※ 少し複数夢主要素あります。ご注意下さい。




「ナズナッ! 大丈夫でしたか!? リンクから聞きました。私、心配で心配で……」

 はあはあと息を切らしながら駆け寄ってきたゼルダは乱れた髪を直すこともせず、両手で私の手を包む。
 あの後すぐリンクは「報告があるから」とゼルダの元に戻っていった。それからあまり時間が経ってないから、よっぽど急いで来てくれたようだ。

「大丈夫だよゼルダ、リンクが助けてくれたから。それにゼルダも気を利かせてくれてたみたいで……ありがとね」

 あの時本来ならリンクは仕事をしているはずの時間帯だった。ゼルダが何かしら動いてくれたお陰でリンクが助けに来てくれた訳だから、ゼルダにだって感謝してもしきれない。

「そんなこと……! やはりナズナにも護衛を付けさせます。リンクは自分で守ると言ってましたが、流石に無理があります」
「ええっと……それなんだけど、知らせておきたい事があって。ゼルダ、犬は苦手じゃなかったよね?」
「? はい、寧ろ好きな方ですが……」

 狼さんのことはゼルダにも伝えておいたほうが良さそう。でも急に召喚して怖がらせたら悪いから、一応確認を取る。
 ……本当は犬じゃないんだけどね。

 脈絡のない質問にゼルダが首を傾げる中、プルアさんに教えて貰った通りシーカーストーンを操作し狼さんを召喚した。規則的な形の影のようなものを纏い現れた狼さんにゼルダは一瞬驚いた様子を見せたけど、すぐに目をキラキラと輝かせ凄い勢いで喋り出した。

「まあ……可愛い! この子はシーカーストーンの機能ですか? 急に現れましたが、何処かからワープしてきたのでしょうか。ワープだとしたら百年後に使用していたものとは性質が違うように見えますね。シーカー族の技術特有の青い光ではなく黒い影のようなものでしたね、初めて見ました。あのときはこんな機能無かったと思いますが……プルアが発見したのでしょうか? やはりまだシーカーストーンには未知の機能が……」
「ゼ、ゼルダ……その辺でストップ……」

 興奮しながら早口で捲し立てるゼルダを少し引き気味で止めた。でも確かに、目の前でこんな不思議な現象を見せられたら研究者魂が刺激されるのは凄く分かる。

 狼さんをじっくり観察するゼルダの「触っても良いですか?」の言葉に頷くと、ゼルダは狼さんを撫で始めた。
 狼さんはというと、行儀良くお座りをして撫でられながら気持ち良さそうに目を細めている。でも決してお座りの体勢を崩さず、私にしたみたいに飛びかかったりしない。まるでゼルダが偉い立場の人だと分かっているような……この子、何者なんだろう。

「成り行きで暫くこの子が私の護衛をしてくれることになったの。だから大丈夫だよ」
「そうだったのですね。……ここのところリンクがずっと気を張っていたので……少しでも安心できるなら良かったです」
「……そうだったんだ」

 そんな素振り、私の前では見せなかった。きっと私を不安にさせないようにしてくれていたんだろうけど……
 リンクのことが心配になる。リンクは自分一人でなんでもやろうとしてしまうから。昔からそうだった。能力があるぶん、頼らずとも一人で出来てしまうのも理由のひとつなのかもしれない。
 ……でも、もう少し周囲の人を頼っても良いと思う。勿論、私も含めて。



***



「……ナズナ、そいつまだ戻さないの」
「あともう少し! ……わあ、凄い!良い子だねえー! 見て見て、この子計算も出来るみたい!」
「へえー、ふーん……」

 部屋に戻ってきてから、私は調査と称して狼さんとずっと遊んでいた。でもお陰で分かったことがある。この狼さんは凄く賢い。多分人間の言葉は完全に理解しているし、試しに数字を書いた紙で簡単な計算をさせてみたら全問正解していたから。

 よしよしと頭を撫でると千切れんばかりに尻尾を振る狼さんと、それをつまらなそうな顔で見るリンク。つまらなそうなのもあるけれど、どこか警戒しているようにも見える。

「リンクも一緒に遊ぼう? 凄く可愛いし良い子だよ」
「……いい」
「えー、この子もリンクのこと気にしてるみたいなのに」

 部屋に戻るまでに何人かと会ったけど、狼さんが良く反応したのは今のところ私、ゼルダ、そしてリンクの三人だけだった。他の人にはほとんど目もくれないのに、私たちにはじっと観察したり匂いを嗅いだり、何かしら興味を持っている。だからきっと狼さんもリンクと遊びたいんじゃないかと思ったのに、リンクはじっと見張るだけで中々関わろうとしない。

