今日は嘘をついても怒られない日、らしい。どこかの小さな村の風習がいつの間にか城下町にも伝わって、ここ数年の間で知名度が上がってきたとゼルダが教えてくれた。ハテノ村にはそんな風習は無かったから興味を惹かれるものがあった。

 ということでリンクに嘘をついてみたいのに、良い嘘がなかなか思い浮かばない。どうせなら楽しんでもらいたいけど……何か良い嘘はないかなあ。

「さっきから唸ってるけどどうした?」
「あ、リンクさん。リンクにつく嘘を考えてるんです。何か良い嘘ありますか?」

 私の言葉に首を傾げるリンクさん。今日が嘘をついても良い日だということを説明したら、「この時代はそんな変な風習があるのか」と言われた。でもリンクさんも興味を持ったようなので、とりあえず一緒に嘘を考えることにした。

「息吹が好きなものって何だ? それに関する嘘なら食い付きそうだけど」
「リンクが好きなものですか。食べることと、料理と、あとは……」

 私……なんてふっと頭に浮かんで急いで首を横に振る。いやいや、それは流石に言葉にするのは恥ずかしい。バカップルかっての。

「ナズナのことは確実に好きだもんな。ナズナが何かすれば良いんじゃないか」
「ちょっ!」

 リンクさんにさらりと言われ思わず顔を赤くする。リンクもリンクさんも、好きとか愛してるとかストレートに言うの恥ずかしくないんだろうか。ちょっと羨ましい気もするけれど。

「俺だったらナズナが俺の為に可愛い嘘を考えてくれたらそれだけで嬉しいけどなあー……」

 ぽわぽわと何かを思い浮かべている様子のリンクさん。きっとリンクさんの時代のナズナさんのことだろう。
 そういえばリンクさんは暫くこっちにいるからナズナさんに会えてないんだよね。流石にナズナさんを呼ぶことはできないけど、リンクさんにも何かお礼をしないと……と思っていたらリンクさんが何か思い付いたのか、ばっと私の方を向いた。

「……なるほどな。ナズナ、外行こうぜ」
「?」

 なるほど? 何が? と疑問に思ったけれど、リンクさんに言われるがまま私達はハイラル森林公園へと向かった。


***


「息吹、大変だ! ナズナが猫になった!」

 仕事から帰ってきたリンクに向かって猫を掲げるリンクさん。午前中しか嘘をついてはいけない気がしたけど、仕事だったから仕方ない。その様子をしのび薬を飲んだ私がクローゼットの中に隠れて見守る。リンクがどんな反応をするかわくわくするなあ。

「なに、猫? ナズナが? えっ、この猫がナズナなの? なんでナズナが? は?」

 青ざめながら私の名前を連呼するリンク。だいぶ混乱している様子だ。普通の人なら人間が動物になるなんて嘘を信じるはずないだろうけど、私たちには目の前にリンクさんという前例がある。信じても不思議じゃない、と思う。

「実は……俺の時代のナズナと魂が繋がったみたいでこんなことに……すまない、俺がついていながら」

 リンクさんは迫真の演技でリンクを騙す。というか設定まで考えてたんだ。ノリノリだな。一方リンクは絶句して呆然と猫を見つめている。
 猫を探してる時もだったけど、リンクさんって見た目に反してかなり少年っぽい。そのお陰で今この状況ができた訳だけど。

「た、魂? 先輩のナズナって猫なの? どうやって元に……あっ、そうだマスターソード!」

 リンクさんが初めて人間の姿になった時のことを思い出したのか、慌てて猫ちゃんにマスターソードを触れさせるリンク。でもにゃーと鳴くだけで何も起こらない。当たり前だけど。リンクは項垂れた。

「ええぇぇ……ナズナ……どうしよう、オレナズナがいなかったら生きていけない……いやいるんだけど……」

 リンクは涙目になりながら猫を撫でる。そろそろネタばらしをしないと流石に可哀相かも。リンクさんに目で合図を送るけど、まだ駄目と視線で返された。……なんだろう、何か考えがあるのかな。

「息吹、ナズナを抱っこしてやってくれ。きっとナズナも心細いと思う」
「うん……そうだよな。こんなことになって一番辛いのはナズナだよな……」

 そう言ってリンクさんはリンクに猫を抱かせる。すると今まで大人しく抱かれていた猫がイヤイヤと暴れてすとんと床に降りてしまった。それに対してショックを受けた様子のリンクがおろおろと猫に声を掛ける。

