「なんで!? 夜は向こうに戻るって言ってたじゃん!」
「ごめんね……とりあえず今日だけでも駄目かな? 流石に野宿は申し訳ないし……」
「先輩と違ってオレは夜しかナズナと二人きりになれないのに……」
「そんな目で見んな。俺も悪いとは思ってるよ」

 拗ねるリンクを二人がかりでひたすら平謝りして宥める。

 城下町の宿屋はもう遅いこともあってか満室になってしまっていた。仕方ないので今日は私たちの部屋に泊まってもらおうと思ったけど、リンクがそれを渋っている。
 男の人を部屋に泊めることは少し悩んだけど、私もリンクさんもお互い親戚のようにしか見ていないしリンクもそれを分かっている。だから一日だけなら大丈夫かと思ったけど……納得いかなかったみたい。


「明日は朝から宿取っとくからよ……ナズナも悪いな、邪魔して」
「いえ、お気になさらず! こちらこそ城下町まで距離があるのにすみません」
「……」

 結局今日だけはリンクさんがリビングで寝ることで落ち着いたけど、リンクはずっと不貞腐れた顔をしている。人前で不機嫌な態度を表に出すのは珍しいからよっぽど嫌だったのかな……申し訳ない。

 リンクさんにおやすみなさいをして二人で寝室へと向かう。寝室に入り扉を閉めた途端、リンクに後ろから抱きつかれた。

「ナズナ、今日は一緒に寝て。……えっちは我慢するから」
「!?」

 いきなり何言ってるの。リンクさんに聞かれてないよね、今の言葉。もう扉は閉めてあるけど思わずきょろきょろと周囲を見渡した。

「大丈夫だけど……どうしたのリンク、さっきのこと?」
「……」

 リンクはそれに答えずにぐりぐりと頭を私に擦り付ける。これは甘えてるときの仕草だ。

 前に比べてリンクは私に甘えることが多くなった。昔のリンクは誰にも弱音を吐かないし甘えもしなかったから、こうやって定期的に甘えてくれるほうが私としては安心するにはするけれど。
 そういえば、最近リンクがずっと気を張ってるってゼルダが言ってたっけ。リンクさんのことで余計な心配かけさせちゃったのかな……色々我慢させちゃったし、今日は沢山甘やかしてあげよう。

「リンク、とりあえずベッドに入ろう?」
「……うん」

 そう促すとすんなりベッドに入ってくれた。私も一緒にベッドに入り、リンクを抱きしめ背中をさする。この状態のリンクは少し子供扱いするくらいが良いことを私は過去の経験から学んでいる。

「言いたいことがあったら言って良いよ? 話すだけでもスッキリするかもしれないし」
「ゔー……」

 初めはうんうん唸って言いづらそうにしていたリンクだけど、暫くしたらぽつりと話し出してくれた。

「先輩には感謝してるんだよ。今日もずっとナズナを守ってくれてたし……でも……」
「なあに?」
「……いや、何でもない」

 リンクは私に甘えてはくれるのに、相談はなかなかしてくれないから少し寂しい。ちくりと心に棘が刺さったような小さな痛みがした。

「……オレ、昔はどうしてたんだっけ」
「え?」
「あーもう、よく分からなくなってきた……
ねえナズナ、今のオレのことも好き? 昔のほうが良かった?」

 リンクは不安そうな顔で私に尋ねる。本当にどうしたんだろう、今日はいつにもなく情緒不安定みたいだ。
 どっちが好きなんて、私はそんなこと考えたこともない。だってリンクはずっとリンクなんだから。無口になろうと記憶を無くそうと、それは変わらないのに。

「何言ってるの、今も昔も関係なくリンクはリンクでしょ。全部ひっくるめて好きに決まってるじゃない」

 思わずリンクを抱きしめる腕に力が入る。リンクは一瞬驚いたような顔をしたけど、段々と嬉しそうな顔に変わった。

「……ありがと、ナズナ」

 頬を両手で挟まれちゅ、と軽いキスを何度も落とされる。可愛いなあと思ってされるがままにしていたけど、次第に雰囲気が変わってきた。身体をぐいぐいと密着させ、唇を甘噛みされ、熱い視線を注がれて。これはまさか……

「ねえリンク……」
「なに?」
「……当たってる」
「んー……」

 私の言葉などお構いなしにリンクの手がするりと服の中に伸びてきた。

「え、ちょっと待って! 我慢するって言ってたよね? リンクさんもリビングに居るのに……!」
「うん……ナズナごめんね。声、我慢できる?」
「うそ、本当にするの?」

 潤んだ目で見つめられ、私はさあっと顔を青くする。扉一枚隔たれているだけだから、声なんか出したら絶対にバレてしまう。我慢できる保証もないのに。

「だってナズナがオレのこと好きって言うから」
「っ、リンクの質問に答えただけなのに……」

 こうなったリンクは私じゃ止められないことはよく知っている。私は諦めて、リンクさんに気付かれませんようにとただ祈った。



***



 翌朝、リビングに行くと大きな欠伸をするリンクさんが目に入った。目が半開きでまだ眠たそう。昨晩のことを悟られないよう、平常心を保ちながら話し掛ける。

「おはようございます。リンクさん眠そうですね。大丈夫ですか?」
「……おう」

 目を泳がせながら答えるリンクさんはそそくさと私から離れ、リンクの元に行ってしまった。

「……おい息吹、ふざけやがって。寝られなかったじゃねえか」
「知ーらない。オレとナズナが恋人同士って知りながらここに泊まる人が悪いんじゃないの?」
「うわ、当て付けとか子供かよ」
「何とでも言えば?」


 ……聞こえてますけど。
 耳まで真っ赤にしながら頭を抱える。いや、しょうがない。折れた私も悪かったし。背後で繰り広げられる子供の喧嘩みたいな言い争いが耳を通り抜けていく。

 暫くリンクさんと目を合わせられないかも……

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