「暑い……リンク、まだかな……」
外はじりじりと焼けるように強い陽射しが照り付けている。私は宿の中でヒンヤリメロンを噛り、暑さを紛らわせながらぼんやりオアシスの水辺を眺めていた。
私は今、カラカラバザールでリンクの帰りを待っている。北ゲルド巨石の辺りに祠の光が見えた、という事で一人で探索に向かったのだ。出掛けたのは朝方だったが、今はもう正午過ぎ。一日の中で最も暑い時間帯に差し掛かるがリンクは大丈夫だろうか。額に滲む汗を拭い、再びヒンヤリメロンを口に運ぶ。
私の故郷であるハテノ村はラネール山の麓ということもあり、年間通して比較的寒冷な気候だ。そのため私は砂漠のような極端に暑い場所は苦手である。しかも夜になると昼間と打って変わって気温が氷点下まで下がるのだから、それに合わせて様々な防寒、防暑対策をしなければならないので正直面倒臭い。一応サファイアの頭飾りをリンクが貸してくれてはいるが、暑いものは暑いのだ。
「ナズナー? 戻ったよ、お待たせー!」
そんな事を考えていたらリンクが帰ってきたようだ。宿屋の外から呼ぶ声がする。はーい、と言いながらリンクの元に向かう。
「リンクお帰りなさい。暑かったでしょ……っ!」
そこで私が見たものはゲルドの民族衣装を着たリンク。でも前に見た淑女の服ではない。何だか凄く色っぽい……男性用の服だった。
「なんか砂嵐が酷くなっちゃってさ。折角祠があるけどあそこは後回しだな」
リンクは身体に付いた砂を払いながら話す。しかしその話の内容は私の耳を通り抜けていった。鍛えられた胸板、割れた腹筋。そこに目がいってしまう。服を着ているとあまり目立たないけれど、リンクはちゃんと鍛えられた大人の男の人の身体をしている。騎士なんだから当たり前のことだと思う一方で、大人になって初めて目にするリンクの身体に胸が高鳴り、妙な興奮を憶えた。
何だか凄く――
「格好いい?」
「っ!!!!」
心を読まれたかと思った。見惚れていたら、悪戯な笑みを浮かべたリンクに顔を覗き込まれ心臓が飛び跳ねた。高い位置で髪を結っている為、露わな首元がよく見える。色気が凄くてくらくらした。
「べっ、別に筋肉のラインが綺麗とか色気が凄いとか思ってないし!! ………あっ」
「――へえ。ナズナはそんな事思ってたんだ」
反射的に反論した筈だったのにうっかり本音が出てしまった。阿呆なのか私は。リンクは凄く嬉しそうににやにや笑い、「ナズナは可愛いなあ」と言いながら両手で私の頭と頬をわしわしと撫でる。犬じゃないんですけど、と言おうとした時ふとリンクの身体が古傷だらけなのに気付いた。近付かないとよく分からない程度には治っているけど、尋常じゃない数の傷跡。
「リンク、この傷跡って……」
「ああコレ? ガノンと闘った時の傷跡ってロベリーが言ってたかな。オレは覚えてないけど」
こんな傷も治せるなんて凄いよね、といつもと変わらない調子で言うリンクとは裏腹に、私は心がぎゅうっと苦しくなった。100年前、リンクは死んでもおかしくない闘いをしていた。それは確かな事実。頭では分かっていたつもりだったけれど、実際に傷跡を見ることで現実を突き付けられた気がして怖くなった。でもそれ以上に、今ここで二人とも生きているという奇跡に愛おしい気持ちが湧いてくる。
「……リンク、生きててくれて……ありがとうね」
リンクの傷跡を指でなぞりながらぽつりと呟くと「……うん」と優しい声が返ってきた。
*
「……あの……ナズナ」
暫くそうしていたら、リンクの声が降ってきた。何だろうと見上げると、片手で口元を抑えたリンクが真っ赤な顔をして気まずそうに言った。目が泳いでいる。
「一応聞くけど……これ、誘ってる訳じゃない……よね? オレ、そろそろヤバいんだけど」
「誘う? 何を――」
そこで意味に気付き私の顔もぼっと赤くなる。さっきからずっと私はリンクの身体をさわさわと触っている。しかも上半身ほぼ裸のリンクを。こんなの勘違いされてもおかしくないじゃないか。
「ちがっ、違う! 違うのリンク! これはっ、つい……ごめんね! あっ、嫌とかそう言う意味じゃなくて!」
「分かってる……分かってるよナズナ。積極的なナズナも凄く可愛いけど……まだオレ我慢する……から……」
涙目でパニックになる私を、リンクは理性を抑えるのに必死になったまま宥めてくれた。
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