「そういえば、この前祠探してたら温泉見つけたんだ。最近ゆっくり出来てないから入りに行く?」
「えっ、温泉!? 行きたい!」
突然のリンクからの提案に私は目を輝かせた。ここ数日、旅が忙しくて水浴びしか出来ていない。身体のあちこちに疲れが溜まっている私には嬉しいことだった。
「よかった。へブラ地方は寒いしデスマウンテンは魔物が多いけど、ここならナズナも安全だと思う」
そう言ってシーカーストーンのマップを見せてくれた。リンクが指差した先はロズウッド山の南方。水場のようなものが写っているけれどこれが温泉なのかな? ヘブラ地方の温泉と違って名前も付いていないことを見ると、人に知られていない場所なのだろうか。私もこんな所に温泉があるのなんて今初めて知った。
「じゃあ、早速出発するよ」
「はーい」
リンクと手を繋いで一緒にワープする。もう慣れたものだった。
***
リンクがワープマーカーを設置していてくれたようで、ワープした先にはすぐ温泉があった。こぢんまりとした温泉だけど、木や岩に囲まれていて秘密の場所みたいな感じがする。丁度物陰になっているし街道からも外れているから、人にも見つからなさそうだ。
「うわあ、素敵! リンクありがとう!」
「どういたしまして。オレは見張ってるから何かあったら言ってね」
「うん、私だけごめんね」
「平気平気。オレは見つけた時に入ったし。まあ、ゆっくりしてよ」
そう言ってリンクは私に背を向け、少し離れた場所に移動した。
子供の頃は一緒にお風呂に入ってたよなあ。木陰で服を脱ぎながらふと思い出す。でも今は大人だから一緒に入る訳にもいかないか。恋人同士とはいえ、リンクは旅の間は私に手を出さないと決めているみたい。何となく今まで旅している中での雰囲気で察した。だから私もなるべくリンクに配慮するようにしている。
身体にタオルを巻き、湯に足を付ける。少しお行儀が悪いが、ここは外だし誰かに見られる可能性がゼロじゃないから許してもらおう。
「んー、……気持ち良い……」
温泉に肩まで浸かると思わず言葉が出てしまった。温泉なんていつぶりだろう。少なくとも100年経ったこの時代になってからは入れていない。ただの水浴びだと疲れも取れないからなあ。今までの旅の疲れをしっかり癒やしていこう。
それにしても良い場所。晴れているのでラネール山やデスマウンテン、更には双子山まで望めるし、小鳥の囀りが心地良く響きリラックスできる。また時間ができたら連れてきてもらおうかな。
ただ、何となく風景に違和感を感じる。温泉の中なのに、ある一部分だけ植物が生えていた。
「……蓮の葉っぱ……だよねえ……?」
しかも綺麗な円形に並んでいる。蓮は水辺でよく見るけれど、温泉に自生できるような植物だったかな。疑問に思いながら近寄ると、ぽんっと音がして小さな生き物が現れた。
「ウワッ! 見つかっタァ!」
「きゃあっ! ……び、びっくりした」
急に出てきたその生き物……いや、精霊か何かだろうか。カランコロンと独特な音色を奏でながら笑っている。葉っぱのお面を付けた精霊……どこかで聞いたことがあるような。
「もしかして……コログ?」
「そうダヨー。キミもボクが見えるんだネェ」
片手に葉っぱを持ち、ふよふよと浮いている。可愛い。「見つかった」ということは、かくれんぼでもしていたのかな。あの妙な蓮の花に隠れていたのかも。
「ナズナッ!? どうした、何かあった――ッ!!??」
先程の私の声を聞きつけたのか、慌てた様子でリンクが駆け寄ってきた……と思ったら顔を真っ赤にして硬直した。それを見て私は自分の格好をはっと思い出す。全裸ではないものの濡れたタオルは身体にぴたりと張り付き、コログと話す為に立ち上がっていたので太腿は晒されている。つられて私もぼんっと顔が赤くなった。
「なっ……! 何でもない! ちょっと驚いただけ! むこう向いてて、リンク!!」
急いで身体を手で覆いばしゃんと温泉に浸かる。しかし私の叫びも虚しくリンクは顔を赤くしたまま私をガン見している。そしてあろうことか、シーカーストーンを取り出しウツシエを撮り始めた……連写で。
「はあっ!? やだ! ばか!! 何してるのリンク!!」
「だって! オレ今ナズナに触るのめっっちゃ我慢してるから!! ウツシエだけは許して!! 後で自分で抜」
「ぎゃーーーっ!!! 知らない知らない!!! ばかばかばか!!!!」
涙目になりながらリンクにお湯をばしゃばしゃ掛ける私とそれに動じず撮影し続けるリンク。静かな山に響くぎゃーぎゃーという声。その一部始終をコログがカラカラと笑いながら見ていたのだった。
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