魔物の中でもチュチュは可愛いほうだと思う。 

 ぷるぷるしててゼリーみたいだし、頑張ってぴょんぴょん跳ねてる姿は癒される。勿論、チュチュ自体そんな強くなくて簡単に倒せる魔物ってこともあると思うけど。スナザラシみたいにぬいぐるみ化したら結構売れるんじゃないの? って思ってるのは私だけじゃない。きっと。

 なんて、今のこの状況に対する言い訳を頭の中に並べてみた。
 私の手のひらにすっぽり収まる小さなチュチュ。逃げようともせず、むしろ甘えるように潤んだ瞳でじっと私を見つめてくるせいか胸の奥からきゅんきゅんが溢れ出して止まらない。こんな可愛くてしょうがないなんて思うのハイリア犬がお腹見せてごろごろしてくれたとき以来かも。ああ……可愛い。


――そもそも、これは調査中に偶然しなびたチュチュを見つけたのが始まりだった。
 チュチュってしなびることあるんだ、なんて好奇心が疼いて、持参していた水をかけてあげたら勢い良くそれを吸い上げてあっという間にいつものぷるぷるの姿になって。初めて見るチュチュの生態に少しばかり感激してたら、元気になったその子は私を攻撃するどころか嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねて擦り寄ってきた。その姿が可愛いのなんのって。
 手のひらを差し出してみたらいそいそと乗ってきてそのまま降りないし私も満更じゃないし、ほわほわ気分のままついうっかり城下町の近くまで連れてきちゃった。
 でも、こんな小さくて可愛い子でも魔物は魔物。流石にここから先に入れるわけにはいかないよね……どうしよう。

 きょろきょろ辺りを見回してみる。多分、兵士さんに見つかったら問答無用でチュチュゼリーにされちゃうだろうから逃がすならもっと遠くにしないと。でも――
 ちらっとチュチュに目をやると、首を傾げるように身体を少し斜めにずらし私を見上げた。いや首なんてないんだけどそう見える。かわいい。というか何でこんな懐いてるの? 今まで人間に好意的な魔物なんて見たことなかったのに。思い当たるのは水をあげたことだけど、もし仮に助けてもらったと認識できてるとしたら下級魔族のチュチュにも知能があるってことだよね。本能とか反射で動いてる訳じゃないのは地味に新しい発見なんじゃない? それなら研究対象として保護してもらうとか……ううん、そもそも魔物の生態を研究してる人なんて身近にいないじゃない。というか私も私で情が湧いてきちゃってるし。どうせ逃がすことになるんだから余計なこと考えちゃだめ――

「ナズナ? 何やってんのこんなトコで」
「ぎゃああ!」

 突然背後から声をかけられ心臓が飛び跳ねる。慌ててチュチュを手で覆い、声のした方を振り返ったら目の前にはプルアさん。何でこんなところに、と思ったけどここは王立古代研究所と城を繋ぐ街道だから居てもおかしくはないのか。
 ああこんなときにどうしよう、プルアさんに隠し通せる自信なんてない。

「何か隠したでしょ。なになにー? 見せなさいよ」
「っ! だめです!」

 プルアさんに見つかったらあんなことやこんなことされちゃう! ……勝手な想像だけど。
 後ろに回り込んでくるプルアさんを必死に避ける。でもシーカー族の動きに敵うはずもなく、あっさりと捕まってしまったのだった。


***


「じゃあ一旦ウチで保護するわよ」
「……え?」

 そんなこんなで今までの経緯を説明したら、あっさりこの子の保護を受け入れてくれた。でもプルアさんって自分にメリットないことをわざわざ引き受けたりなんてしなさそうなのに。まさか実験体にでもするつもりだったりして、と怪訝そうな顔をしていたらカラカラと笑い飛ばされてしまった。

「こんな小さいチュチュ自体見たことないし、ガノンを封印した影響が魔物にも表れてるのかもね」
「な、なるほど……?」
「しばらく観察して害が無さそうなら飼ってみたら? この大きさなら部屋で飼えるでしょ」
「そんなペットみたいに……そもそも城に魔物を入れるなんて許可下りるわけないじゃないですか」
「知らないの? 試験用に牢屋の奥でスタルヒノックス飼ってるんだからチュチュくらい平気平気」
「えぇ!?」

 さらっとすごいことを聞いた気がするけど、それが本当なら確かにこの子一匹くらいどうってことないのかも。
 少しの期待を胸に、私の手の中ですやすやと眠るチュチュに視線を落とした。

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