知らない間にゼルダがマスターバイクという乗り物で戦うようになっていた。

 華麗にバイクを乗りこなすゼルダの顔には今まで見たことないくらいの笑顔が輝いていて。年相応のその無邪気な顔に私まで嬉しくなり、思わず頬が緩んだ。

「ナズナ、どうしました?」

 訓練を終えたゼルダがこちらに近寄ってくる。客観的に見たら私一人でにやにやしてた訳だから、ゼルダが不思議に思うのも仕方ないか。私は特に隠すでもなく口を開いた。

「なんか安心して。ゼルダがこうやって笑ってるの、凄く久しぶりだもん」

 ゼルダは一瞬きょとんとした後、少し照れたようにはにかむ。

「一人でもこんなスリルのあることが出来るのが嬉しいのです。それに、特訓すればするほど結果に現れてくれますから」
「、ゼルダ……」

 何気なく発した言葉なのかもしれないけれど、私の心には込み上げるものがあった。小さい頃からずっと色んなことを我慢して頑張り続けた姿を知っているから。先の見えない修行ばかりだったから、目に見えて自分の上達が分かることが新鮮で嬉しいのだろう。

 溢れ出る好奇心を止めることもなく子供のようにきらきらと目を輝かせるゼルダを無性に甘やかしたくなって、彼女をぎゅっと抱き締めた。

「わ、ナズナ?」
「ゼルダ凄く頑張ったもんね。私がいーっぱい褒めてあげる」

 そう言ってゼルダの頭を優しく撫でると、彼女は鈴を転がすように笑った。

「ナズナにこうされるの久しぶり。昔は泣いている私をよく慰めてくれましたよね」
「そうだよ。だってゼルダ全然泣かなくなるんだもん……ずっと心配してたんだから」
「……ありがとう、ナズナ」

 ゼルダが泣かなくなったのはいつからだっただろう。どんなに辛いことがあっても、酷い言葉を吐かれても決して泣かなかった。私はそれが怖かった。ゼルダが壊れてしまいそうで。彼女が時折漏らす弱音に安堵するほどには、そう思っていた。

 でも、きっともうそんな思いをすることは無いだろう。ゼルダも私も。だって、もうこの世界は平和になったのだから。

「――あんまり無茶はしないでよ? 怪我して帰ったらお城中が大騒ぎするんだからさ」
「ふふっ、大丈夫ですよ。ナズナは相変わらず心配性ですね」

 封印の力に目覚めて厄災の脅威も去って。大きな重圧から解き放たれたのだから、これからは今までやれなかったことを思う存分楽しんでほしい――なんて思ったとある昼下がりの出来事だった。

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