「そういえばナズナって何でリーバルの事だけ呼び捨てなの?」

シーカーストーンを弄りながら私に問い掛けるリンク。今はゼルダが撮ったウツシエとマップを交互に見ながら次に向かう場所の検討をつけている所だ。パッと見て分かる場所もあるけれど、景色から推測しておおよその方角までしか分からないものも多い。地理的な事は記憶を無くしているリンクよりも私の方が詳しいため、一緒にウツシエの地を探している。

「確か初めて研究でリトの村に来たときにリーバルに会って……歳も近いしまだ英傑に選ばれるずっと前の事だったから、そのまま呼び捨てにしてる。今更呼び方変えるのも恥ずかしいし」


初めてリーバルに会った日のことは今でも覚えている。力強く、しかし華麗に空を舞う姿。弓を構え矢を射ればそれは必ず的の中心を射抜く。その一連の動作はまるで芸術だった。リト族に会うこと自体めったに無かった当時の私は、それは夢中になってリーバルの弓術に見入っていた。こんなに美しく舞うあの人は一体どんな人なんだろうと、今でいうリーバル広場に降り立った彼にわくわくしながら話しかけたら「君、さっきから気が散るんだけど」と辛辣な言葉を返された。
でも、それ以降私がリトの村に行った時は何だかんだ弓術を見せてくれたり話しかけたりしてくれていたので、多分嫌われてはいない……と思う。ずっと口は悪いけれど。


「でも急にどうしたの? リンクがリーバルのこと聞くの珍しいね」

リーバルがリンクを挑発するのはいつもの事だったけど、リンクから歩み寄ることは無かった気がする。まあ、リンクは誰に対してもそうだったか。

「皆との記憶を段々思い出してきて、色々知りたくなったんだ。それにナズナは他の英傑には様とかつけてるのに一人だけ呼び捨てだから何か理由があるのかと思って」

「あぁ……それはトラウマがあるから……」

遠い目をして思い出す。小さい頃の話だけど、ゼルダに馴れ馴れしく話しかけて侍女さんに怒られた記憶。その時の般若のような侍女さんの顔は子供の私には刺激が強すぎた。そんな経験があるので、特に王族のミファー様と族長のウルボザ様には必ず様呼びしている。ダルケルさんは単に年上だし、堅苦しいのは嫌と言われたから。もし英傑になった後に初めてダルケルさんに会っていたら、彼のことも様で呼んでいたと思う。

そんな内容を話すと「ナズナは昔やんちゃだったもんね」とリンクに笑われた。
……リンクのほうが私よりやんちゃだったじゃないか。

「オレが知らないナズナの話、もっと聞きたいな。大人になってからはあんまり話せてなかったし」

「それなら私だって。好きな人の事は色々知りたいよ」

私が発した言葉にリンクは目を見開き動きを止めた。どうしたのと声を掛けると、正気に戻ったリンクは嬉しさを噛み締めているような悶えているような、今まで見たことない顔をした。

「ナズナがオレに好きって言ってくれたの告白の時以来だよね。……やばい、めちゃくちゃ嬉しい」

……そういえばさっき「好き」って言ったかも。
言われてようやく気付く位には完全に無意識だった。リンクの「好き」に対して、自分からはありがとう、とか私もだよ、とか返すだけであの時以来直接好きとは言えていなかったのに。何せ恥ずかしい気持ちが強すぎたから。ぽろりと言葉に出てしまうほど私の頭は好きに侵食されていたのだろうか。目の前のリンクはにやにや笑っている。それはもう昔のやんちゃなリンクのように。
その日は一日「もっと言って!」とずっとリンクに付き纏われたのだった。

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