鼻腔をくすぐる良い香りが辺りに立ちこめる。その香りの中心には料理鍋。鼻歌を歌いながら、リンクはコトコトと煮える鍋をオタマで掻き混ぜている。


今、私達はリトの村に滞在している。既にメドーは解放されているが、私が調査のため立ち寄りたいとリンクに頼み連れてきてもらった。リトの村には古の勇者に関係しそうな歌が複数言い伝えられている。兄弟岩と巨塔の歌、それに大きな一本杉のお話。三つも収穫があり満足したところで昼食をとることにしたのだった。

二人で旅をしている時は基本的にリンクが食事を作ってくれている。リンクは料理の手際が良くて羨ましい。色んなレシピを知ってるし、難しい料理も直ぐに作れるし、何よりすごく美味しい。私も料理出来なくは無いけど、簡単なものしか作れないから素直に尊敬する。

そして今日は二品作ってくれるそうだ。先程完成したミートパイは既に綺麗に皿に盛られている。今は何を作っているんだろう。フレッシュミルクとフルーツを何種類か入れていたから、デザート感覚のスープだろうか。嗅覚と視覚が私の食欲を唆った。



「ーーよし、できた! お待たせナズナ。ハートミルクスープだよ」

「うわあ、ありがとう! 美味しそうだし可愛い!」

出来上がったスープを器に盛り付け手渡される。マックスラディッシュの切り口がハートの形をしていて見た目が可愛らしい。初めて見る料理だけど、どこでこういうレシピ覚えてくるんだろう。


二人揃っていただきますと食べ始める。
――うん、美味しい! 流石リンク。
ミートパイの肉は臭みも無く食べやすい。私は野生動物の狩猟も解体も上手くできないから、こんなに美味しく処理できるなんて凄いなあ。それにリトの村は少し肌寒いのでスープは身体が温まる。フルーツだけの甘味で、くどくない優しい味がした。
リンクに「美味しい?」と聞かれたので「うん!」と返したら嬉しそうに微笑んだ。



「あら、良い香りがすると思ったらリンクさんだったのね」

食事をしているとリト族の女の人に部屋の外から声を掛けられた。軽く会釈をすると「ハミラさんって人だよ」とリンクが教えてくれた。

「貴女が例の恋人さんね。それにそのスープ……ふふっ。リンクさん、これからも彼女の為に美味しい料理を作ってあげてね」

「勿論です。ナズナはオレの料理を凄く美味しそうに食べてくれるんですよ。作り甲斐があります」

少しドヤ顔で言うリンクにハミラさんはくすりと笑った。リト族の女性は歌に秀でているだけあって、笑い声も凄く綺麗。さえずりのような心地よい声が辺りに響く。それを聞きながら、"恋人"という言葉に赤らむ頬を誤魔化す為にスープを口にした。


ハートミルクスープは二人で一緒に食べると仲が良くなる――私がそんなジンクスを知るのはもう少し後の事。

back

×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -