私の両親は仕事でハイラル中を旅していたから、子供の頃は私によくお土産を買ってきてくれた。その中でも特にお気に入りだったのがスナザラシのぬいぐるみ。ふかふかで丸くて可愛くて、言葉通り肌身離さずずっと持ち歩いていた時期があった。

でもある時リンクと一緒に村の外に冒険に行ったらサンゾクオオカミに襲われて……リンクが追い払ってくれたから怪我は無かったけど、そのぬいぐるみは噛みちぎられてぼろぼろになってしまったことがある。

私はそれはもう大泣きして暫く落ち込んでいた。リンクが謝ったり慰めたりしてくれていたけど、リンクに罪悪感を持たせてしまったことに対して申し訳なくて更に泣いた。昔の私は泣き虫だったから。今となっては子供の頃の懐かしい笑い話だ。



何で今こんな昔のことを思い出したのかというと、目の前の店にスナザラシのぬいぐるみがずらりと並んでいるからだ。どうやら城下町にゲルド地方の行商人が期間限定の臨時店舗を構えに来ているらしい。見たところ雑貨が中心で、ゲルドの街でしか買えないアクセサリーやコスメのほか、子供向けだろうか例のスナザラシのぬいぐるみも陳列されている。

思い出補正のせいもあるだろうが、そのぬいぐるみが非常に可愛らしく思えて仕方ない。ゲルドの街は遠くて滅多に行けるものじゃなかったから、新しいものを買い直すこともできず暫く悲しい気持ちを引きずっていた子供時代の気持ちが蘇ったのだろうか。

でも大人になった今買うのもなあ、リンクも一緒に住んでるから少し照れ臭いし、と店の前でじっとそのぬいぐるみを眺めていたら遠くから「ナズナー」と私を呼ぶ声が聞こえた。声のする方に目をやると、大量の荷物を抱えたリンクがこちらに向かってきている。


「お待たせ、会計に時間掛かっちゃった。何か欲しいものあった?」

「お疲れ様。んー……私の方は大丈夫かな。リンクは凄い荷物だね。ありがとう持ってもらって」

「いいよ、オレの分が殆どなんだから。休みの日くらいは手伝わせてよ」

今日はリンクが非番だから一緒に城下町に買い出しに来ている。食材はいくらあっても足りないくらいなので、リンクに手伝って貰えて凄くありがたい。私だけだとこんなに荷物を持てないから。



あのぬいぐるみに少し後ろ髪を引かれながらも家路に着く。……やっぱり小さいものだけでも買っておけば良かったかな……まあでもきっと一時的な物欲だ、明日には忘れてるだろう。と自分を無理やり納得させようとする。

「あのさ、さっきのぬいぐるみ……あれと似たようなの昔ナズナが持ってたよね」

一人で悶々としていたらリンクからぬいぐるみの話題を出された。たまにリンクは鋭い。こうやって心を読まれてるんじゃないかと思う言動をするからびっくりする。そもそも、あんなに昔の事をまだ覚えていた事に対しても驚いた。

「そうなの。懐かしくてつい見入っちゃった。それにしてもよく覚えてたね、リンク」

「んー、まあね」

聞いてきた割に思い出話をする訳でもなかったリンク。私はそれを特に気にせず陽の傾き始めた空に光る一番星を見上げた。



***



「……無い……」

あれから数日。あの臨時店舗は今日までという話を聞いて、つい気になって見に来てしまった。別に絶対に欲しいという訳では無かったけれど、もし残っていたら買おうかな程度の気持ちだった。でも売り切れならしょうがない。きっぱり諦めるきっかけになった。


「あらそこのヴァーイ、前にぬいぐるみを見てた子ね」

「えっ! ……は、はい」

顔を覚えられていた。それもそうか、あのとき結構な時間ずっと店の前に居たから。……ちょっと恥ずかしい。

「ゴメンなさいね。ぬいぐるみは売り切れちゃったのよ。でも……ふふっ、またすぐ見れるかもね」

「?」

どういう事だろう。城下町に来る予定がまた近いうちにあるのだろうか。疑問に思いつつ店を後にした。



***



翌朝、起きたら枕元に可愛くラッピングされた袋が置いてあった。リンクはにこにこと満面の笑みで私を見ている。

「何これ? ……プレゼント?」

寝る前までは無かったから絶対リンクからのプレゼントだと思うけど、リンクは「何だろうね」なんて素知らぬ振りをしている。とりあえず私宛てで間違いは無さそうなので袋を開けてみると、見覚えのあるものが目に飛び込んできた。

「……っ! スナザラシ……!!」

中身はあのスナザラシのぬいぐるみだった。予想もしていなかった突然のプレゼントに目を輝かせる。行商人さんの言っていた意味が分かった。リンクが買ってくれたんだ。

「ナズナが良い子だったから誰かさんがプレゼントしてくれたのかもよ」

「そんなこと言って。リンクでしょ?」

「さて、どうでしょうか」

そう言ってリンクは私の頭を撫でる。
……嬉しい。ぬいぐるみ自体もそうだけど、リンクが私のために買ってくれたということが。ぬいぐるみをぎゅうっと抱き締めると昔の思い出が蘇る。子供の頃の気持ちが満たされたようでじんわりと心が温かくなった。


「リンク、ありがとう……! 今度は絶対壊さないように大事に飾っておく!」

「どういたしまして。……ねえナズナ、オレにもぎゅってして?」

そう言って笑顔で両手を広げるリンク。私はリンクの胸に飛び込み、ぎゅうっと抱き締めた。

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