「お願いリンク、インパ様にも認めていただいたんだから一緒に行かせて。私も皆の力になりたいの」
「……まだ駄目」
このやり取りももう何度目だろうか。
あの時、姫様の力の覚醒と合わせてナズナにも力が宿った。ナズナは元々センスがあったのか、この短期間で力を使いこなし既に並の兵士が束になっても敵わない程に強くなっている。インパにも実力が認められたということならば、きっと戦場でもオレ達の力になってくれるのだろう。
でも、オレはナズナを戦場に行かせたくない。ナズナのお願いをずっと拒み続けている。
「良いじゃないですかリンク。先程も手合わせしましたが、ナズナはきっと私達の力になってくれます。どうしてそんな渋っているのですか」
「インパ様……!」
インパからの賛同に目を輝かせるナズナ。こくこくと頷き、期待の目でオレをじっと見る。その熱意につい揺らぎそうになったけど……やっぱり駄目だ。ナズナが痛い思いをしたり、ましてや酷い怪我でもしたらどうしようと悪い想像ばかりしてしまう。怪我はミファーが治してくれるけど、そういう問題じゃないんだ。
「っ、駄目なものは駄目。怪我する可能性が少しでもあるなら駄目」
「リンクだって怪我することあるのに……」
「……オレはいいの」
「えぇ、何それ!」
そう言ってナズナは不貞腐れてしまった。少し心が痛むけど、ナズナの為なんだ。そう自分に言い聞かせていたら、オレの背後から声が聞こえた。
「……リンク、もしかしてナズナを護る自信が無いのですか?」
ばっと振り向くとそこには姫様が立っていた。どこか棘のある言葉とは裏腹に、にこにこと笑顔を浮かべている。
「ひ、姫様……? いやその、」
「それでしたら私が護りますのでナズナ、一緒に行きましょう。私はナズナが側に居てくれること、とても心強く思っていますよ」
姫様は満面の笑みでナズナの手を取る。姫様の言葉を聞いたナズナはぱあっと花が咲いたような笑顔を浮かべた。
「……! うん! ゼルダ、ありがとう。頑張るからね」
「それなら姫様! 私もお供致します!」
「ふふっ、ありがとうインパ。では行きましょうか」
あれよあれよという間に出陣の準備を始める三人。姫様と離れる訳にはいかないので、オレも慌てて付いて行く。
「姫様、オレも同行しま……っ、」
振り向いた姫様の顔に、思わず続く言葉を呑み込んだ。決して笑顔を崩すことはしないが、瞳の奥に怒りが見える。鈍いオレでもはっきり分かった。
「リンク、後でお話があります」
「……はい」
***
ナズナの初陣は見事なものだった。結晶のようなバリアは前に見せてくれたけど、オレの知らないうちに炎で攻撃したり短距離のワープをしたり……だいぶ色々なことが出来るようになっていた。確かにあれ程戦えるなら問題ない……のかもしれない。
戦闘後オレに近寄ってきた姫様は軽く溜息をつき、眉を下げ少し困ったような様子で話しだした。
「心配なのは分かりますが……もっとナズナの気持ちを尊重してはどうですか? 今回の戦いを見て分かったと思いますが、ナズナは頑張ってあそこまで戦えるようになったのですよ」
「っ、理解はしているのですが……」
「戦えるのに一人置いていくほうが可哀想でしょう? 皆の役に立ちたいという気持ち、私には痛いほど分かります。……リンク、ナズナを信じてあげて下さい」
姫様に言われはっと気付く。オレは……ナズナのことを信じていなかったのか?
思い返せば、ナズナに宿った力は戦闘向けの能力ではないとオレは最初から決めつけてしまっていた。オレにとってナズナはずっと護るべき存在だからと、今のナズナに正面から向き合おうとしなかった。
努力家のナズナのことだ、きっと皆の足を引っ張らないようにと自分なりに必死で戦い方を覚えたのだろう。その努力を信じてあげられないなんて……酷いことをしてしまった。
「……そう、ですね……」
姫様に言われてようやく気付くとは。主君に余計な気を使わせるなどの失態、本来なら呆れられる所だろう。それなのに、気落ちするオレを見て姫様はふっと優しく微笑んだ。
「――では決まりですね。分かって頂きありがとうございます。それと……先程は煽ってしまい申し訳ありませんでした。ああでも言わないとナズナを連れ出せそうにも無かったので。……ナズナには、私から伝えておきますね」
「っ、姫様」
踵を返しナズナの元に向かおうとする彼女を呼び止める。
「……オレが言います。ナズナに謝らないと」
振り返った姫様は嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
「――ナズナ」
「あっ、リンク! ねえ、どうだった? まだ……駄目、かな」
ナズナはオレを見つけるや否や駆け寄ってきた。不安そうな顔でオレを見る。今まで自分の我儘できっと何度もナズナを傷付けた。謝らないと。
「ナズナ、ごめん」
「っ! ……そっか、そうだよね。ごめんねリンク、何回も聞いちゃって」
「あ、いやそっちじゃなくて」
「え?」
言い方が悪かったせいでまたナズナを悲しませてしまった。だがナズナはきょとんとした顔でオレを見た後、徐々に表情を明るくする。……まさかこの短い会話だけで気付いたのか。口下手なオレの心情を誰よりも察してくれるナズナは正直凄いと思う。
「それってもしかして……!」
「……これから一緒に頑張ろう」
「……っ、うん! リンク、ありがとう!」
ナズナは余程嬉しかったのか勢い良くオレに抱き着いた。
「っ、!?」
何とは言わないが、柔らかいものがオレに当たり顔が一気に熱くなる。ナズナはオレの様子を見てそれに気付いたようで、ばっと素早く距離を取った。
「っ! ご、ごめんリンク! つい昔の癖で……」
自分の手で顔を隠しながら謝るナズナ。指の隙間から覗く顔は真っ赤だった。意識……してくれているんだよな、これ。
オレの役目を果たすまではナズナへのそういう感情はしまっておくと決めたけど、こうやってナズナの隣に居ることに幸せを感じることくらいは……許してもらおう。
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