今、リンクさんと二人で王立古代研究所に来ている。
 様子を見ておいてと頼まれている以上プルアさんには報告しておくべきだと思い、今までの過程を大まかに説明した。プルアさんも初めは驚きこそしたものの、すんなり受け入れすぐに人間姿のリンクさんの調査を始めた。今は丁度ひととおりの検査を終えて一息ついたところだ。

「いやあ、まさか古の勇者だったとはねえ……
それにしても謎だわー。狼クンも何でここに居るのか理由は分からないんでしょ?」
「ああ、気付いたら狼の姿だったからな。また何かあったのかと思ったけど……別にハイラルの危機って訳でもないんだろ?」
「そ。もうガノンは倒したからね。
シーカーストーンはガノンと戦う勇者の為に開発されたワケだから、狼クンもリンクを手助けする為に召喚されるはずだったのは間違いないと思うけど……古代エネルギーが足りてないのになんでこの機能だけ復活したのか……むむむ」

 リンクさんを凝視し二人の話に耳を傾けながら、私は感激と感動で震えていた。
 凄い。神話で言い伝えられている黄昏の勇者様が目の前にいて話をしているなんて。時の勇者様のときは状況が状況なだけあって感慨に浸る暇は無かったけれど、よくよく考えたら大変な事態だ。歴史の証人から直接お話を聞けるのだから。今更ながらふつふつと実感が湧いてきた。
 ああ、今私は凄く興奮している。聞きたいことが山ほどある。隠されていた歴史の謎が明らかになる瞬間に立ち会えるなんて、しかもそれを本人から聞けるなんてこの上ない幸せ……!

「ナズナ? どしたの、ボーっとしちゃって。何か聞くことあるなら聞いときな。アタシの研究のヒントになるかもしれないし」
「えっ!? 私ですか!?」

 突然プルアさんに話を振られ身体が跳ねる。
 聞きたいこと、聞きたいこと……沢山ありすぎてどれから話せばいいものか。とりあえず、リンクさんが私のご先祖様だと聞いてまず思い浮かんだもの――時の勇者様が遺したあの本のことを聞いてみることにしよう。

「あの、リンクさん! 時の勇者様が書かれた本のこと知っていますか!? ご先祖様ならもしかしたら……」
「先代の本!? ってアレのことだよな!」

 私の質問にかなり食い気味で反応するリンクさん。昨日人間の姿に戻ったときもそうだったけれど、リンクさんは時の勇者様に凄く反応する。会ったことがあるような口振りだったから、二人の間にも何かあったのかもしれない。

「知ってるも何も、俺はあの本を読んだから先代に憧れたんだ。でも……俺のいた時代から何年経ってるんだ? よく残ってるな」

 それは私も不思議に思う。まるであの本は時間が止まっているかのように、いつまで経っても綺麗な状態を保ち続けているのだ。
 でも今はその疑問は一旦置いておく。まだまだ聞きたいことは沢山あるのだから。

「あと……時の勇者様にはお会いしたのですよね? どんなことを話したのですか? それに、リンクさんがハイラルを救ったお話も聞きたいです!」
「おう、いいぞ! 長くなるからどこから話せばいいか……」



 盛り上がる私達の話を横で聞きながらシーカーストーンを操作するプルアさん。

「ん? コレ……何だろ」

 ふと何かに気付いたようで、彼女はシーカーストーンの画面を凝視していた。



***



 結局あの後随分と話し込んでしまった。城下町を歩く私たちの足元には長い影が伸びている。

 研究所から帰る前、プルアさんに「調べたいことがある」と言われシーカーストーンを預けてきたので、それが戻ってくるまでリンクさんはこちらの世界に居ることになった。昨日は夜に一度戻っていたから大丈夫だったけど、少しの間リンクさんの寝場所もどうするか考えておかないと。


 それにしても……城下町をリンクさんと歩いていると顔馴染みの店員さんは勿論、通りすがりの知らない人からもどんどん声を掛けられる。そして、それに何一つ嫌な顔をせず笑顔で対応するリンクさんのコミュニケーション能力は一体どうなっているのだろう。
 リンクは城下町では知らない人がいないと言っても過言では無い程の有名人だ。そのリンクとまるで兄弟かのように似ているのだから、話し掛けたくなる気持ちは分かる。ただ……

 ちらりと周囲を見渡すと、リンクさんと目が合ったと思われる女性達が黄色い声を上げるのが見え、思わず小さく溜め息が漏れる。
 それに気付いたのか、リンクさんが不思議そうに声を掛けてきた。

「どうした? 溜め息なんかついて」
「いえ、すみません。リンクの人気を改めて知って、凄いなあって……」
「ああ……確かに凄く聞かれるな。英傑様の兄弟ですかって。なんか息吹宛に贈り物も何個か貰ったし」
「うっ……」

 そう。みっともないけれど、私は嫉妬している。
 リンクにファンが多いことは私も元々知っている。でもリンク自身は女の人に話しかけられても必要以上のことは徹底して何も言わなかったし、お誘いに乗ることも絶対無かった。だからなのか今までは遠目に見ている人がほとんどだったけど……話しかけやすそうなリンクさんを通してリンクに近付こうとしているのか、女の人たちがいつにもなく積極的だ。勿論、リンクさん自身が格好良いこともあるだろうけど。

 それに、そう思ってしまう私の心の狭さが嫌になる。別に女の人全員がリンク目当てという訳でもないだろうに、純粋にリンクさんと話したいだけの人まで疑ってしまうなんて。リンクを独り占めしたいという我儘な自分の心を見せつけられたようで自己嫌悪に陥った。リンクからはいつも溢れんばかりの愛情を貰っているのに、これ以上何かを望むなんて贅沢だし面倒だなんて思われでもしたら嫌だ。

 そんな胸の中の黒くもやもやした気持ちと戦っていたらリンクさんがぽつりと呟いた。

「……ナズナって自分のことには鈍感だよな」
「えっ? どういう意味ですか?」
「いいや、別に。やっぱ似てると思って」

 ……誰にだろう。
 聞こうとしたらはぐらかされてしまったので、釈然としないまま城下町を後にした。

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