※女装ネタです
「リンク見て! ウルボザ様からプレゼントが届いたんだよ」
「ウルボザから? 珍しいな」
オレが帰宅するなり笑顔で出迎えてくれたナズナの手には綺麗に畳まれた淑女の服が。あの旅でオレが持っていたものと色違いの白が基調の服。きっとナズナによく似合う。まあナズナはどの色でも似合うけど、なんて淑女の服を着た記憶の中のナズナを思い浮かべながら話に耳を傾けた。
「ウルボザ様、時間があるときにゲルドの街に遊びにおいでって言って下さったの。今度リンクがお休みのとき一緒に行こう?」
「そうだね。あれからずっと忙しかったし、久しぶりに出掛けてもいいな」
オレは街の中には入れないから残念だけど、ナズナが喜ぶなら途中まででも一緒に付いていこう。それに、この時代にもゲルドの街周辺をうろつく不埒な輩がいるかもしれないし。ナズナの素肌をどこの誰とも知らない男共に晒してたまるか。
そんなオレの胸中など知る由もないナズナはにこにことご機嫌な様子でぎゅっと服を胸に抱えた。
「楽しみだなあ。今度はちゃんとお化粧してあげるからね。何もしなくても女の子みたいだったから、きっと凄く可愛くなるよ」
「え?」
「確かエステもあったよね。あ、でもリンクは男だってバレちゃうかな?」
「ちょ、ちょっと待ってナズナ」
話の内容がまるでオレも一緒に街の中に入るみたいなんだけど。疑問に思って、楽しそうに話すナズナに口を挟む。
「……何でオレも街に入る前提? そもそも服持ってないし」
嫌な予感がするけど一応聞いてみる。するとナズナはきょとんとした顔でさも当然のように言った。
「え、あるよ? ウルボザ様がリンクのぶんも送ってくれたの。ほら」
「な……」
ナズナが指差したリビングのテーブルの上には水色の淑女の服。百年後の世界でオレが着ていたものと同じ色なのは何の偶然だろうか。
思わず硬直するオレに気付いているのかいないのか、ナズナはうっとりした表情で話を続ける。
「あの時よりもっと女の子らしくしてあげるね。折角可愛いのに勿体無いもん」
オレは察した。ここで抵抗しないと絶対に女装してゲルドの街に行くハメになると。
冗談じゃない。オレは顔が知られてるから、もしバレでもしたら何て噂が立つか想像しただけで変な汗が止まらない。あの時堂々と女装してたのはオレを知る人がいなかったからで。しかも記憶が完全じゃなかったせいではっちゃけていたのもあるし。
「っ、あの時は記憶全部戻ってなかったから! 流石に今は騎士としての誇りがあるし誰かに見られたらヤバいし、」
「でもリンクが女装して街に入ったことあるって、一緒に届いた手紙に書いてあったよ」
「ああ゙ー! 違うんだそれは!」
そんなこともあったと今思い出して頭を抱えた。
でもあれはオレから逃げた姫様がゲルドの街に一人で入ってしまったから後を追う為に女装しただけであって。あの時は姫様の身の安全が最優先だったから仕方なかったんだ。そう、決してオレの意志じゃない。任務だ任務。
なんてことを必死に説明するけれど、ナズナはそれを軽く受け流す。寧ろオレが焦れば焦るほどどんどん笑顔になっているのは何故なんだ。
「照れなくていいのに。記憶無かったって、つまり素だった訳でしょ? きっと本心では可愛くなりたいんだよ」
「ちょ、ナズナ、話聞いて?」
「大丈夫だよ、私はどんなリンクでも好きだから。いつも仕事で気を張ってるんだから、たまには素直になっていいと思うの」
ナズナは優しく言い聞かせるようにオレに説く。余りにも確信があるように話すから自分の意志が揺らいできた。頭をぶんぶん振って雑念を払おうとするけどナズナの言葉が頭の中をぐるぐると廻る。
素直になっていい……そうだ、ずっとオレは我慢してきたんだから少しくらい素を出したって良いはずだ。何年も模範の優等生でやってきた。誰にもバレなければ女装くらい……って、あれ? これじゃまるでオレが女装したいみたいじゃないか。
「着るだけ着てみようよ。私も一緒に着てあげるから」
「ぅ……ナズナがそう言うなら……」
「ほんと? よかった、じゃあ決まりね!」
ぱちんと手を叩いて喜ぶナズナ。
ナズナの圧に押されてつい着ると言ってしまったけど……まあ一回着て嫌だと言えばナズナも分かってくれるだろう。うん、そうだ。もう一度着てみたいなんて思ってなんかないから。
――数分後、鏡に映る淑女の服を着た自分の姿に高揚感を覚えるなんてこの時は知る由もなかった。
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