゅうっと締め付けられ無性に泣きたくなった。この時のわたしは、この気持ちの本当の意味に気付くことはなかったけれど。


***


 わたしは、ナズナのことが大好きだ。
 初めてナズナを見たのは夢の中。まるで妹や親友のようにわたしと楽しく遊ぶ姿を俯瞰で見て、凄く憧れたことを覚えている。同年代の友人なんていないわたしは、夢に出てくるナズナに会いたくてしょうがなかった。

 初めてナズナと出会ってから、ナズナと一緒に暮らせるようありとあらゆる手段でお父さまに進言した。最終的にお父さまは、神から与えられた大きな力を持つナズナを野放しにしておくことは危険だと、城で保護することを決めた。ナズナには名目上、ナズナの力を国の為に使ってほしいと説明した。監視という形ではあるけれど、わたしはナズナと一緒にいられるなら何でもよかった。


「ナズナ、今日の調子はどうですか?」
「まだ一回も暴走してないです。最近少しずつ操作できるようになってきて……ゼルダ様のおかげです」
「ふふっ、良かった。そうそう、これから中庭に行きたいと思ってまして。庭師が新しいお花に植え替えていたみたいですよ」
「本当ですか!? ご一緒します!」

 ナズナはよく笑うようになった。その笑顔を見ると心が温かくなって、鼓動が速くなって……幸せだった。
 監視されているということもあり、ナズナは私以外に友人と呼べる人は城の中にいない。それが非常に心地良かった。私だけのナズナ。ずっと私だけを見ていてくれる。
 この歪んだ気持ちに、気付かないふりをし続けた。



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