「ねえ、明日くらいゆっくり休もう? 久しぶりに村に戻ってきたんだから。その調子だと暫く寝てないでしょ」

「ありがとうナズナ、心配してくれて。でもまだやること残ってるしオレは大丈夫。明日も出掛けるね」

「リンク……」


リトの村に戻ってきたオレを心配そうに出迎えてくれたナズナ。今はリトの村を拠点にして探索してるけど、ヘブラ地方は険しい雪山が多いこともあって少し難航している。
今日だって数日ぶりに村に戻ってきた。祠の反応はあるのに全然見つからないから、マップに印だけ付けて一度引き返してきたところだった。


ナズナはオレの言葉に納得していない様子だったけど、少し考える様子を見せた後口を開いた。

「……分かった。でも、お願いだから明日は午前中だけでも良いから休んで。あと今日の宿代はリンクのぶんも私が出す」

そのまま背中を両手でぐいぐい押されて宿屋の中まで連れて行かれる。

「え、どうしたの? いいよ、オレが出すから。何かあった……」

「はいはい、気にしないの。セセリーさんすみません、今日はリトの羽毛ベッドでお願いします」

「っ!? 普通のベッドでいいってば……!」

ナズナはオレが払う間も与えず80ルピー支払ってしまった。宿代を出してくれて、しかも少しお高めのベッドにしてくれるなんて急にどうしたんだろう。疑問は残ったままだけど、少しナズナが怖い顔をしているので促されるままベッドに潜り込んだ。


「っ! うわ……!」

思わず声に出してしまうほど暖かくてふかふかで気持ち良い。リトの羽毛ベッドでは初めて寝るけど、馬宿のふかふかベッドよりも段違いでふかふかだ。これなら体力だけじゃなく気力も回復できそう。感動しているオレを見たナズナはくすりと笑った。

「良く眠れそうでしょ? とにかく今はゆーっくり休んでね。おやすみなさい、リンク」

「うん……おやすみ、ナズナ……」

自分で思っていたよりも疲れが溜まっていたみたいだ。まるで柔らかい雲のような羽毛に包まれたオレの瞼はどんどん重くなり、次第に意識は夢の中へ落ちていった。



***



「……ん、」

陽の光がオレの顔を照らす。眩しくて布団の中に頭ごと潜ろうとしたところではっと気付いた。
……今、何時だ?
がばっと飛び起き、宿屋の中を見渡す。しかしナズナの姿は既になく、代わりに村の入口の方からナズナと村の子供たちの笑い声がこちらに近付いてくるのが耳に入った。


「お姉ちゃん、おサカナ捕まえるの上手だね! 」

「ふふっ、ありがとう。電気の矢を使うのは反則な気もするけどね……」

「サーモンムニエル作るんでしょ? いいなあー、あたしも食べたい!」

「勿論。手伝ってくれたお礼にご馳走するよ! 初めて作るから、失敗しないように応援してくれると嬉しいな」

「いいよー! お歌で頑張れって応援してあげるね!」


きゃっきゃっと楽しそうにはしゃぐナズナとリトの子供たち。その声につられて宿屋から顔を出すと、オレに気付いたナズナが駆け寄ってきた。

「おはよう、リンク! 良く寝てたみたいだから先に起きて準備してたんだ。これから朝ごはん作るから、もう少し休んでていいよ」

そう言うナズナはマックスサーモンを抱えている。先程の話からすると、村の入口近くにある池から捕まえてきたばかりなのだろう。自分の服が濡れることなんて気にも留めない様子のナズナはオレににこにこと笑顔を向ける。

「あ、ありがとう……? ナズナ、急にどうしたの? 今日何かあるんだっけ」

昨日から疑問に思っていたことを聞いたら、ナズナは少し眉を下げて笑った。

「だって今日はリンクの誕生日でしょ? ……やっぱり忘れてたんだね」

「……あ、」

そういえばそんな時期だったかもしれない。ずっと慌ただしいことばかりだったから、すっかり忘れていた。

「本当はお祝いしてる場合じゃないのかもしれないけど……こんな理由でもつけないとリンクは休んでくれないでしょ? 自分の誕生日を忘れるくらいずっと頑張ってたんだもん。少しぐらい息抜きしてほしいな」



***



炊事場に広がる良い香り。じゅうじゅうと魚の焼ける音と相まって食欲を誘う。
確かナズナはあまり料理が得意ではないと言っていたはず。それなのにオレの為に一生懸命料理をしてくれているナズナが愛おしくて嬉しくて、さっきから頬が緩みっぱなしだ。

ナズナにどこでレシピを覚えたのか聞いたら、ハミラさんから教えてもらったとのことだった。それを丸暗記して頭の中で何度もシミュレーションして……と、何ともナズナらしい答えが返ってきた。

辿々しいながらもきちんと工程通りにサーモンムニエルを作るナズナ。その周りで歌を歌う子供もいれば、料理鍋をじっと眺めていたり食器を用意する子もいたりと炊事場が軽いお祭り騒ぎになっている。その微笑ましい光景に自然と笑顔になった。



「リンクお待たせ! できたよー!」

目の前に差し出された皿の上には綺麗に盛られたサーモンムニエル。オレの食べる量に合わせて魚が厚めに切られていて、ナズナの気遣いが感じられた。

「うわ、凄く美味しそう……! ナズナ、ありがとう」

素直に感謝の気持ちを述べると、ナズナは「どういたしまして」とはにかみながら笑った。

「やっぱり実際に作ってみると難しいね。本当はケーキも作れれば良かったんだけど……リンクみたいに上手くなるには数をこなすしかないかなあ?」

あはは、と照れ笑いをするナズナのサーモンムニエルは少し焦げ付き、形が崩れてしまっている。先に自分ので練習したのだろうか。ナズナのその健気さに心がじんわり温かくなり直ぐにでもナズナに抱き付きたい衝動に駆られたが、子供たちの手前それを踏みとどまった。


「お兄ちゃん誕生日なんでしょ? ゴハン食べ終わったら誕生日のお歌みんなで歌ってあげるね!」

ナズナから料理を受け取った子供たちもご機嫌なようだ。可愛らしい提案にありがとうと言うと、「この前お手伝いしてくれたお礼だよ!」と元気な返事が返ってきた。

ここのところずっと探索と謎解きが続いていたから……たまにはこうやってのんびりするのも良いかもしれない。ナズナのお陰で睡眠も充分とれたし、皆の楽しそうな姿を見るとオレも元気になってくる。



「リンク、誕生日おめでとう。二人でまたこうやってお祝いができて……本当に幸せなの。生きていてくれてありがとう」

そう言ってナズナは少し頬を染める。ナズナの言葉に思わず目頭が熱くなった。

「っ、……! そんなのオレだって。ナズナに祝ってもらえて凄く幸せだよ。今日は本当にありがとう」

辛いことも多いこの旅だけど、ナズナが支えてくれるからオレはまだまだ頑張れそうだ。早くゼルダ姫を救ってナズナを安心させてあげたい。そして、平和なハイラルを見せてあげたい。


元気な「いただきます」がリトの村の空に響く。
来年も再来年も……こうやってずっと一緒にナズナと誕生日を祝えるといいな。

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