「あっ、リンク怪我してる……!」

 私の言葉にリンクはぎくりと目を泳がせる。負傷した左腕を身体の後ろにさっと隠し、後ずさりして私から距離をとった。

「……してない」
「え?」
「き、気のせいだと思う」
「??」

 何故かリンクは私から目を逸らしながらバレバレの嘘をついた。
 今、この状況で嘘をつく意味ってなんだろう……リンクの意図が分からない私はただ頭に疑問符を浮かべた。

「よく分からないけど……とりあえずミファー様たちと合流しなきゃ。行こ、リンク」

 私が手を取ると大袈裟なくらい肩を跳ねさせ、でもぎゅっと手を握り返してきたリンク。予想外の反応にぽかんとする私。え、そこ握り返すんだ。この流れだと振りほどかれるかと思ったのに。
 前までリンクの考えていることなんてすぐ分かったのに、最近は何を考えてるか全然分からない。この行動の意図が何なのかじっとリンクを見て考えていたら、段々リンクの顔が赤くなってきた。……あ、もしかして。

「(怪我したことが)恥ずかしい?」

 繋いだ手から動揺が伝わった。なんだ、そんなこと気にする必要ないのに。この前私に怪我するなって言った手前、気にしてるのかな。

「このくらい誰だってするから。恥ずかしがらなくていいの」
「誰だって……」
「そうそう。だから皆のところに一緒に行こ?」

 こくりと頷くリンクの目が輝いていた気がしたけれど、この時は早く合流することで頭がいっぱいでさほど気に止めはしなかった。

***

――あれから数日。何故かリンクは時間さえあれば手を繋いでくるようになった。

 より一層分からなくなった。リンクが何を考えているのか。なに、さみしがりさんなの?
 子供の頃もよく手を繋いでいたけど、あの時はリンクが私を引っ張ってくれる友達みたいな感じだった。でも今の繋ぎ方は……なんというか、恋人同士のような、そんな感じがする。恋人いたことないから分からないけど。
 一応皆の前ではむやみに繋いでこないけど、そろそろ誰かに見られそうで恥ずかしくなってきた。だから今日こそはリンクに言わないと。

「……ナズナ、」

 きた! 今私達は二人きり、この少し甘い雰囲気で名前を呼ばれて……きっと手を繋ぐ合図。よし、言おう!

「リンク聞いて! こんな手を繋いでるところ皆に見られたら勘違いされちゃうから! だから、」
「? なんて勘違いされるの?」
「えっ!? いや、その……付き合ってる……とか?」
「でもナズナは誰だってするって言ってたよ」
「あ、あれ? そうだっけ……?」

 そんなこと言ったかな、と記憶を辿るけど思い当たらない。でも、リンクが嘘をついているようにも見えない。

「だから大丈夫だと思う」
「うーん……そうかなあ……?」

 自信がなくなってきた。確かに手を繋ぐことくらい誰でもするかもしれない。子供の頃は良くて今は駄目ってこともないのかな……あれ、本当に皆どうしてるんだろう?

「はい、ナズナ」
「あ、うん」

 頭を抱えていたらリンクが手を差し出してきた。そこに当たり前のように自分の手を重ねる。そうだよね。友達なんだし手を繋ぐことくらい普通普通……

「いや! やっぱり違うと思う!」

 急に声を上げた私にびくっと反応するリンク。

「誰に言われたのか分からないけど、疑うことも覚えないと騙されちゃうよ! リンクは素直なんだから」
「いや、ナズナに……」
「言ってない、と思う!」

 困惑するリンクに興奮気味に説く。だってもしリンクと知らない女の子が手を繋いでたら、付き合ってるのかなって思っちゃうから……ってなんだか悲しくなってきた。リンクの彼女を想像するのはなんか嫌だ。
 そんな私の様子を見ていたリンクはきょとんとして首を傾げ口を開く。

「ナズナは勘違いされたら嫌?」
「……え」

 予想外の質問に言葉が詰まった。勘違い、ということはつまり付き合ってると思われること。皆に私がリンクの彼女だと思われること。想像したら顔に熱が集まった。きっと顔も赤くなっていると思う。

「嫌じゃない、けど……」

 恥ずかしい。だって皆に何を言われるか。でも、皆公認で私がリンクの彼女になることを想像したら嬉しくてむず痒くなった。知らない子を想像したときは嫌だったのに。

「そっか。なら大丈夫だよね」

 リンクは珍しく微笑みながら私の手をきゅっと握る。しかも恋人繋ぎで。心臓が跳ねた。

「ま、待って! リンクはどうなの? 勘違いされたら嫌じゃない?」

 ささやかな抵抗でリンクに質問を返す。私ばっかり恥ずかしがってるのはずるい。リンクにも照れてもらうんだから。
 でもリンクは私の質問に間髪入れず、

「寧ろ勘違いされてほしいかな」

 なんてさらりと言ってのけた。

「んなっ……! そ、ソウデスカ……」

 天然なのか計算なのか分からないリンクの言葉に、もう私は大人しくなるしかなかった。これ以上喋っても私が恥ずかしいだけだ。
 顔を真っ赤にしながら俯いた私は、リンクの頬も微かに赤く染まっていることに気付くことはなかった。

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