※「
秘密」「
告白後のこと」前提のお話。
外から小鳥の囀りが聞こえる。眼を開くと既に明るくなった部屋、僕の隣にはすやすやと眠るナズナ。
ああ、夢じゃなかった。顔がにやけてしまうのを気にもせずナズナの顔を覗き込む。相変わらず無防備で可愛い寝顔。堂々とナズナの寝顔を見れる幸せを噛みしめながら昨晩のことを思い出す。
昨日、僕とナズナの気持ちが通じ合ってからナズナのお願いで二人一緒に寝ることになった。でも文字通り本当に「寝る」だけで、それ以外のことは全くしていない。
というのもナズナはそういった知識に乏しく、男女が一緒に寝るということをそういう意味だと認識していないから。聞いた感じだと、ただ添い寝をする意味にしか捉えていないようだった。
そんなナズナに僕が焦って変な事をしたらきっと怖がらせてしまう。大事な大事なナズナに怖い思いをさせたくない一心で手を出さず耐え切った僕自身を褒めてあげたいものだ。
ナズナはまだ起きていない。可愛い寝顔が髪で少し隠れていたのでそっと指でどかすと、くすぐったそうに身を捩らせた。それが可愛くて調子に乗って頬をつついたり頭を撫でたりする。
「ん……りんく?」
眠たそうに目を擦りながらもぞもぞと動くナズナ。流石に起きてしまったかな。
「ナズナ、おはよう。よく眠れた?」
「……おはようございます」
目をぱちぱちさせ僕を見る。すると、ふにゃっと笑って「夢じゃないですよね」なんて呟いた。
「凄く良く眠れました。好きな人と一緒に寝るのって安心するんですね……リンク、私の我儘を聞いてくれてありがとうございました」
「どういたしまして。喜んでもらえて良かった」
好きな人、だなんて。ナズナ以上に僕のほうが喜んでいると思うけど、それを悟られないよういつものように笑う。ナズナがただただ愛おしくて抱き締めたらナズナも抱き締め返してくれた。ああ、幸せだ。
暫くナズナを堪能していたら「リンク……」と控えめに呼ばれる。少しもじもじしながら上目遣いで僕を見るナズナに理性が飛んでいきそう。
「私、添い寝の他にもリンクと沢山やりたいことがあるのですが……良いですか?」
「ん? 良いよ、何でも言って」
瞳をキラキラ輝かせて言うナズナ。ナズナが幸せだと僕も幸せになるから、ナズナに喜んでもらえるなら何だってしてあげたいな。
「リンクにご飯を『あーん』してあげたいです……」
***
「はいリンク、あーん」
「あー……」
少し照れながら、でも嬉しそうに僕の口にスプーンを運ぶナズナ。それを美味しそうに食べてあげると満面の笑みを見せるナズナの背後にはまるで花が咲いているようだ。
……ナズナは恋愛に関する知識をどこから得たのだろう……知識が妙に偏っている気がする。所謂バカップルとかそういう人達がするものじゃないか? これは。
「リンク、美味しいですか?」
「凄く美味しいよ。ナズナが食べさせてくれるから尚更ね」
そんなベタな台詞にもほわほわと笑顔を浮かべてくれる。うん、少しズレてるけど可愛いからいいや。
「他にも僕とやりたいことあるんだよね? 後はどんなことがあるの?」
「はい! お姫様抱っこと、膝枕と、壁ドン? というものと、後は……」
夢みがちな瞳で指を折りながらやりたいことを列挙していく。そこで昨夜話してくれたナズナの過去を思い出した。
ナズナはハイラル城では姫の側で暮らしていたと言っていた。箱入り娘……みたいなものだったのだろうか。ちょっとズレているのはきっとそのせいだ。多分、恋愛に関してはフィクションの世界のことしか知らない。
そんな無邪気に笑うナズナを見ていたら少し意地悪をしてみたくなった。
「うん。ナズナが望むなら全部やってあげる。でも、何か忘れてることあるよね?」
「忘れてること?」
きょとんとした顔で僕を見る。先程ナズナが挙げた言葉の中には、恋人同士ならほぼ必須なアレが無かった。
「……キスはしたくないの?」
「キッ、!!??」
ナズナの顔がぼんっと一気に赤くなった。わたわたと分かりやすく動揺している。キスに関してはまだ恥ずかしい気持ちのほうが上回っているのかな。
「し、したいです! でもキスは結構後なんです! 手順を踏んでからのようなので、先にさっきのことをやってから……!」
恥ずかしいのか、両手で顔を覆ってしまった。
あー可愛い。キスしたいとは思ってくれているんだ、嬉しいな。別に告白して直ぐキスでも良い気がするけど、ナズナがそう言うならその通りにしてあげよう。
「でも……っ、私の初めてのキスは絶対リンクにしてもらいたいので、その……待っててくれますか?」
「待っててくれますか」の言葉がぐさりと僕の心に刺さった。
……ごめんナズナ、もう初めては僕が待てずに奪っちゃったんだ……ナズナが寝てるとき勝手に。
ナズナのことが好きだと気付いてから僕は欲が抑えられなくて、夜な夜な寝てるナズナの唇にキスしていた。今思うとなんてことをしていたんだと自分でも思う。あの時の僕は余裕が無かったから……罪悪感に駆られる。
そういえば、女の子にとってファーストキスは凄く大切なものだってサリアが言ってた気がする。それを知らぬ間に奪われてたなんて、きっとナズナはショックを受けてしまうだろう。せめてナズナの夢を壊さないよう、このことは絶対に秘密にしておかないと。
内心動揺していることを悟られないよう、平静を装ってにっこり笑った。
「大丈夫だよ。ナズナが僕とキスしたいと思ってくれているだけでも幸せだから」
半分嘘だけど。本当は今すぐにでもキスしたい。
でも前とは違って気持ちは通じ合ったのだから、焦ることはないと自分に言い聞かせる。僕にも少しは待つ余裕ができたし、いずれはすることになるのだから。
すると顔を赤らめたままのナズナがぽつりと呟いた。
「……っ、もしリンクもしたいと思ってくれているなら……唇はまだ心の準備が出来ていないので、それ以外の場所でしたら、っひゃ!?」
言い終わるより前にナズナを抱き寄せ額にキスを落とす。待とうと思っていたけど、そんな可愛いお許しが貰えたんだからもう無理だ。次は瞼、頬、そして首筋へ。軽く吸い付くと紅い鬱血痕が残った。まるで所有印のようなそれに嬉しくなり何箇所も痕を付ける。
「あ、あの……リンク? くすぐったい……ふあっ、」
最後に耳にキスをしてあげると、ナズナから吐息が漏れた。……へえ、ナズナは耳が弱いんだ。
ナズナは自分の口を押さえ、少し涙目になりながら戸惑っている様子を見せる。その首筋に残る紅い痕の意味なんてきっとまだ知らないだろう。
誰の色にも染まっていない、何もかもが初めてのナズナ。これから僕が全部教えてあげるからね、なんて恋愛小説にでも書かれてそうな甘い言葉を耳元で囁いたらナズナが硬直してしまった。本当に可愛いなあ。