「だってこいつ絶対普通の狼じゃないって! 動物にしてはやけに賢いし……
というかこいつの雰囲気というか気配がさあ、なんかほら……ナズナは気付かない?」
「? 何が?」

 妙に歯切れが悪いリンクに顔を向ける。シーカーストーンから召喚出来る時点で普通の狼でないことは私も分かるけど、古代シーカー族の技術なら不可能ではなさそうなのでさほど気に留めなかった。もう私には特別な気配を感じる力は無いから分からないけれど……リンクは何かを感じ取っているのだろうか。

「時の勇者に似てるんだよ。ナズナにだけ妙に甘いところも」

 "時の勇者"という言葉を聞いた途端、狼さんの耳がぴくりと反応した。そしてくるりと身体をリンクの方に向ける。

「……! ほら、絶対何かある!」

 そんなまさか……と思ったけど、確かにこの子の第一印象は「リンクに似てる」だったことを思い出した。そして何故か既視感があることも。

 もしかして本当に時の勇者様……? いやいや、勇者様はもっと威圧感が凄い人だった。それに人間が動物になるなんて……あれっ、そんな神話があったような。

 そんな事を考えているうちに、狼さんはリンクに向かって歩き出していた。リンクは咄嗟に身構えるけど、狼さんはリンクではなくその隣に立て掛けてあるマスターソードに触れた――その瞬間、眩しい光が部屋を覆った。

「きゃあ!」
「っ……!?」

 私もリンクも思わずぎゅっと目を瞑り、光が収まるのを待つ。
 暫くして恐る恐る目を開くと、そこには狼さん――ではなく男の人が立っていた。リンクに似ているけれど、時の勇者様とはまた違う男の人。そして彼の顔を見てはっと思い出した。ネルドラ様に見せて頂いた遥か昔の記憶――そこに彼がいたことに。恐らく、彼はどこかの時代の勇者様だ。

 空いた口が塞がらないとは正にこの事だろう。突然のこの状況に呆然となる私たちとは対照的に「おっ、戻れた戻れた」なんて軽い調子の勇者様。にっこり笑顔のまま私に近付いて来る、と思ったらリンクが勢い良く私を庇うように立ち塞がった。

「やっぱり普通の狼じゃなかったな、お前。ナズナに近寄るな」

 威嚇しながら勇者様を睨み付けるリンク。しかし、彼はそんな事気にもしない素振りで笑顔のまま話し出した。

「ああそうか、この姿では初めましてだよな。よろしく、この時代の勇者」

 と、手を差し出し握手しようとするけれど、リンクは勇者様から視線を外さず警戒を解かない。そんなリンクの態度に彼は小さく溜め息をつき頭を掻いた。

「そんな身構えんなよ、このナズナは俺の子孫だ。可愛い子孫に手ぇ出す訳ないだろ。
それに俺にはナズナっていう心に決めた人がいるから。あ、勿論俺が居る時代のナズナな。でも分かるぞお前の気持ち。ナズナ可愛いもんなあ」

 得意気な顔で何やら語り始めたけど、私の名前が沢山出てきてなんだか凄く紛らわしい。返ってきた反応が想像と違ったのか、リンクが少し戸惑っている。そんなリンクを余所に、彼は私に声を掛けた。

「ところでナズナ、時の勇者って聞こえたけどもしかして会ったことあるのか?」

 そう言う彼の顔は心なしか輝いて、わくわくしているように見える。

「え? あ、はい……」
「やっぱりなあー。先代、子孫のこと好きすぎだろ。まあでも実際自分の子孫見たら俺も先代の気持ち理解できたわ」

 カラカラと笑う勇者様。そんな彼を私はぽかんと見る。歴代の勇者様のイメージが時の勇者様で固定されているから、こんなにフレンドリーなことに驚いた。
 ……まあ、勇者だからといって必ずしも厳格である必要はないもんね。

「……おい、ナズナがお前の子孫って……本当か?」

 未だ戸惑っている様子のリンクが勇者様に尋ねる。

「ああ。間違いない。ナズナから俺とナズナの匂いがするし。それにしても子孫がいるってことは……つまりそういうことだよな。あんなツンツンしてるのにやっぱり俺と結婚してくれるのかあ。照れ屋さんだなあ、ナズナは」

 なんとも緩みきった顔でデレデレする勇者様。若干リンクが引いているのが分かるけど、私といるときのリンクも正直……そんなに変わらないと思う。

「ま、そういう事で暫くの間よろしくな。俺はナズナの護衛頑張るから。二人とも仲良くしてくれよ」

 勇者様は私たちの肩をぽんぽんと叩いて笑った。私は問題ないけれど……リンクはまだ疑いの目で彼を見ている。

 こうして、私たち三人の奇妙な共同生活が始まった。

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