「リンク髪伸びたね。そろそろ切ったほうがいいかも」

 ソファでくつろぐリンクの襟足を見て呟いた。丁度肩に当たるくらいの長さになった金色の髪は片側だけ外向きに跳ね、少し間の抜けた雰囲気になっている。

「そう? まだいけそうだけど……」

 そう言ってリンクは自分の毛先を触るけど、一部分ぴょこんと跳ねていることには気づいてないみたい。

「身だしなみはきちんとしておかないと。ゼルダお付きの騎士なんだから」

 リンクの髪に触れ、その跳ねた毛束をつまんでみたら枝毛を数本発見した。折角綺麗な金色なのに勿体無いなあ。

 リンクは髪に無頓着だ。結える程度に伸ばしているのは朝に寝癖を直すのが面倒という理由からだし、そこそこ長い割にお手入れだってしていない。それでもそこまで酷く傷んでないのは元々の髪質が良いからなのかな。羨ましい。
 ちゃんと手をかけてあげればもっとつやつやさらさらの綺麗な髪になると思うのに。リンクとしてはどうも面倒が勝ってしまうみたいだ。

「んー、じゃあ後で切っとくよ」
「……もしかしてまた自分で切ろうとしてる?」
「やっぱ駄目?」
「だーめ! またあんなことになったら大変じゃない」

 昔、リンクが自分で髪を切って悲惨なことになったことがある。切り口ガタガタで長さも歪。しかも何を思ってそうしたのか、ハーフアップにしたまま襟足部分をカットしたから妙な髪型のまましばらく過ごしていたのだ。
 本人は気にしてなかったしあの時は訓練兵だったからまだ良かったけど、今は立派な近衛騎士なんだから流石に変な髪型でいるのは相応しくないと思う。

「じゃあナズナが切ってよー。オレ他人に髪切られるの嫌なんだもん」

 少し口を尖らせながら私に抱きつき甘えてくるこの姿、いつもきりっと凛々しい近衛騎士様とは似ても似つかない。私にだけ甘えてくる姿は可愛くてしょうがないんだけど、可愛いって言うと拗ねるから口には出さないでおく。

「切れるなら切ってあげたいけど。あれよりもっと変になるかもよ」
「別にいいよナズナなら」
「いや駄目でしょ……うわ、」
 
 腕を引かれぐるんと視界が反転し、あっという間にソファに押し倒されてしまった。私を見下ろすリンクの顔は、何故だかどこか嬉しそう。

「こら、誤魔化すつもりでしょ」
「そんなことないよ。切れないなら逆にもっと伸ばしてまとめればいいかなって思っただけ」
「……それもそっか」

 襟足部分も結ってしまえば確かに跳ねはしないなあ、なんて考えていたらリンクが私の首元に顔を寄せ、すうっと髪の匂いを嗅いだ。唇が首に触れてちょっと反応しちゃったけど、多分わざとだと思う。

「ナズナと同じ匂いになれるならオレもトリートメント使おうかな。仕事中にナズナの匂いしたらやる気出そうだし」

 ぴょこんと髪を跳ねさせたまま恥ずかしげも無く甘い言葉を吐くリンクが可笑しくて思わず吹き出してしまう。

「ふふっ、あんな面倒だって言ってたのに。へんなの」
「身だしなみはきちんとしないといけないからね」
「それ私が言った言葉なんですけどー」

 こんな他愛もない会話で笑い合っていたらすっかり髪を切る話は流れてしまった。これから本当に髪を伸ばすのかは分からないけど、でも髪のお手入れをしてくれるみたいだしまあいっか。

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