「今日はどこに行く予定なの?」

「ゲルドの街かな。イーガ団のアジトの詳しい場所を知ってる人が居ないか探してみる」

ゲルド族の神器である雷鳴の兜。どうやらそれをイーガ団に盗まれてしまったようで、奪還を頼まれたリンクは彼らのアジトを探している最中らしい。

でも、ゲルドの街って男子禁制だったような……? 頭に疑問符を浮かべる。するとリンクに「これ着ておいて」と笑顔で服を手渡された。何だろうと思いその服を広げると、それはゲルド人がよく着ている淑女の服だった。砂漠という土地柄か、露出が多めの服だ。

「……これ着るの? ちょっと恥ずかしい……かも」

素直な感想を述べる。ゲルドの街には別にこの服じゃないと入れない訳ではないはず。それならハイリアの服でもいいと思うけど……

「オレも一緒に着るから恥ずかしくないよ! それに、その格好のナズナ絶対可愛いと思う。……ちょっと待ってて!」

ん?「オレも着る」って??
言葉の意味を理解出来ていない私をよそにどこかに行ってしまうリンク。というか、可愛いってさらりと言われたことに顔が赤くなる。記憶を無くしてからのリンクは私への愛情表現がストレートだ。そんな事言われ慣れていないので毎回ドキドキするし、どんな反応をしていいのか分からない。

「お待たせ!」とリンクは直ぐに戻ってきたーー淑女の服を着て。
その姿をぽかんと見る私。……なるほど、オレも着るって言葉通りの意味だったのか……確かにリンクは中性的な顔をしてるから、女装をすればゲルドの街に入れなくはない……のかな? 実際可愛いし。
期待した目で私を見つめるリンク。私も着なくちゃいけない雰囲気だよなあ、これ……


***


結局淑女の服に着替えた私は、リンクと一緒にゲルドの街へやって来た。可愛い可愛いと絶賛するリンクの言葉に照れはしたが、そんなに喜んでくれると何だか嬉しくなってくる。
アジトの場所の手掛かりを聞いたリンクは「オレが戻るまで絶ッ対! 街から出ちゃダメだよ!」と言い残し、カルサー谷の方へ向かった。

……それにしても、遠くに見える神獣ナボリス。実際に動いているのは初めて見た。街からは結構離れている所を徘徊しているけど、ここにまで地響きが届いている。


「ね、ねえ君! さっきリンちゃんと一緒にいた子だよね!」

ナボリスに夢中になっていたら男の人に声を掛けられた。しまった、よく見ようとしてだんだん街から出ちゃってたみたいだ。でもリンちゃん……? 誰の事だろう。

「うーん、人違いだと思いますよ。リンちゃんって子は知らないですし」

「えっ!? 水色の淑女の服を着た金髪のハイリア人の子なんだけど……おかしいな、確かにさっき見かけたのに……」

……もしかしてリンクの事かな。色々と突っ込みたいところはあるけど。



話を聞くと、このボテンサさんという人はどうやら女装したリンクを女の子と思い込んでいるらしかった。何か考えがあってのことなのかもしれないので、リンクが男だということは一応黙っておく。

話の中で八人目の英雄の話が出てきたこともあり、会話が盛り上がっていたら突然ボテンサさんが私の背後を見て固まった。青ざめながら顔を引きつらせて「リ……リンちゃん……?」と言う。リンクが帰ってきた? さっき出かけたばかりなのに、と思いながら後ろを振り返ると女装をしたリンクが物凄い不機嫌オーラを纏いながらずかずかとこちらに向かってきていた。眼が怒っている。

やばい。街から出るなって言われてたんだった。怒られる!

「ごめんリンク! うっかり外に出ちゃってーーーんむっ」

謝ろうとしたがその言葉は途中で防がれた。……リンクの唇によって。布越しではあるが。
思いがけないリンクの行動に身体が硬直する。

キ……キス、キスされた!? しかも人前で!!

ボテンサさんの様子は見えないが、絶対に見られている。顔に熱が集まった。
リンクは固まっている私を抱き寄せると「こういう訳だから」とだけボテンサさんに冷たく言い放ち、私の腕を引き街の中へ入っていった。


路地裏に連れてこられ、壁際に追い詰められる。まだ怒っているようだ。リンクは大きくため息をついた後、話し出した。

「またアイツがウロウロしてたから嫌な予感がしたんだよなあ……戻ってきて正解だった。ナズナ、街から出ないでって言ったよね?」

「う……ごめんなさい」

「ナズナはもっと自分が可愛いって自覚持ちなよ。あんな分かりやすく下心丸出しの男にさえ引っかかるなんて心配でオレが持たない」

ぎゅっと抱き締められ、ぐりぐりと頭を擦り付けてくる。……なんだか犬みたい。くすりと笑うと「真剣なんだけど」とジト目で言われたのでごめんと返した。

「……やっぱりナズナは淑女の服、オレと居るときしか着ちゃだめ。街の中だけなら安全だと思ってたのに外に行っちゃうんだもん」

不貞腐れた顔でそう言う。可愛い。……って本人に言ったら怒るだろうから言わないけど。

「これから気をつけるね。……リンク、ありがと」

私もリンクをぎゅっと抱き締め返す。
昔は自分の感情を出すことなんてしなかったリンク。そのリンクにこんなにも大切にされて嫉妬もされて。それが非常に嬉しくて顔が緩んだ。でも、約束を破って心配させたのは申し訳ないと思っているので反省するけれど。

「……うん。分かったならよろしい」

顔を見合わせて二人で笑った。


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