06


 私は、物心ついた時には教会で暮らしていた。
 私の他にもハイラル統一戦争の影響で身寄りが無い子供が沢山居て、皆で家族のように仲良く暮らしていた事を覚えている。
 でも私は生まれつき魔力が高く、自分でその力を上手くコントロール出来なかった。間違えて友達を傷付けたくなかったから、人と距離を置いて生活していた。

 そんなひとりぼっちだった私をゼルダ様が救って下さった。ゼルダ様と一緒に居ると私の力が暴走することは無くなって、誰かを傷つける心配も無くなったのだ。それどころか私の力を王国の為に使って欲しいとまで言って下さった。
 身に余る光栄だった。私を救って下さっただけではなく、私の力を必要として下さったのだから。その時から私はゼルダ様の為に全てを捧げようと心に強く誓った。


***


 少しだけ語る、私の昔話。リンクは黙って聞いてくれていた。

「そして、これから話すことは私の正直な気持ちです。上手く言葉にできるか分かりませんが……聞いてくれますか?」

 私は真っ直ぐリンクを見る。リンクは俯きながらではあるけれど、頷いてくれた。
 どうかこの気持ちが届いてほしい。精一杯の気持ちを込めて話す。

「今までゼルダ様の為だけに生きるのが私の存在意義でした。それが私の使命であり、運命だったから。でも……存在意義を失って、またひとりぼっちになっていたのです」

 初めてリンクに会った日のことを思い出す。私と同じでひとりぼっちだったリンク。最初は素っ気なかったけれど、リンクは初めて会う私にも優しくしてくれた。

「私、初めはリンクのことゼルダ様を助けてくれた"勇者様"として見ていました。何もできなかった役立たずの私の代わりにゼルダ様を、ハイラルを救ってくれた勇者様。一緒に暮らす中で、何があってもその恩をお返ししなければと思っていました」

 ひとりの寂しさは知っていたから、リンクに話し掛けることは止めなかった。半分は自分の為でもあったけど、私もここにいますよって伝えたかったから。

「でも……リンクと一緒に居るうちに、気付いたらそんなこと忘れている私がいました。ただ一緒に居て心地良くて楽しくて。リンクが笑っていると私も嬉しいし、悲しんでいると辛くなります。こんな感情、ゼルダ様以外に持ったのは初めてで……リンクの隣に居て、すごく幸せなのです」

 自分の胸が凄くドキドキしているのが分かる。この感情の正体は分からないけれど、凄く幸せな気持ちになるのだからきっとリンクに伝えればリンクだって幸せになってくれるはず。

「あの満月の夜……私はリンクの為に生きたい、リンクを支えたいと思いました。心の底からの私の素直な気持ちです。私は絶対にリンクを置いていったりなんかしません。ずっと、ずーっと側にいますよ。だって、私がリンクと一緒に居たいのですから」

 朝日が昇り始めたのか、いつの間にか部屋に陽の光が差し込んできた。先程までは薄暗くて顔色までは見えなかったけど、朝日に照らされるリンクの頬が赤く染まっていることにここで初めて気付く。
 ぽかんとして、上の空……というか、心ここにあらずといった顔をしている。リンクがこんな顔をするのは珍しくて思わず凝視していたら、それに気付いたらしいリンクが口元をばっと抑え私から目を逸らした。

 私の話、ちゃんと聞いてくれただろうか? リンクの顔を覗き込む。でも、目が合う前に今度は顔ごと向こうを向いてしまった。

「リンク?」

 声を掛けても固まったままこっちを向いてくれない。……もしかして変なことを言ってしまったかも。先程話した内容を思い出す。それか、一気に沢山話したから引かれてしまったのだろうか。
 不安になり焦って考えをあれこれ巡らせていたら、やっとリンクが口を開いてくれた。

「っ……それは、僕のことを慕ってくれている……という認識で、いいのかな」

 途切れ途切れではあるが、私に確認をとるように話すリンク。よかった、聞いてくれていたみたいだ。それに私の気持ちもちゃんと伝わっている。

「はい! リンクのことはずっとお慕いしていますよ」
「えっと……そうじゃなくて」
「?」

 そうじゃない? じゃあ……どういうことなんだろう。
 リンクは私に正面から向き合って正座をし、深呼吸した。いつも落ち着いているリンクにしてはなんだか様子がおかしいと不思議に思っていたら、今度は先程とは打って変わって真剣な顔で見つめられる。リンクは真剣な顔のまま、でも優しい声色で話し始めた。

「ゼルダ姫のところに帰れたとしても……僕と一緒に居たいと思う?」
「当然です。もう私はリンクと一緒に居ないなんて考えられません」

 するとリンクは私の手をそっと包む。突然リンクに触れられてどきりと心臓の鼓動が早まる。

「え、……リンク? ……あの、」
「じゃあ、姫と一緒に居たり手を繋いだりして……ドキドキしたり苦しくなったりする?」

 リンクは自分の指に私の指を絡ませながら言う。
大切なものでも扱うかのように指に触れられて、鼓動が一層早まった。

「いっ……いえ、ゼルダ様とは……そうなりません。リンクだけです」

 今度はリンクの手が私の頬に触れる。そのまま親指がつうっ、と私の唇をなぞり、身体が跳ねた。触れられた箇所に熱が集まる。心臓からバクバクと音が聞こえて煩い。

「……僕がキスしたら……嫌?」
「っ!? きっ、キス……は、えっと……嫌じゃないですが、好きな人とするもので……あれ?」

 キスは愛し合っている人がするものだって、本で読んだことがある。でもリンクとのキスを思い浮かべてみても、全く嫌ではない。寧ろ胸がドキドキして苦しくなって、切なくて、嬉しくて……えっと、じゃあ、私はリンクを……

 心の中が晴れて、今までぼやけていたものが全部綺麗に繋がった気がした。込み上げてくるこの気持ちの名前は。

「ぁ……私、リンクのこと……っ!」

 言おうとしたその言葉は、口から紡がれる前にリンクの手で優しく塞がれてしまう。

「ナズナ。その先は、僕から言わせて」

 苦しそうな、切なそうな、嬉しそうな顔。その青い眼には涙の膜が張り、キラキラと綺麗に輝いている。
 リンクもきっと私と同じなんだ。同じことを想ってくれている。

「大好きだよ、ナズナ。僕と……ずっと一緒に居て欲しい」
「――ッ、私も、リンクのことが大好きです……っ! ずっと、ずっと一緒に居たいです……!」

 どちらからともなく抱き締め合う。
 リンクとこうするのはあの夜以来だ。でも、もうあの時とは違う。だって、こんなにも愛しい気持ちで溢れているのだから。



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