「ごめんナズナ! 猫を抱っこするの初めてだから変な体勢にさせちゃったかな……って、あれ?」
「ん? どうした、息吹」
「いや……」

 猫の様子をじっと見るリンク。当の猫はというと、リンクには目もくれずリンクさんの足下に擦り寄りゴロゴロ喉を鳴らし、尻尾もピンと立て小刻みに震わしている。完全に喜んでいる仕草だ。
 違和感に気付いたのだろうか。リンクは無言で猫に手を差し出すが、猫は視線を向けるだけでリンクさんの側から離れようとしない。

「……先輩、この猫ナズナじゃないでしょ」

 リンクはジト目でリンクさんを見る。笑顔のリンクさんは「バレた?」とあっさり認めた。

「やっぱり! ナズナはオレのことが大好きだからオレに擦り寄ってこないはずがないからな!」
「っ!!」

 声が出そうになるのを両手で必死に抑える。ほら、またそうやってストレートに言う! 間違ってはいないけど!

「そうなると本物のナズナはこの部屋の中にいるんだろ。微かに感じてたんだよナズナの気配は。だから猫がナズナだって勘違いした訳だけど」

 うそ、Lv3のしのび薬なのに? きょろきょろと部屋を見渡すリンクに見つからないよう息を潜めるけど無駄な足掻きで、クローゼットの隙間から覗く私とばっちり目が合った。
 リンクは目を細めて笑い、「みーつけた」と勢い良く扉を開く。こわい。そのまま手を引かれ、リンクの腕の中にすっぽりと収まってしまう。

「悪い子だなあナズナは。嘘をついていい日だからってオレを騙そうとしたんでしょ。知ってるから怒りはしないけど覚悟しといてよ」
「え、なんで!? 今日だからやっただけだもん。悪い子じゃないから!」
「オレの性格知ってるナズナがこうなるの予想できない訳ないよね? 後でお仕置きするから」
「なっ……」

 合法的にリンクに悪戯できる唯一の日だったのに、リンクからしたらあんまり関係なかったみたい。助けを求めてリンクさんを見るけど、にやにや笑うだけで何もしてくれない。ひどい。共犯なのに。

「あとさ、先輩たちオレを試してたでしょ」
「……何のことだ?」

 先輩たち? リンクの言葉に違和感を覚え首を傾げると、リンクにぎゅっと力強く抱き締められた。
 リンクさんは猫を抱き上げ優しく撫でている。視線はリンクに合わせようとしない。

「前も試されたことあるんだよ。あーもう、バレてるんだから姿見せればいいのに。居るんだろ? 時の勇者」

 リンクは溜め息をついてリンクさんの背後に目をやったので私もそちらに目を向ける。すると、ふっと緑衣の青年が現れた。あれは……!

「時の勇者様!」
「久しぶりだね、ナズナ」

 にっこり笑いこちらにひらひらと手を振る勇者様は、あの時と変わらない姿でそこにいた。まさか、また会えるなんて。

「っ! 勇者様、あの時はありがとうございました! あれから時の神殿に何度か行ったのですがお会い出来なくて……」

 やっとあのお礼が言えた。私の力が無くなったから見えなくなってしまったのかと思ったけれど、今見えているということはそうではなかったみたい。勇者様は私の言葉に優しく微笑む。

「僕からは見えてたから分かってるよ。ありがとう、会いに来てくれて」

 その言葉にほっとする。でも、リンクは相変わらず私を抱き締める力を緩めない。ちらりと見ると、不貞腐れているような顔をしていた。

「先輩までグルだとは思わなかったなー、あーオレ悲しいなー」
「拗ねるなよ。結果オーライだろ? ナズナのこと見破れたんだし」
「そうそう。もしあんなものも見破れないようなら息吹にナズナを任せてられないからね」

 その言葉に、リンクと勇者様の間に流れる空気が凍りつく。居心地が悪いのでリンクさんに「いつから二人で計画してたんですか」と聞いたら、「外に誘ったときくらいから」と言われた。結構初めからじゃないの。
 すると「ああそうだ、」とふと思い出したように勇者様が口を開いた。

「正式にお許しが貰えたから、たまに僕もこの時代に遊びに来るね。トワが居ないと来れないけど、まあよろしく」
「は!?」
「えっ、本当ですか先代!」

 あからさまに嫌そうな顔をするリンクと、ぱあっと嬉しそうな笑みを浮かべるリンクさん。真逆の反応をする二人が面白くてつい吹き出した。

「……今日言いにきたってことは、これも嘘なんだよな?」
「残念、嘘じゃないよ。本当です」

 リンクの問いにも変わらず笑顔を崩さない勇者様。顔を引きつらせているリンクには申し訳無いけれど、これから賑やかで楽しくなりそうだなあと密かに思った。

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