"普通の恋愛"を知らない私は、絵本や小説の中のお話でしか恋というものを見たことがない。リンクと一緒に居られるだけでも充分幸せだけど、やっぱり"恋人同士"ということに憧れだって持っている。
そんな私の我儘をリンクは聞いてくれて、しかも私の知らないことまで教えてくれるみたい。それは凄く嬉しいことだけれど……嬉しいだけじゃなくて偶に変な気持ちになることがある。あれは何だろう?




「――そういえば壁ドンっていうのは何? 物騒な名前だけど」

リンクが寝床に腰掛ける私を後ろから抱き締めながら尋ねた。指を絡めたり掌をなぞったり、私の手を弄って遊んでいる。まだ恥ずかしさはあるけれど、さっきからずっとこうされてるから少しずつ慣れてきた気がする。でも耳元からリンクの声がして、くすぐったいようなぞくぞくするような……また、変な気分になってきた。

「私も実際に見たことはないのですが、男性が女性を壁際に追い詰めて顔の横にドンっと手をつく行為みたいです」

「ああ、だから壁ドン……」

納得した様子のリンクは私から手を離す。「ナズナ、こっち向いて」と言われたので後ろを向いたら笑顔のリンクと目が合った。

「じゃあ、折角だしこの流れで壁ドンもやってみる?」

「え、良いのですか!? ありがとうございます!」




……ということで、私は今壁際に立っている。目の前には笑顔のリンク。リンクは遠慮することなく壁に手をつき、私はリンクと壁の間に閉じ込められるような状態になった。

ああ……! これが壁ドン! で、でも想像以上に近い。リンクが凄く身体を私に寄せてくる。こんなに近付いていたら心臓の音が聞こえちゃいそう。


「これでいいのかな。壁につくのは片手だけで良いの?」

「どっ、どちらでも大丈夫です!」

「ナズナ、顔真っ赤だよ」

「……そうですか?」


リンクにそう言われ、自分の顔をぺたぺた触る。火照る頬に触れるひんやりした手が気持ちいいと思える程度には顔に熱が集まっているのが分かった。
かなりの近距離で見下ろされ、身体が殆ど密着している状態だから身動きが取れなくて緩く拘束されているような気分になる。そこでふとあの時のことを思い出した。


「あ……そういえば、前もこのくらい近付いたことありましたね。あの時はダークさんに押し倒されるような形でしたけど」

それを聞いたリンクはぴたりと動きを止める。

「あー、……そんなこともあったね」

「?」


一瞬リンクが眉根を寄せ、声のトーンも下がった気がした。今はいつも通りの笑顔だけど……見間違いではない、と思う。
リンクは少し考える素振りをした後、口を開いた。


「ナズナ」

「っ、はい」

「こういうときは他の男の名前を出さないでくれると嬉しいな。僕、嫉妬しちゃうから」

「嫉妬……」


活字では何度も目にしたその言葉。それがどんな気持ちなのか私には良く分からない。でも、良い意味合いの言葉ではないことは理解している。
私のふとした言葉のせいでリンクに嫉妬させてしまった……それが無性に悲しく思えた。


「……リンク、ごめんなさい……って、ええ!?」


急に視界がぐわんと揺れた。リンクと目が合うように横向きに抱えられ、足は宙ぶらりんの状態。所謂お姫様抱っこだ。
何が起きたのか状況が理解できず慌てふためく私を余所にリンクは私の寝床に歩いて行き、そこに優しく降ろし続いて私の上に覆い被さった。そう、あの時のダークさんと同じ体勢。


「ナズナは知らなかったんだから気にしなくていいの。言ったでしょ? 僕が教えてあげるって。それにダークの件は元を辿れば僕のせいだし」


あの時と同じ筈なのに、心臓が煩く鳴り響く。それがリンクに押し倒されているからだと気付かない程、私は鈍感ではなかったようだ。それに気付いた様子のリンクは熱を持った眼で嬉しそうに私を見つめる。


「嬉しいな。ダークの時はこんなに顔を真っ赤にしてなかったよね?」


そう言って首筋を指でなぞられ、思わず身体が跳ねた。
まただ、このぞくぞくする感覚。やっぱり変な気分になってくる。リンクにもっと触ってもらいたいような、くっついていたいような。変な声が出てしまわないように手で口を押さえる。こんなこと、本には書いてなかったから分からない。

混乱する思考の中、リンクは口を押さえたままの私の手の甲にキスを落とした。丁度、唇がある位置に。

「ッ!?」

思わず手を離すと、悪戯に笑うリンクが人差し指で私の唇に優しく触れた。その感覚についリンクとのキスを想像してしまい、恥ずかしさで動きが止まる。


「ついでに言うと、無防備なのは僕の前だけにしてね。ナズナが僕以外の男に触れられることを考えたら嫉妬でどうにかなっちゃいそうだから」


……な、なるほど。さっきの話も含めると、リンクの前でリンク以外の男の人の名前を呼んだり触ったりしたときに"嫉妬"するんだ。なんだっけ……"不貞行為"ってやつなのかな。
折角教えてくれるって言ってくれているのだから、知らないことは全部教えて貰いたい。もっとリンクのことが知りたい。


「っ、リンクが私にしてほしいこと、全部教えて欲しいです。さっきみたいに私が知らないせいでリンクを傷つけたりしたくないので……!」

思わず語気が強まってしまった。リンクは一瞬きょとんとした後、吹き出して楽しそうに笑う。

「ありがとう。やっぱりナズナのそういうところ、好きだな」

「好っ……!」


好きだなんてさらりと言われ、更には私の頬にキスまで降ってきた。
ま、また……! リンクはキスが好きなのかな。いっぱいキスされるし、たまにちゅうって吸われるし。


「……あの! リンクは沢山キスをしてくれますが、一般的にはこの位が"普通"なのですか?」

「うん、そうだよ。普通普通。何だったらもっといっぱいしてる人も居るよ」

「へ、へえ……そうなのですか……?」


リンクが言うならそうなのかな……? じゃあ、これ位で恥ずかしがってちゃ駄目だよね。頑張って慣れないと。
リンクに喜んで貰いたいから、これから色んなことを教わって沢山覚えていかなきゃ。それで私のことをもっと好きになってくれたら……なんて。ああ、やっぱり恥ずかしい。

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