※ゼルダ姫→夢主への片思い要素有り。
最終話の最中のとある出来事。



 僕は姫と会話をすることが多い。基本的に話の内容はナズナへの伝言。ナズナと一緒に暮らしている僕を通せば確実に伝わるから当然といえば当然だ。
 けど、頻繁に話すからこそ――気付いてしまったことがある。



 ナズナに渡したいものがある、と仕事終わりにゼルダ姫に呼ばれた。
 言われた通り書庫に行くと姫は本を読みながら待っていたようで、こちらに気付いた彼女は本を閉じにこりと微笑む。

「リンク、急に呼び出してしまい申し訳ありません。これをナズナに渡したいと思いまして」

 彼女の足元にある木箱に目をやると、そこには大量の本が入っていた。

「私が子供の頃読んでいた本です。ナズナには教会に寄付すると伝えて下さい。少し重いかもしれませんが……持てますか?」
「この位なら大丈夫。ナズナにも言っておくね。ありがとう」
「いえ、お役に立てたのであれば良かったです」

 そう言って姫はふわりと幸せそうに笑う。喜ぶナズナを思い浮かべているのだろうか、とても優しい目をして先程読んでいた本をそっと撫でる。それを見て僕の疑惑は確信へと変わった。
 同類の僕だから気付いたほんの僅かな表情の変化――やはり姫はナズナに対して友情を越えた感情を抱いている。

 姫は僕達にとっての恩人だ。できるなら傷付けたくないし、気まずい関係になるのも避けたい。このまま気付かないふりをして過ごすのがベター……なのだろうか。
 複雑な胸中を悟られないよう普段通りを装い、木箱を持ち上げようと手を掛けたその時だった。

「今日呼んだのは、他に話したいことがあるからなのです」

 手に持っていた本を木箱の中に置きながら、姫が話を続けた。

「話?」
「ええ。私がナズナに恋慕の感情を抱いていること――気付いていますよね?」
「えっ、」

 今の今まで考えていた話を出され、どきりと心臓が跳ねた。しかし姫は特に気にした様子もなく平然と話を続ける。

「誤解があるといけないので先に話しておきます。まず、決して二人の邪魔をするつもりはありません。寧ろ応援しています」
「? それってどういう、」
「この気持ちに折り合いをつけるまで長い時間が掛かりました。全てはナズナの幸福の為。今、私の心はとても満たされています」
「あの……」

 会話が一方通行だ。こんなやり取り別の世界でもあったなあと思い出す。その時はシークの姿だったけど、僕の質問は聞かず言うことを言ったら去っていったゼルダ姫。懐かしいな、と苦笑した。

「ですからリンクはそのままナズナと末永く幸せに過ごして下さい。ナズナの幸せは私の幸せ……ナズナの私に対する呪縛を解き、ようやく普通の友人になれた今の私にはこれ以上の幸せはないのです」
「姫……」

 少し変わっているけど、彼女は強い人だ。たったひとりでナズナの運命を変えようと奔走していた。そのお陰で巡り巡って、僕達は今この穏やかな生活を送れている。

「……ありがとう。今までナズナを護ってくれて」
「礼には及びません。ナズナの為に当然のことをしたまでですから」

 ふわりと優しく微笑む顔を見て安心した。先程の彼女の言葉に嘘偽りは無いだろう。心からナズナを大切に思っているからこそ、こう思えるようになったのだろうか。
 もし僕が彼女の立場だったら如何だろうか……やっぱり、彼女は強い。

「ただ、謝らなければいけないことがありまして……」

 その笑顔から一転、少し顔を曇らせ軽く溜め息をつく彼女の言葉に、何事だろうと耳を傾けた。

「ナズナが変な男に引っかからないよう、恋愛に関して少々偏った知識を教えていました。きっと色々と大変だったでしょう? 申し訳ありません」
「えっ!? いや、まあ……うん」
「昔の私は本当に拗らせてましたので……思い直して正しい知識を教えるべきと思っていた矢先、あの出来事でしたから」
「あー、そうだったんだ……」

 遠い目をして思い出す。ナズナの恋愛に関する知識がフィクションの中の話で構成されていたことを。
 結局、ナズナとはまだほっぺにキスまでしか進んでいない。そろそろナズナもキスを視野に入れてくれてる気はするけど……それ以上のことをするまでの道程は長そうだ。そもそも多分えっちなことを知らないと思うし。

「僕が教えていくから大丈夫だよ。気にしないで」
「リンクには苦労をかけてばかりですね。もしナズナからそういう話が出たら、私からもそれとなく伝えるようにしていきます」
「うん、ありがとう」

 ナズナも年頃の女の子だ。姫と恋愛話だってするだろうから、そこで年相応の知識を得てくれたら僕としてもありがたい。それにそういう話は同性同士のほうが話しやすいだろうし。

 ゼルダ姫と別れ教会へと向かう道の途中、そんなことを考えた。

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