俺は"試練"の為にアイツの心から生み出された。

俺が居た水の神殿のあの部屋は、訪れた者の心を反映させる。心の中を模した部屋で己の心の影に打ち勝つのが試練、だそうだ。

俺は負け、本来ならアイツの心に戻り消えるはずだった……のに、いつまで経っても俺の自我は消えない。何故だか知らないが、奴の身体に二つの自我が宿るという謎の状況になった。


俺は心の中から動けないのが気に食わなくて何度も身体を奪おうとした。でもコイツは勇者の使命だとかハイラルを救うだとか言って頑なに心に隙を見せない。
俺も次第に面倒臭くなって暇つぶしに奴の意識を通して旅を見ていた。


コイツは勇者として人を救い、感謝され多くの人と繋がりを持つことに充実感を得ていた。
コイツは友人こそ居るが、当たり前に居るはずの妖精が今まで居なかった。ずっと孤独を感じていた。そこに勇者としての使命を与えられ、目標が生まれ人々を救い感謝され……自分を必要とする人の為に動くのが心の拠り所になっていたんだ。勿論ハイラルを救うという本来の目的も忘れてはいないようだが。


ずっと旅を見ていてあることに気付く。俺にもコイツの感情が流れ込んでいるということに。今まで感情に乏しかったはずなのに、嬉しいとか楽しいとかそういった感情を覚えるようになった。

……正直、悪くない気分だった。リンクが勇者として活躍すればする程この空間も豊かになっていく。殺風景な世界に陽が差し花が咲き、青空を見上げると俺も充実感に満たされた。



だが、勇者としての使命を果たし七年前の世界に戻ってからその世界は崩れ始めた。
妖精が居なくなったことを切っ掛けにどんどん花は枯れていき、厚く黒い雲に覆われ青空も見えなくなった。リンクは自分を知るものを探すことに必死だった。帰る場所までも失い、以前とは比べものにならない程の孤独と絶望。

時間が経つにつれ俺にも変化が現れた。身体が鉛のように重い。呼吸がし辛い。直感的に、リンクの精神と俺が繋がっているからだと気付く。多分、このまま放っておいたら俺は死ぬ。


……クソが。元々消えるはずの存在だったなら俺がリンクの心に戻って直ぐ消してくれれば良かったじゃねえか。わざわざ感情を与えてから――まだ生きていたいと思うようになってから消すなんて胸糞悪いにも程がある。
それに、二度も世界を救ったリンクにこんな仕打ちか? カミサマとやらは本当にクソみてえなことをしやがる。てめえの都合で勝手に勇者として散々引っ張り回した挙句、用済みになったらサヨウナラなんてふざけんな。

こんな世界、正しいはずがねえ。抗ってやる。徹底的に。

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